建築計画学者の大月敏雄さんが語る「近居」

2015.10.01 23:40
9月21日敬老の日の夕方、家族について考えるJ-WAVEの番組「UR FAMILY TALK」(提供:UR賃貸住宅)。番組では、建築計画学者で、近居の研究もされている、東京大学・大月敏雄教授にお話を伺いました。


近居について詳しく教えてください。

「近居というのは、親世帯と子世帯が会おうと思えばいつでも会えるよという距離で住んでいる現象を指すことが多いのですが、特に定義はないです。 最近、調査している中で、近居している人の内訳を調べてみると、物理的な距離(何km離れている)ではなく、何分で辿り着くという“時間距離”に従って分類してみると分かりやすい結果が出ました。近居をしている人の30%くらいは15分以内に住んでいる。我々はこれを“15分近居”と 呼んでいます。次は“30分近居”がだいたい5割。“60分近居”でとってみると、だいたい8割。60分以内に親や子、あるいは兄弟がいるという方が比較的多かったです。」

「そもそも近居がいつ頃から始まったかというと、人類が群れをなして住んでいく時点で既に古代からあったと思うんですね。ところが、親と子が近くに住むことが改めて見直された時期が1970年代の前半だと思っていまして、高齢者問題が社会問題として取り上げられ始める時期なんです。高齢者がどんな暮らしをしているのかを調べられた時期があるんですね、そうすると、一見ひとりで住んでいるような高齢者でも、よく話を聞くと近くに娘さんや息子さん世帯が住んでいて、たまに行き来してお互い手伝いあったりしている状況が結構観察されたわけですね。」


近居のメリットについて教えてください。

「私自身が実は近居をしておりまして、かれこれ10年になりますが、子どもが小学生のとき、夫婦共働きでなかなか子育てが大変だったのですが、子どもたちが通っている学童保育の近くのアパートに住んでもらおうと。そうすると、おじいちゃんおばあちゃんに夕方5時に迎えに行ってもらって、子どもに晩ご飯を食べさせていただいて、どちらか早く帰った方がおじいちゃんおばあちゃん家に行って、ついでにご飯も呼ばれたりして、子どもを連れて帰るという、非常に子ども世帯にとって子育てを手伝ってもらうという安心感がありますね。子ども世帯にとっては子育てを手伝ってもらえる、親世 帯にとっては今は元気かもしれないけど、10年、20年経ったらどうなるか分からないときに、子ども世帯がいたり、孫が近所に住んで大きくなって手伝ってくれたりと、そういう安心感がきっとあると思います。」

「それに加えて重要なのは、日本の多くは核家族でお父さんお母さんとしか住んでいないのですが、おじいちゃんおばあちゃんは孫にとってちょっと異質な存在で、お父さんお母さんとは違った観点で見守ってくれたり、教えてくれたり叱ってくれたりするんですね。子どもの成長、教育にとっておじいちゃんおばあちゃんは非常に重要なファクターだと思っていて、そういった面も近居の重要なメリットで、それを実践している人もたくさんいるんですが、あまりお互いのプライバシーが近すぎて、こんなはずじゃなかったということもあったりするということも聞きます。それは親しき仲にも礼儀ありというように、お互いのプライバシーを尊重する意識を持って接さないと、不愉快な思いをすることもある。近居がいいよという中にあっても、そういう生活上の注意というか留意点をお互い考えながら接して行った方がいいんじゃないかなと思っています。」


近居の今後について教えて下さい。

「近居は個人的なキッカケで生まれるものなんですが、僕が注目しているのは、ある街で近居が増えてきたねという現象がいくつかあったとすると、それは地域の中で違う人種が入ってくるということなんですね。子どもの世帯、孫の世帯が入ってくる、そういうジェネレーションの違う人が少しずつ街に入ってくる。あるいは、若者が多いところにおじいちゃんおばあちゃんが入ってくる。なぜそこに注目しているのかというと、都会の郊外の多くのニュータウンや新しく開発された団地、小建て住宅地というのはだいたい30年、40年建っているのを見てますと、明らかにおじいちゃんおばあちゃんだけが住んでいる街になっているところも多いんですね。仮にそうした街に違う世代を呼び込むようなキッカケがあるとですね、その一つが近居だと思うんですけど、そうした意味で近年、日本の自治体のいくつかでは積極的に近居に移り住んで下さいということで、近居を支援しているようなところもあります。」

「今後の近居の展望というのは、個人的な動向としては少子高齢化や経済的な問題が解決しない限り、促進されていくだろうと思う一方で、自治体や公的な企業が自分の街づくりの在り方をこれまでとは違った形で近居を促進したり、あるいは違う世代を呼び込むようなプログラムを立てたりといったようなことを促進すると、多分そこで近居とか住み替えが進むだろうと。逆にそういうことに対してあまり熱心じゃないところだと、なかなか高齢化の問題が解けないという部分も出てくると思うので、今のうちに街を作る立場の人たちがどういう手を打つかというところも大きな課題として残っているのではないかと思っています。」