この記事をまとめると
■「ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿」は2輪と4輪のレーシングドライバー&ライダー育成学校だ
■卒業生には4輪の佐藤琢磨選手や角田裕毅選手がいる
■4輪部門では「カートクラス」と「フォーミュラクラス」のふたつが設けられている
名だたるレーシングドライバーが巣立っていった「HRS」
ホンダ・レーシング(以下HRC)と鈴鹿サーキットがタッグを組んで、世界で活躍できる未来のレーシングドライバーやライダーを育てる「ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(以下HRS)」は、もともと鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)として、1992年に2輪のスクールとして発足。その後、カートとフォーミュラ部門も設けられ、2輪と4輪を揃えた国内では数少ないレーシングドライバー&ライダー育成学校となっている。また、2022年度からホンダが人材育成にさらなる力を入れていく決意の証として、HRS (ホンダ・レーシング・スクール)に名称が変更されている。
30周年を迎えた昨年までに861名が卒業しており、その多くがレーシングライダーやドライバーとなって、ホンダのみならずメーカーの枠を超えて活躍している。4輪では世界三大レースのひとつであるインディ500を2度も制覇した佐藤琢磨や、現在F1世界選手権で3シーズン目を過ごしている角田裕毅がその代表だ。
では、トップドライバー目指すうえで、HRSではどのようなカリキュラムで進められているのだろうか。4輪部門では「カートクラス」と「フォーミュラクラス」の2つが設けられている。
カートクラスでは4輪レースを始めていくうえでの基礎を習得する「ベーシッククラス」と、将来的にフォーミュラクラスへのステップアップを目指す「アドバンスコース」がある。授業日数は両クラスとも26日で、鈴鹿サーキットの南コースで実施。定員はベーシックコースが14名、アドバンスコースはベーシックコースでの成績優秀者若干名となっている。年齢制限はベーシックコースが11歳から20歳、アドバンスコースが11歳から18歳。ちなみにフォミュラクラスへのステップアップは、カートクラスのアドバンスコース受講が必須条件ではない。
カートクラスで行われるカリキュラムは、レーシングドライバーとして必要な知識の習得とマシンメンテナンス、講師役である国内トップドライバーとの走行、集団でマナーを学びながら経験を積む実践走行の大きく分けると4つ。ちなみに使用されるカートは「TONY KART/ROTAX 125」で、これは全日本カート選手権で使用されるものと同じだ。
アドバンスコースではこれらに加えて、フォミュラエンジョイをはじめとするフォーミュラカーの練習やシミュレータやメンタルトレーニング、フォジカルトレーニングなども行う。受講料はベーシックコースが年間160万6000円、アドバンスコースが192万5000円となっている。
レーシングドライバーへの近道となる「フォーミュラクラス」
一方、フォーミュラクラスへ入学する難易度は非常に高い。応募者は約50人で、そのなかから30人に絞り込み、アドバンスコースでステップアップするための実技選考会が鈴鹿サーキット南コースで2日間行われる。
使用されるマシンはフォーミュラエンジョイで、講師陣たちはそのなかから20人に絞り込み。選抜された20人はフォーミュラクラスで使用されるマシンで3日間の実技テストに臨み、そのなかから選ばれた8人がようやくアドバンスコースを受講する資格を得られる。つまり、アドバンスコースへ入学するためには、2ステップある選考会で選ばれる必要があるのだ。受講料はステップ1が12万5600円、ステップ2が17万6000円となっている。
アドバンコースに入校した生徒たちは、カートクラスと同様に基礎知識の習得とトップドライバーの講師陣たちとの走行に加え、マシンのセッティングに欠かせないデータロガーの読み取り方、そしてフィジカルトレーニングを2日間×6セットの12日間行う。ちなみにアドバンスコースから、本格的なフォーミュラカーで鈴鹿サーキット国際レーシングコースを走ることとなる。年齢制限は16歳から22歳までで、受講料は412万5000円だ。
さらに、受講したカリキュラムの結果8名から4名に絞り込まれ、ホンダの育成プログラム加入に向けた最終選考会が2日間×2セットの合計4日間にわたって行われる。
通常、レーシングドライバーになるためには多額の資金を用意する必要がある。だが、ホンダのスカラシップを獲得できれば、ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト所属のレーシングドライバーとして、支援を受けながら活動することができる。結果を残せばF1ドライバーも夢ではない。スカラシップの獲得人数に上限はなく、講師陣が4人とも見込みがあると判断した場合は4人ともスカラシップを獲得できるのも特徴。たとえば角田裕毅は首席や次席で卒業することはできなかったが、スカラシップを獲得して以降着実にステップアップを果たし、その結果最高峰カテゴリーであるF1まで昇りつめた。
カートクラスとフォーミュラクラスのプリンシパルを務める佐藤琢磨は、「HRSではレースで必要なノウハウだけではなく、将来世界に出た際に100%パフォーマンスが発揮できる……そして生き抜いていける人間性としても強い選手を育成していきます」と語る。
そんなHRSのフォーミュラクラスでは、2024年度から使用されるスクールカーを変更。約20年間使用されたSDH-F04から、HRS-F24と名付けられたマシンが導入されることになる。シャシーを手がけたのは東レ・カーボンマジックで、2107ccの自然吸気TR-FS01という型式の戸田レーシング製エンジンを搭載する。琢磨プリンシパルいわく、クルマの動かし方を学ぶうえでは自然吸気の方がダウンサイジングターボよりわかりやすいことから、自然吸気にこだわったのだという。さらに、安全を考慮して、コクピット周辺にはドライバーの頭部を保護するHALO (ヘイロー)が装着されているのもポイントだ。
開発ドライバーを務めた2021年、2022年スーパーフォーミュラチャンピオンの野尻智紀が、新型マシンの開発背景を語った。
「僕もかつてはスクールでお世話になり、直近では2年連続スーパーフォーミュラのチャンピオンになることができました。ですが、いまの自分にできていることが、若いときにできていればよかったなと思うことがあります。そんなことを考えながら、新型マシンの開発に取り組みました。従来のスクールカーは多少クセがあり、生徒たちが限界を引き出すまでに時間がかかる傾向にありました。ですので、新型ではブレーキやスロットルなどをフォーミュラ経験の少ない生徒たちでもコントロールしやすいようにセッティングしています。これらを行うことで、なるべく早くトップレベルの能力を身につけることに繋がると思っています」。
HRSで育った未来の佐藤琢磨や角田裕毅のような有望なレーシングドライバーが登場することを、首を長くして待ちたいと思う。