この記事をまとめると
■エンジンオイルにはさまざまな数字が振り分けられている
■数字が少ないと粘度が低くサラサラで大きいと粘度は高くドロドロになる
■燃費対策として住んでいる地域や気候に合わせてオイルを選ぶのも有効だ
潤滑以外にもあるオイルの役割
みなさんは愛車のオイル交換をどうしていますか?
とあるメディアの調査結果によれば、自分で愛車のオイル交換を行うという人は、全体の3割弱となっています。
昨今は交換の方法を紹介するブログや動画配信サービスがあるので、以前よりも気軽にオイル交換にトライしやすい状況もあると思いますが、これを意外と少ないと見るか、多いと見るかは自身が行っているかどうかによるかもしれません。
そして、いざオイル交換を行おうと思った際に、その方法とともにオイルの種類や性能を、愛車のエンジン性能に合わせて選ばないとなりません。
そこでキーになるのが「10W-40」や「20W-50」という暗号のような表記です。
売り場では「オイルの粘度を表しています」と紹介されていますが、それがよくわからないという人も少なくないのではないでしょうか。
ここでは、オイルの粘度表記は何を表しているのかということをカンタンに解説していきます。
■まずはオイルの役割を知っておこう
クルマのエンジンオイルの役割は、「潤滑」だけだと思っている人も少なくないのではないでしょうか。エンジンオイルの役割の大部分は潤滑だということは間違いないのですが、そのほかにも大事な役割があるんです。
まず潤滑について。エンジンのなかでは、ピストンを始めとするさまざまな金属部品が動いています。部品が動くと、部品と部品の間には摩擦が発生します。
その摩擦による摩耗や損傷を防ぐために潤滑の役割は欠かせません。
続いての役割は「冷却」です。エンジンは燃焼によって出力を得ています。
燃焼すると高熱を発しますが、そのまま稼働させ続けると熱がどんどん高くなり、エンジンの金属部品に不要な膨張やダメージを与えてしまいます。その熱を奪って放熱するところに運んで温度を下げるのも、エンジンオイルの大切な役割となっています。
また、「気密性の保持」も大切な役割のひとつです。エンジンの摺動部分には、温度変化による膨張を考えてすき間が設けられています。
低温時は、たとえばピストンとシリンダーの間の空間が大きくなっています。そのまま始動させると、圧縮や燃焼の圧力がクランクケース側に逃げてしまい、作動に支障が出てしまいます。
エンジンオイルはこのすき間に入り込んで気密性を保持しているんです。
そして、「洗浄」もエンジンオイルの役割の大事な部分です。洗浄といっても洗剤で洗うようなものではありません。
エンジンのなかでは燃焼が行われていて、その際に燃えカスが発生します。また、温度の変化によって空気中の水分が結露します。それらがエンジンのなかに残っていると大事な潤滑の妨げになるので、それらを吸着して取り除くのが洗浄の役割です。
吸着した不純物はオイルフィルターを通過する際に漉されてまたキレイな状態となってエンジンの各部に送られていきます。
■オイルの粘度表記は何を表しているのか
さて、ここからエンジンオイルの粘度についてのお話です。
まず始めに、「粘度」というのはオイルの流動性を示す言葉です。言葉ではちょっと難しいですが、要は数字が少ないと粘度が低くサラサラで、数字が大きいと粘度は高くドロドロになります。
粘度が低いことを「柔らかい」、高いことを「硬(固)い」と表現する人もいます。
斜面に垂らしたときにすーっと流れていくのが低粘度で、ゆーっくり流れるのが高粘度です。
エンジンオイルには、用途に応じて粘度の違うものが用意されています。ここで今回の主題、数字と記号が合わさった例の文字列について解説します。
ここでは「10W-40」を例に話を進めていきましょう。
ハイフンを挟んで両側に数字とアルファベットが配置されています。頭にWが付いた2桁の数字は「低温時の粘度」を表しています。ちなみに「W」は「Winter(冬)」の頭文字です。
通常のオイルは主に0/5/10/15/20/25の6つにわけられています。
この数字は一定の温度における粘度を表したものと勘違いしている人も少なくないと思いますが、正しくは「外気温が○○度の状態まで対応している」という数字になります。具体的な数字は下記のとおり。
0W:−35℃
5W:−30℃
10W:−25℃
15W:−20℃
20W:−15℃
25W:−10℃
数字は「グレード」を表しているので、温度の数字とは関係無いのがややこしいですね。
ともかく、数字が低いほど低温に耐えられるということです。そのため、豪雪地域など気温が0度を大きく下まわる地域では、グレードの数字が低いほうを選ばないとオイルが固まってしまい、始動が困難になってしまいます。
逆に西のほうの温暖な地域では、数字の大きいものを選んでも固まる心配がありません。もちろん、数字が小さいものを使用しても何ら影響がないので、温暖な地域ではそれほど前半の数字は気にする必要はないでしょう。
そして、ハイフンから後の2桁の数字は「高温時の粘度保持性能」を表しています。
こちらもグレードに応じて数字が割り振られていますが、こちらは主に8/12/16/20/30/40/50/60の8つにわけられています。
ややこしいのが、この数字は低温側に対する高温側の対応幅と捉えてしまいがちなことです。
この後半の数字はオイル自体の基本粘度を表しています。耐熱温度ではないということに注意してください。オイルの耐熱温度はその配合などによって異なりますが、油温の上限は130度といわれていて、それを越えるとエンジンが耐えられなくなる可能性が高くなります。
高温側の粘度というのは、メーカーによって基準がやや異なりますが、常用域の高い側である油温が85〜90度の間の温度を基準に算出した粘度となっています。
この温度域でどれくらいの粘度≒油膜保持性能を維持できるかという基準がその数字というわけです。なので、オイル自体の基本粘度はこちらの数字といっていいでしょう。
■粘度はどうやって選べばいいの?
間違いのない基本的な考えはメーカーの推奨するオイル粘度を選ぶということでしょう。設計時の部品のクリアランスなどはその粘度を基準としていますので、まずそれが前提になります。
なのでここからは一般の傾向の話をしていきます。
粘度表記を見たときにまず頭の数字に引っ張られてしまう傾向もあると思いますが、先述のように基本は後半の数字のほうです。
標準は30か40を選んでおけば外さないと思いますが、猛暑の時期に険しい山道を走ったり高速道路を連続で走行するのが多いようなときや、サーキット走行をするとき、あるいはエンジンをチューニングしたときなどは粘度が高いものが必要になることが多いと思います。
また、昨今の低燃費車に搭載されるエンジンは、クリアランスを突き詰めて低フリクションの設計がなされているものが多く、オイルにも抵抗の低さが求められるため、粘度が低いものを指定するケースも少なくないでしょう。
年に2回のオイル交換を習慣にしているという人も少なくないと思いますが、その場合は暑い時期用に少し高粘度のものを、寒い時期用に低粘度のものを選ぶのもアリだと思います。
そして、それをベースにして低温時の粘度を選択していきます。こちらは主に始動時とその直後のことを考えて選択します。主に冬場への対応が中心になるでしょう。
先述のように平均で零下になる地域はその気温に合わせてグレードを選びます。このとき、大は小を兼ねる理論で「よくわからないから0Wを買っとけばOKでしょ」という考えはある意味OKだと思います。
ただし、低温時の特性を高めるためには添加剤などの調整成分を配合する必要があり、基本の潤滑性能にもわずかながら影響します。価格にも反映されるので、その点も踏まえて選んでください。
最後に注意点をひとつ。
低燃費車が指定する低粘度のオイルで高温時に高負荷高回転の走行を連続で行うような場合、設計時の想定を越えてしまうことが考えられます。粘度の低下による油膜切れの恐れを考慮して高粘度のオイルに入れ替えるなどの対策を考えたほうがいいでしょう。