ハプスブルク帝国ゆかりの中欧三都で五感を潤す旅

2015.10.31 11:00
‵太陽の没するところなき国′と謳われたハプスブルク帝国の都「ウィーン」、スラブ系民族のモラヴィア王国から始まり、14世紀には神聖ローマ帝国の帝都として黄金の都といわれるまでに繁栄した「プラハ」、アジアに起源をもつ騎馬遊牧民族マジャル人が作り上げた自由で快活な空気にあふれるドナウの真珠「ブダペスト」。この秋冬に、もう一歩深くヨーロッパを楽しみたいという方には、ウィーンから始める中欧三都の旅をお薦めします。
チェコの首都プラハ、ハンガリーの首都ブダペストは両国独自の道を歩みながらも、中世以降は隣国のハプスブルク帝国に治められた歴史をもち、それぞれの王宮に華やかなウィーンの宮廷文化が持ち込まれました。各民族が育んだ豊かな文化と、ハプスブルク家によってもたらされたオーストリア文化がどのように影響しあい、変化し成熟していったのか、その比較を楽しみながら3か国を巡ってみてはいかがでしょう。
中世と変わらぬ、絵画のように美しい街を歩き歴史を辿れば、いつしか気持ちはおとぎ話の世界へ。旅が終わるころには、きっと中欧のとりこになっているはずです。
【写真/物語の世界へタイムスリップしそうなプラハ歴史地区】
稀なる東西の融合、エキゾチシズム溢れる世界遺産の数々に息をのむ
13世紀から20世紀初頭までの640年の間、ヨーロッパ全域に強大な力を持ち政治・文化の中心であり続けたハプスブルク帝国ゆかりの世界遺産が、ウィーンの街には2つあります。ひとつはハプスブルク家長年の居城であったホーフブルク王宮や庭園、劇場、オペラ座、シュテファン大寺院のある旧市街「ウィーン歴史地区」、もうひとつはハプスブルク家の夏の離宮「シェーンブルン宮殿と庭園群」です。特に18世紀、マリア・テレジアの時代に完成したシェーンブルン宮殿は人気が高く、マリア・テレジア・イエローとよばれる黄色の外観をもつ豪奢な宮殿内は時間をかけてゆっくりと回ってみたいスポットです。皇帝が開く舞踏会や祝宴の間であった壮麗なロココ調の大ギャラリー(長さ43m×幅10m)の迫力ある天井フレスコ画や、1762年に幼少のモーツァルトが初めて演奏を行った鏡の間、美貌の皇妃エリザベートのサロンなど見のがせない部屋ばかりです。
プラハでは、まずは「プラハ歴史地区」を散策しましょう。ロマネスク、ゴシック、ルネッサンス、バロック、ロココ、アールヌーヴォー、キュビズムなど各時代の建築物が鑑賞できることから、建築博物館の街、百塔の街とも称されます。現在残されているカレル橋やプラハ城に続く街並は、中世チェコの黄金期を築いた名君カレル4世の時代、14世紀に建てられたもので、二度の戦火を逃れ往時のままの姿を残しています。
さらにもうひとつ、ぜひとも足を伸ばしていただきたいのが‘眠れる森の美女’と謳われる南ボヘミアの「チェスキークルムロフ」です。13世紀に地方領主ヴィートコフが建てたチェスキークルムロフ城は、20世紀までの間に、ロジェンベルグ、エッゲンベルグ、シュヴァルツェンベルク家という有力貴族に受け継がれてきました。城主が変わるたびに当時流行していた建築様式が加えられて、それらが見事に融合しています。見どころは、ロココ様式の仮面舞踏会の間や、ウィーンのシェーンブルン宮殿を思わすイエローカラーのホールなど。プラハからは車で約2時間半でアクセスできます。

最後はブダペストです。パールのネックレスのように連なるくさり橋のライトと、ドナウ川の向こうにオレンジ色に煌々と輝くブダ王宮。蛍の光のように川面をうごめくクルーズ船・・言葉を失うほどに神々しいブダペストの夜景は`ドナウの真珠′そのものです。これらの「ドナウ河岸とブダ城地区およびアンドラーシ通り」は、まずは見逃せない世界遺産のひとつ。19世紀後半のハンガリー1000年建国祭で創建された国会議事堂や漁夫の砦、聖イシュトヴァーン大聖堂や国立オペラ座など、多彩な建築様式美も必見です。特に外壁や窓枠にマジャル人の伝統工芸の意匠を取り入れたハンガリアン・アールヌーヴォーは特筆すべきもの。工芸美術館などは緑や黄色の瓦などを屋根に葺きオリエンタルな印象を残します。
そしてもうひとつは、ブダペストの北東約100Km、スロヴァキア国境近くの山間に位置する「ホッロークーの古村落とその周辺地区」。トルコ系民族の末裔パローツ人が中世の頃から変わらぬ姿で住み続けている伝統集落です。古くから伝わる切妻屋根の木造民家や聖堂、周辺の農地など、村全体の景観が世界遺産となっています。白壁と黒い屋根をもつ家屋と、カラフルな中央アジアを思わす民族衣装のコントラストが素敵です。
【写真/ブダペストの国会議事堂(ハンガリー政府観光局)】
百花繚乱の優美さ、お城巡りのハイライトはプラハ城とブダ城
現在のチェコとスロヴァキアをまたぐ広い地域はかつてボヘミアとよばれていました。そこにチェコ人の祖先であるスラブ系民族がやってきたのは民族大移動の6世紀。9世紀にはキリスト教国家モラヴィア王国が栄え、プラハを拠点にプシュミスル家が台頭します。11世紀にはその子孫が、現在のプラハ城が建つ丘に神聖ローマ帝国を君主とするチェコ公国を築きました。その後14世紀にチェコを統治したのがルクセンブルク王朝です。歴代チェコ王の居城であったプラハ城は9世紀半ばに建設が始まり、ルクセンブルク王朝2代目の王、カレル4世の時代にほぼ現在の形となり完成しました。時代ごとに増築を重ね、旧王宮や教会、修道院などの宗教施設が集まった世界でも最大規模の古城となっています。さまざまな様式が混在する複合建築の中で圧巻なのが、聖ヴィート大聖堂内のアルフォンス・ミュシャ(チェコ語ではムハ)による約4万枚のガラスを使ったステンドグラスと、同じ聖堂内のチェコの守護聖人ネポムツキーの墓、15世紀末に建てられたヴラティスラフホール内の天井の美しさ。カフカの仕事場などもあります。
一方ハンガリーのブダ城は、水色のドーム型屋根をもつ美しい王宮です。ハンガリーでは王宮の丘全体をヴァールとよび、それは城を意味します。最初のブダ城の建設は1241年。モンゴル軍が襲来して甚大な被害を受けたことにより、時の国王ベーラ4世が防御壁で囲まれた城と街を築いたのが始まりです。その後1458年にフニャディ家のマーチャーシュが即位し、ブダ城にルネッサンス文化を積極的に取り入れました。この頃にハンガリー王国は黄金期を迎えます。マーチャーシュ王の死後、王位はヤゲロ家へ移りますが、1541年にオスマントルコ軍がブダ城を占領して以降城は壊され、約150年の間トルコ支配が続きます。しかし1686年に、カトリックを守護するハプスブルクが首都を奪還し、その後約200年はハプスブルク帝国の支配となり、マリア・テレジアの時代にブダ城は曲線や楕円を多用した優美なバロック様式に再建されました。しかし二度の世界大戦で崩壊し、現在見られるのは1950年代に修復されたもので、ゴシックとバロックが融合したスタイルとなっています。
【写真/世界最大のスケールを誇るプラハ城】
中欧三都で異なる文化を肌で実感
ウィーンからプラハまでは約300km、ブダペストまでは約250kmと大変近い距離にあります。日本でいえば隣の県に行くような感覚で、小型飛行機で約50分でアクセス可能です。また各国への入国の際には通貨をユーロ(オーストリア)、コルナ(チェコ)やフォリント(ハンガリー)へ両替することになり、国が違えば当然言葉も顔立ちも少しずつ違ってきます。コンパクトな距離感の中で、国境越えを実感できるのも中欧三都の旅の醍醐味でしょう。
冒頭でも触れましたが、3~4世紀に起こったヨーロッパ内でのゲルマン民族移動によって、カルパチア山脈東北部に住んでいたスラブ人も動きだし、西方へ向かったものは現在のチェコやポーランドへ、南方へ向かったものはクロアチアやブルガリアへ移住しました。それにともないアジア系民族の移動も活発になり、マジャル人が9世紀にはハンガリーに入り、それぞれ定住して国を興しました。ゲルマン人が祖といわれるオーストリアではありますが、12以上の民族が入り交ってきた歴史もあり、多様な人々や文化に対応できる懐の深さをもっています。どの国でも、観光の途中での何気ない会話の中に、屈託のない明るさと人懐っこさをもつ民族であることがわかるはずです。
文化といえば各国に根付く音楽もじっくりと楽しみたいものです。三都ならば西洋のクラシック音楽はもちろんですが、たとえばハンガリーならば、名門音楽家ラカトシュ家 のハンガリージプシー音楽などを聴くことができます。哀愁を帯びたバイオリンの美しい調べは、過ぎ去りし中世へのロマンをかきたててくれます。
【写真/ハンガリージプシー音楽を奏でる名門音楽家ラカトシュ家 (ハンガリー政府観光局)】
世界遺産の街並を川面から堪能するリバークルーズもまた愉し
中欧三都に共通しているのは、街の中心に川が流れ、そこに架かる橋とともにどんな時間帯でも素晴らしい風景を堪能できることです。ウィーンとブダペストはドナウ川、プラハはヴルダヴァ(モルダウ)川が街の主役といえます。
たとえばプラハのヴルダヴァ川に架かる古いカレル橋。秋と春の早朝、川面には霧がたちこめます。少し明るくなったブドウ色の空に、オレンジ色の街灯と橋に並ぶ聖人の彫刻が浮き上がり夜よりも幻想的に見えます。日没後は、プラハ城がライトアップされ、カレル橋から広がるレストラン街はセピア色の映画のワンシーンのよう。
さらに、どの街でも観光船で30分~1時間ほどのショートクルーズを気軽に楽しむことができます。特にブダペストのドナウ川ナイトクルーズは観光のハイライト。くさり橋やブダ城、国会議事堂などの人気観光スポットを巡りながら遊覧します。ワインを片手に楽しめるクルーズもあり、日没時に合わせて乗るとロマンティックです。
(※冬は催行していない街もありますのでご確認ください)
【写真/ゆっくりと川から眺めるブダペストの街並 (ハンガリー政府観光局)】

【オーストリア航空について】
オーストリア航空なら、成田からウィーンまで約12時間のノンストップフライトです。
プラハやブダペストへの乗り継ぎもスムーズで、成田を出発してから約14時間後には、中欧の美しい街にランディング。現地時刻18時過ぎには到着なので、ナイトライフも着いたその日から楽しめます。

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