大雨注意報から土砂災害警戒情報発表までわずか40分...山梨県北杜市の大雨対応は何が問題だったか

2022.09.07 23:45
2022.09.07 up提供:FM FUJI
渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)内のコーナー「CLOSE UP TODAY」(毎週木曜、17:35~)。9月1日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、山梨県北杜市を襲った集中豪雨とそこから見えてくる災害対応の課題について解説しました。

松田:今日は「防災の日」ですから、8月24日(水)の夜に北杜市を襲った集中豪雨と、そこから見えてくる災害対応の課題についてお話します。

麻耶:近年、全国で集中豪雨が多発していますが、北杜市はどのぐらいの雨量だったのでしょうか。

松田:甲府地方気象台によると、24日夜、19時16分に北杜市に「大雨注意報」が、12分後にはより厳しい「大雨警報」「洪水警報」が出て、警報解除は23時44分でした。さらに、1時間の雨量が100ミリを超えると発表される「記録的短時間大雨情報」――これは大雨警報の補足情報ですが、19時33分、同59分、21時42分の計3回発表されました。県内初ではないが、めったにない降雨量で、南からの湿った空気と上空の寒気の寒暖差が大きいことなどから発生したそうです。積乱雲が同じ場所に繰り返しやってきて豪雨をもたらす「線状降水帯」ほど規模が大きくないので、集中豪雨ということでした。さらに、2回目の記録的短時間大雨情報の発表直前の19時55分、県は「土砂災害警戒情報」を発表し、当該エリアの住民へエリアメールを発信しました。これを受けて市は市内4支所に避難所を20時20分ごろ開設したが、避難者はわずか10人でした。ということで、特に19時20分前から20時までの およそ40分間に目まぐるしく状況が変化したのです。

麻耶:大雨警報、記録的短時間大雨情報が発表されると、避難しなければいけないのでしょうか。

松田:気象庁によると、「警報は重大な災害が起こる恐れがあるときに警戒を呼び掛けること」で、警報の種類によって5段階の警戒レベルがあり、レベルに応じ「住民と市町村の取るべき行動」がそれぞれ決まっています。大雨警報は「レベル3」で、市町村の判断で避難準備と高齢者など災害弱者の避難開始を発令、高齢者などは避難し、その他住民は避難準備の必要があるとされます。大雨警報から27分後の「土砂災害警戒情報」は「レベル4」と一段上がったので、市町村の判断で避難指示を発し、危険な場所に住むすべての住民は避難の必要があるとされます。気象台と市町村、県、報道機関は電話ホットラインで結ばれ、気象台は「警報が出たので、避難の検討を」などと助言・提案します。あとの避難指示は北杜市の判断で行いますが、指示は発令しませんでした。

麻耶:なぜだったのでしょうか。

松田:災害対応の司令塔である北杜市 消防防災課への取材によると、同課の課員全員は目まぐるしく変わる降雨・災害情報と、殺到した市民からの電話対応でパニック状態でした。避難指示どころか、降雨情報や避難情報さえも、防災無線▽市の防災ポータルサイト▽市民向けのライン、ツイッターなどSNS――のいずれによっても発信できませんでした。ですから、取材した市民の多くが「NHKの速報で知った」と答えました。消防防災課は「大雨注意報から土砂災害警戒情報発表までわずか40分というこんな経験は初めてで、加えて、電話応対で現場が混乱した。精一杯やったが、対応の不備は、大変、申し訳なかった」と話しています。
市の対応の問題点は
麻耶:結果的に雨足は21時台から弱まったそうで、死傷者も出なかったから良かったですが、市の対応のどこに問題があったのでしょうか。

松田:災害対応の体制の問題です。市町村は国の防災基本計画に基づき地域防災計画を策定しなければならず、北杜市にもあります。消防防災課によると、市の計画の中の防災初動対応マニュアルでは職員の配備基準があり、初期段階の「配備準備」で情報収集を開始。次に「大雨注意報」「大雨警報」などが出たら、「第1配備」となり担当課の中の数人で対応します。今回は、土砂災害警戒情報が発表されたので「第2配備」に当たり、同課全員とその他関係部署、支所の職員が応援しました。必要があれば災害対策本部を設置できるが、今回は設置していません。「第3配備」は大規模な災害が広範囲で発生またはその恐れがある場合で、災害対策本部を立ち上げて全職員が招集されます。今回は第2配備だから、消防防災課5人と、他部署数人と支所が対応しましたが、市民へ情報発信は県のエリアメールとNHKの番組中のテロップだけだったのです。

麻耶:これから秋の長雨や台風シーズンで心配です。北杜市の課題についてどう思われますか。

松田:防災の専門家である山梨大名誉教授で、特定非営利活動法人 防災推進機構理事長の鈴木猛康さんに伺いました。先生は市からの災害情報の発信がなかったことについて、「ひどい話」とした上で、「電話の問い合わせで混乱したというが、司令塔である消防防災課には直接、通報がこないよう、別途、電話応対班を編成しなければいけない。そうしないと、災害対応の指揮・命令が機能しなくなるからで、その意味で、北杜市の対応は“昭和”のまま。こんなことでは大災害時にはとても対応できず、市の地域防災計画が機能していないことが分かった。機能させるには、実効性ある災害対応の体制作りなど具体的な内容を盛り込んだ計画に作り変え、さらにそれに基づく住民参加の訓練をして実効性を高めねばいけない」と指摘されました。この問題提起を改めて消防防災課にぶつけると、「課としても、今回の反省から、地域防災計画の見直しは必要と考える。電話応対がなければ、災害情報の収集と発信をしたかった」と悔しさを滲ませていました。もうひとつの懸念は上村英司市長の対応です。本来なら、豪雨の当夜、市民への情報発信ができなかった事実は既に把握しているはずなので、体制見直しをトップダウンで指示すべきでしょう。しかし、30日時点でも指示は下りていません。また、今回の豪雨災害の報告と被害状況は市の防災ポータルサイトに一切、アップされていない。死傷者はなくとも、山麓では倒木や表層の崩壊が発生し、私自身、林道で水道管が敷設された箇所が延長300~500メートルにわたってえぐり取られているのを確認しましたが、市はSNSを含め情報を出していません。ことほど左様に、市の防災体制は問題が多すぎ、早急な改善が必要です。
Bumpy放送局:FM FUJI放送日時:毎週月曜~木曜 13時00分~18時50分出演者:鈴木ダイ(月)、上野智子(火)、石井てる美(水)、渡辺麻耶(木)
Twitterハッシュタグは「#ダイピー」(月)、「#ばんぴーのとも」(火)、「#てるぴー」(水)、「#ばんまや」(木)
※該当回の聴取期間は終了しました。

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