この記事をまとめると
■クルマのカスタムにはさまざまな手法が存在する
■それぞれのカテゴリーによりベース車選びも追求する場所も異なる
■ジャンル別の特徴を解説する
時代とともにカスタム文化も多様化
その昔、改造車といえば「車高短、竹ヤリ、出っ歯」のフレーズで認識されていた、いわゆる「族車」を思い浮かべる人がほとんどだった時代がありました。
それから数十年が経過する間にいろいろと時代が移り変わり、さまざまなカルチャーや国外の流行などを取り入れたりして変化を遂げ、その都度新しいスタイルが誕生してきました。
いまでは「○○系」というジャンルが多く生まれ多様性が進んでいて、単に「カスタム車」とは一括りにできない状況となっています。そのため、あまり詳しくない人が見たら、「これって○○系だと思っていたけど、違うの!?」なんていう会話のシチュエーションもけっこう見かけます。
ここではそんな乱立の気配もあるカスタムのジャンルについて、低車高のカスタムを中心にそれぞれの特徴をざっくりと説明していきたいと思います。
■カスタムのキホンは「シャコタンツライチ」
カスタムのジャンルはさまざまありますが、そのほとんどに共通する、「まずはこれをやらなきゃ始まらない」というセオリー的な要素があります。
そのひとつが「車高短」です。クルマ、とくに乗用車系は車高を下げることで単純にカッコよくなるという法則があります。いやむしろ“原則”といっていいかもしれません。「カッコよくしたかったら、まず車高を下げてみろ」というのを覚えておいてください。
そしてもうひとつが「ツライチ」です。ツライチとは同じ面に揃えるという意味の言葉で、ここで言うのはフェンダーとホイールの面を揃えることを指します。つまり、フェンダーに当たらないギリギリまでホイールを外に寄せることです。これも車高短といっしょで、単純にカッコよく見えるようになります。
何なら「車高短」+「ツライチ」でカスタムの下地作りはほぼ完了といっていいかもしれません。このふたつで見違えるようにカッコ良くなるでしょう。
以下のカスタム紹介はこのことを踏まえて見てください。
■VIP(VIPカー)
このスタイルが全盛だったのはいまから30年ほど前でしょうか。
セルシオやマジェスティ、クラウン、シーマ、セドリック/グロリアなどの国産高級セダンをベースにして、先述の「車高短」+「ツライチ」をキホンに、「ロリンザー」や「ブラバス」などのユーロ・カスタムスタイルを意識して「ワル味」を加えて仕上げたクルマが「VIP(カー)」です。
往年の暴走族の車高短車からの流れを汲んでいるという見方もあるカテゴリーで、全盛期には”ソッチ”上がりの人がチラホラ見受けられました。いまでは逆にそういった方たちは少なく、純粋にこのスタイルに惚れて愛車をカスタマイズしている熱心なファンが多い印象です。
外観の仕上げとともに、オーディオのカスタムに相当力を入れた車両も多く登場しました。
■スタンス系
車高短の魂を受け継ぐもうひとつの流れが「スタンス系」と呼ばれるカスタムスタイルです。
「スタンス」とは「Stancenation(スタンスネーション)」の略で、もともとはアメリカ西海岸で生まれたカスタム系メディアで取り上げる車高短系のいちスタイルのことを指します。
対象の車種は日本車が多い印象ですがとくに決まりはなく、皆思い思いの車種をベースに改造を楽しんでいますが、押さえなければならないポイントは足まわりです。
キーになるのは「ホイールのチョイスと収まり具合」、「車高の低さ」、「エアロのコーディネート」です。
大きな「スタンス系」という括りのなかには、とにかくワイド&ローを極めるタイプや鬼キャンにこだわるタイプ、日本車をベースにエンジンルームのシンプル化(ワイヤータック&シェイブドベイ)を進めるタイプ、あるいは旧車をベースに渋い路線で作り上げるタイプなど、いちいちジャンル分けしていたらキリがないくらいに多様なスタイルが展開されています。
この「スタンス系」がこれまでのジャンルと違うのは、それだけさまざまなスタイルが混在しているにもかかわらず、ほかのスタイルでもとにかくカッコよければ賞賛するという垣根のなさでしょう。
■スポコン系
「スポコン系」とは「スポーツコンパクト」の略で、小柄な日本車をベースにしてエンジンのチューニングや大径ホイールの装着、「バイナル」と呼ばれるボディのラッピング+アンダーネオンの装着などを行うスタイルのカスタムです。
単純にいってしまうと、「日本車」で「大パワー化」+「派手な外装」というスタイルです。
発祥はアメリカの西海岸で、そのスタイルを扱った映画「ワイルドスピード」のヒットでアメリカ全土に広がり、ヨーロッパや日本でもそのスタイルを楽しむ人たちが生まれました。
いまでは当時ほどの勢いはなくなってしまいましたが、スタンス系のイベントでちらほら見かけることがあります。
■ドリ車(ドリフト系)
この「ドリ車」は、車両を見る限りは上記の「スポコン系」に近いテイストも感じられますが、その成り立ちは異なります。こちらはあくまでもドリフト走行をカッコよくキメるための車両ということがキホンです。
まず、ドリフトをメイクしやすくするために足まわりを改造します。白煙モクモクでアピールしたいタイプはターボエンジンで大パワーを絞り出す改造を行い、その一方でドリフトアングルの深さやコーナー間の繋ぎをキレよくまとめたいタイプは足まわりへのこだわりをカタチにするなど異なる方向性があり、そのスタイルが外観にも現れる傾向があります。
走りがもっとも優先するポイントではありますが、ショー的要素が強いことから外観の仕上げにも力を入れているケースが多く、車高をできるだけ低く見せたり、カラーリングでアピールしたりするのも楽しみのひとつになっています。
発生はストリートですが、いまでは主戦場がサーキットに移ったため、カスタムの度合いがエスカレートする傾向もあります。
■ローライダー
こちらはかなり歴史が古く、発祥は1940年代のアメリカ西海岸とされています。
「ローライダー」とは「lowrider」と書き、「車高の低いクルマあるいはその乗り手」という意味合いのようです。2輪も4輪も含み、その呼び名のとおりにフロアを接地させるほど低く下げるのがこのカスタムのキホンです。
速さは重視しておらず、むしろ大柄な車体を地面すれすれでゆっくり流すように走ることがカッコイイとされていたようです。
この車高の低さを競い合うなかで「ハイドロ」と呼ばれる油圧の車高調整機構が生み出され、それが発展してフロントを高くホップさせたり、対角線上のタイヤが浮き上がる斜め立ちをキメるなどのスタイルが派生しました。
日本では完全に「車高短」のスタイルが根付いていたためか、国産車をローライダーと呼ぶことはほぼありません。一部のアメ車好きが現地そのままのカスタム車両を乗りまわすなどしていましたが、ブームというほどには広まらなかった印象です。