この記事をまとめると
■「Honda 0 Tech MTG 2024」にてホンダが最新技術を発表
■パワーユニットやボディ骨格に関する技術説明が行われた
■既存のクルマをベースに最新技術を投入した試乗車に乗る機会が与えられた
最新技術の投入で軽量化と操縦安定性を追求
2026年より世界各国での市販化が予定されている、ホンダの新たなBEV「Honda 0(ホンダ・ゼロ)」シリーズ。
10月初旬に四輪/BEV開発センター栃木および隣接する四輪生産本部で開催された「Honda 0 Tech MTG 2024」では、その「Thin, Light, and Wise」(薄い、軽い、賢い)を具現化する新技術の数々が公開された。
前回の記事ではそのなかから、駆動用バッテリーの薄型軽量化や、ボディの軽量化に寄与する生産技術を紹介したが、今記事ではパワートレインやボディ骨格など、走りに関する新技術をリポートするとともに、それら新技術が実装された試作車の試乗インプレッションをお伝えしたい。
パワーユニットでは、モーター、ギヤボックス、インバーターを一体化させたeAxleを、メインユニットとなる180kWタイプと、サブユニットとなる50kWタイプの2種類設定。これらを自在に、たとえば前後とも180kW、フロントは50kWでリヤは180kW、フロントには搭載せずリヤにのみ180kWを搭載、といった形で組み合わせることにより、180〜360kWのシステムに対応可能とした。また、50kWに関してはリヤに搭載しフロントのハイブリッドユニットと組み合わせることでe-AWDとすることも想定している。
これらのハードウェアに関しては、これまでのハイブリッドカー開発で培われた技術を継承することにより、エネルギー損失を他社比で17%低減したとしているが、それ以上に重要と思われるのは、インバーターの同40%小型化だろう。
従来のeAxleではインバーターを上部に配置するのが一般的だが、「0」シリーズ用eAxleではインバーターの40%小型化によりeAxleの上ではなく横への配置が可能に。これによりeAxle全体の高さを下げ、室内空間を30mm拡大することができるようになった。
しかも、前後にeAxleを搭載する場合は、フロント駆動用のインバーターをフロントではなくリヤのeAxle横側に搭載。リヤ駆動用インバーターの上に搭載することで、AWD化による室内空間の減少を抑えている。
ボディ骨格に関しては、eAxleの小型化により前後の衝突ストロークが拡大するとともに、フロントではサイドメンバー上部中央に板状の部材を追加することが可能になった。これにより、とくスモールオーバーラップ衝突時の入力を回転方向に変え、横方向に逃がすことで、キャビンへの入力を低減。他社比で10%のオーバーハング短縮と合わせて軽量化も図れるという。
さらに、引っ張り強度が2.0GPa(ギガパスカル)級と極めて高いホットスタンプ(熱間成形)材を、ホイールベース間のフロア骨格に用いることで、衝突時にキャビンやバッテリーの変形を抑えるとともに、断面高さを28mmにまで下げ、全高1400mm以下の低全高パッケージに対応しつつ、乗降性の改善も図っている。
そして、もっとも画期的なのは、「つながり感指標」という新しい指標を用い、旋回時に外輪を押すようボディをあえてしならせることで、外輪タイヤの接地荷重を高め、軽量化と軽快な走りを両立させることを目指した、ホンダがいうところの「操安剛性マネジメント」だ。
これにより、ストラットタワーバーのようなサスペンション取付部などへの補剛部材が不要となり、従来のホンダ車に対し約10%の軽量化が可能になるというが、その具体的な手法は残念ながら、今回は明らかにされていない。
だが、同社説明員は、「足まわりだけではできない、ボディならではのコントロールが、とても走りに効くことが、我々のノウハウの積み上げにより明らかになりました。我々はボディ剛性をチューニングしながらクルマを作っていますが、足まわりのチューニングだけではどうしても作り込めない領域が出てきます。それがなぜかを蓄積していって、ボディの前と後ろの剛性バランスをどう取って動かせば足まわりが綺麗に動くかを、データと実機でコツコツ積み上げたものが、『つながり感指標』のノウハウになっています」とだけ、そのヒントを語ってくれた。
プロトながら常識を覆す走り
シャシーにおいてはステア・バイ・ワイヤを採用し、サスペンションやブレーキなどのバイワイヤデバイスとも統合制御。さらに、3次元ジャイロセンサーを用いた姿勢推定&安定化制御、モーターならではの緻密なトルク制御を組み合わせることで、荒れた路面でも舵角や挙動が乱れにくく、またタイトなコーナーでも少ない舵角で旋回することを可能にしている。
なお、展示されていたベアシャシーのサスペンションは、フロントがダブルウイッシュボーン式で、リヤがマルチリンク式。前後ともエアサスペンションとなっていたが、市販モデルではコイルスプリングと電子制御式油圧ダンパーとの組み合わせも計画されているようだ。
では、これらの技術が盛り込まれたクルマは、どのような走りを見せてくれるのだろうか。今回のイベントでは、新型アコードまたはCR-Vの内外装に「0」シリーズの技術を組み合わせた試作車が用意され、栃木プル−ビンググランドの一部で試乗することができた。WEB CARTOP編集部が試乗できたのはCR-Vのほうだ。
新型CR-Vの市販モデルでも全幅が1865mmに達し、それをさらにワイドトレッド化した試作車に乗ると、出入り口が非常に狭く、かつ80km/hまでの加速が許されたメインストレート以外は凹凸の多いタイトコーナーが続く試乗コースが、より一層狭く感じられる。
そのため、走り始めた直後はゆっくり慎重に走らざるを得なかったのだが、最初の左コーナーに進入した瞬間、それがまったくの杞憂だったことに気付かされる。全高約1700mmのSUVスタイルながら、重心はその数値よりも遥かに低く感じられ、ターンイン直後から立ち上がりまで少しも不安を覚えない。しかも、イン側の大きな凹凸に乗り上げても、路面からの入力を綺麗にいなしてくれるため、挙動が乱れる予兆はまったく見られず、突き上げも極めて軽微で、快適な乗り心地だった。
コースの中ほどでは、左25R→右20Rの非常にタイトな複合コーナーが現れるものの、この試作車はステアリングをもち替えることなく軽快に、かつ穏やかなロールを伴いながら揺り戻しがなく、抜群の安定感でクリアすることができる。これならば一般道の交差点でも、ステアリングをもち替えずに左折できるだろう。
その後は比較的緩いS字コーナーが続いたが、わずかな舵角とアクセルのコントロールだけでスムースに通過。モーターのトルクの出方はアクセルペダルの踏力に対しレスポンスよくリニアで、かつアクセルオフ後の回生ブレーキも強すぎず弱すぎず唐突感もない、非常に扱いやすいものだった。
この走りを実現するために、ボディをしならせるのみならず、前後モーターのトルク、前輪の舵角、サスペンションやブレーキなどを極めて緻密に統合制御しているのか、いかにも制御しているような唐突で不自然な挙動あるいは操作感覚の変化は、運転していてもまったく感じられない。
だからクルマの車両感覚をつかみ、走行コースを覚えてしまえば、自信をもってコーナーを攻めることができる。そのため2周目以降は純粋に、その軽快で意のままに操れる走りを楽しみ、運転に集中することができた。
現時点でこれほどまでの完成度に仕上がっているのであれば、2026年に「サルーン」の市販モデルを発売するという計画が、極めて現実的なものに思えてくる。果たして公道ではどのような走りを見せてくれるのか、それを試せる日がいまからもう待ち遠しい。