事故のときに「国産車は変形」「輸入車は変形しにくい」という噂は都市伝説? 最新の安全への考え方とは

2024.08.22 11:50
この記事をまとめると
■先進安全技術の採用などによって交通事故の数や死傷者数は減少傾向にある
■最新の国産車と輸入車はどちらもクラッシュテストによるボディの変形は少ない
■国産車が輸入車との事故の際大きく変形するのは重量が関係しているといわれている
国産メーカーと海外メーカーのクルマ作りの違いとは
  世界中の自動車メーカー&ユーザーの願いは「交通事故がゼロになる」ことだろう。そのために障害物や車両、そして歩行者などを検知して自動的にブレーキをかける衝突被害軽減ブレーキなどの機能は日々進化している。
  それでも衝突してしまうような事故も数多く発生しているわけだが、ボディについても衝突安全性能は向上している。警察庁の発表している交通事故に関する統計においては、死亡交通事故における「状態別死者数」の推移を見ることもできるのだが、自動車乗車中の死亡者を2014年と2024年の上半期(1~6月)で比べると、2014年は689人だったのに対して、2024年は399人となっている。
  前述した先進安全機能などによって、そもそも重大事故が起こりづらくなっているだとか、各種の啓蒙によってシートベルト装着率が高まっているなどの要素もあるが、乗員を守るボディへ進化していることも大きなファクターとして貢献しているはずだ。
  といっても、ボディを強固にすればいいというものではない。ボディが潰れなさすぎると衝撃が乗員へかかってしまうからだ。なので、適度に潰れて衝撃を吸収することが理想といえる。ただし、そうした知識をもっていても、「欧州車は事故の際あまり潰れてなくて国産車は潰れている」という印象をもっている人も少なくないかもしれない。
  はたして欧州車は潰れにくいボディとなっているのだろうか。そして欧州車は国産車より安全性が高いのだろうか。
最新のクルマは事故による変形が少ない傾向に
  まずは衝突安全性能に関するファクトから確認してみよう。ここでは欧州でも日本でもない中立的な地域ということで、北米・IIHSによる衝突安全試験の結果に着目したい。ちょうど先ごろ、同組織が実施した『ミッドサイズラグジュアリーSUV』における最新テストの結果が報告されている。
  これによると、同クラスにおいて最高水準の安全性能を満たしたことを示す「トップセーフティピックプラス」に認められたのは、日欧の3モデル。具体的にはBMW X5、ボルボXC90、そしてレクサスNXとなっている。
  YouTubeのIIHS公式チャンネルにて、それぞれのクラッシュテストを実施した際の動画が公開されているので、衝突時にボディがどのようになるのかを確認することもできるが、いずれもトップセーフティピックプラスに認定されるだけあって、明らかなキャビンの変形は見られず、クラッシュしたフロント部分の潰れ具合などでもパッと見てわかるような差はない。
  同じような事故がリアルワールドで起きたとして、それを見た一般ドライバーが「欧州車のほうが変形していない」と判断できるとは思えないくらいの違いだ。
  なお、このテストでは後席乗員の保護性能も評価されるため、シートベルトが腹部への攻撃リスクを有していると評価されたNXはA評価であり、X5とXC90が最高レベルのG評価を受けているのと比べると劣っているのは事実だが、それはボディの変形度合いとは違う話だろう。
  この3台の比較だけで結論づけることはできないが、少なくとも技術的に日欧の自動車メーカーで衝突安全ボディに関する技術レベルの違いがあるとは思えない。それでも日本国内で起きた車両同士の衝突事故において、国産車のほうが潰れやすいという印象があるとすれば、どのような違いがあるのだろうか。
  仮説として考えられるのは、車両同士が衝突した場合、物理法則的に「軽いほうが変形しやすい」ことが挙げられよう。
  ご存じのように、日本の自動車市場においては、軽自動車という文字どおりに軽いクルマが多く走っている。軽自動車も単体での衝突安全性能は登録車と同等レベルを実現しているが、車両同士の衝突における変形度合いでいうと、やはり軽いほうが大きくなりがちだ。
  軽自動車のみならず、コンパクトカーと呼ばれるカテゴリーにおいても、中心となるのは国産車であり、高価格帯になる輸入車は中型以上のサイズになりがちだ。そうなると、輸入車vs国産車の事故においては「重い輸入車と軽い国産車」の組み合わせとなる確率が高く、それも輸入車のほうが壊れにくいという印象につながっているかもしれない。
  ただし、重いクルマだからといって攻撃性があるわけではない。クルマ好きであれば『コンパチビリティ(両立性・適合性)』という言葉を聞いたことがあるだろう。簡単にいえば、大きなクルマが小さなクルマにぶつかったときに、大きい側が積極的に潰れることで小さなクルマを守ろうという安全設計思想だ。
  こうした考え方は、日欧ともに進められてきている。とくに欧州では2020年よりコンパチビリティ試験が導入され、大きく重いクルマの加害性を抑えることが求められている。この点においては日欧で変わりないといえる。
  コンパチビリティ思想の成果は、実際のデータとしても確認できる。少々古くなるが、日本国内の交通事故を調査する交通事故総合分析センター(通称:イタルダ)は、重いクルマと軽いクルマの衝突事故における死者数を調査したことがある。
  2001~2007年と2008~2017年の二期にわけて10万台あたりの死者数を調査した結果によると、前期では0.17人だったのに対して、後期では0.13人と減少していたという。これは軽く小さなクルマの安全性能の高まりと、重く大きなクルマのコンパチビリティ性能の向上によるといえるだろう。
  ちなみに、この調査における重いクルマ同士の事故における同死者数は、前期が0.09人、後期は0.05人となっていた。リアルワールドの事故データからすると、重く大きなクルマの安全性能は、軽く小さなクルマより相対的に高いであろうということも確認できる。

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