インドネシア大統領が中国・韓国・日本3か国歴訪〜その“隠れた意味”

2022.07.28 11:00
2022.07.28 up提供:RKBラジオ
インドネシアのジョコ大統領が7月25日から中国、日本、韓国を歴訪し、それぞれの国で首脳会談を重ねている。26日は北京、27日は東京に来て、岸田首相と会談した。28日はソウルを訪問する。この訪問には「隠れた意味がある」と、東アジア情勢に詳しい、RKBの飯田和郎・元解説委員長は話す。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でその意味を語った。
表向きの目的はG20議長国としての事前準備
インドネシアといえば、G20の今年の議長国。ジョコ大統領は議長として、外交活動に忙しい。つい最近は、自らウクライナとロシアを回り、ゼレンスキー大統領、プーチン大統領とそれぞれ会談した。11月にインドネシアでG20の首脳会議が開かれる。G20のメンバー、プーチン大統領が参加を表明している。ジョコ大統領は、G20のメンバーではないゼレンスキー大統領も招待した。ゼレンスキー大統領が首脳会議に来るかどうか、プーチン大統領と席を同じくするか否かは不透明。だが、ジョコ大統領は仲介を務めようと、緊張緩和に努めている。



インドネシアの国民は2億7000万人、世界で4番目に人口が多い。その大国のトップリーダーが、今回東アジア3か国を駆け足で回るという意味は、もちろん、G20議長として、その首脳会議を前にした事前準備の意味合いがある。最大の焦点であるウクライナ紛争の早期解決へ各国の協力を促すことだ。
もうひとつの目的は首都移転への協力か
ジョコ大統領は今回、多数の経済人を同行させている。2国間での貿易や投資拡大を目指し、コロナ禍でダメージを受けた自国の経済の回復を急ぎたいところだろう。ただ、外遊には隠れた狙いがあるように思える。それは、ジョコ大統領が進める「首都移転」計画だ。



まず、首都移転で一番の推進役である、ジョコ大統領について横顔を紹介したい。大統領は貧しい家庭に生まれた。インドネシアの政治家に多い、いわゆる名門の出身、エリートではない。社会人になってからは家具を輸出するビジネスをしていたが、最初は失敗続きだった。やがて政治の世界に飛び込み、ジャワ島中部の市長、ジャカルタ特別州の知事を経て、大統領に当選した。フットワーク軽く現場に出かけて住民と話す姿勢が人気を集め、トップの座を得た。



インドネシア大統領は1期5年間で、最長で2期まで。現在、2期目で2024年春には退くジョコ大統領が打ち出したのが州都移転プロジェクトだ。



ジャワ島のジャカルタにある首都の移転先は、北東に2000キロ離れた東ボルネオ島のカリマンタン州。大小の島々から構成するインドネシアで島から島への引っ越しはたいへんな作業だ。



移転はすでに国会でも承認されている。今年から5つの段階に分けて移転作業を進め、2045年に移転を完了させる。「国の中心」をジャカルタがある西部から中部に移し、経済の地域間格差を解消する狙いもある。ただ、国内では反対する声も少なくない。



野党からは「新型コロナの感染拡大が収まっていない中で、巨額の費用をどうやって捻出するのか」という声が出ている。その移転予算だが、どんどん膨れ上がり、日本円で5兆円近くに上りそうだ。



その内訳だが、政府は移転予算の2割から3割を国家から支出し、残りは国内外の民間企業からの投資でまかなう予定になっている。
日本企業の反応はイマイチ
インドネシアに進出した日本企業は製造業が多い。工場は必ずしも首都に存在する必要はない。そのせいか、日本企業は首都移転にあまりいい反応を示していない。唯一、首都移転計画に協力検討を表明していたのが、ソフトバンクグループだった。だが結局は、出資を見送った。インドネシア政府にとっては痛手だった。



だから、ジョコ大統領は東アジアでは経済力のトップ3の中国、日本、韓国を相手に、首都移転への協力・投資を求めている。



まず最初に北京を訪れた。一昨日の首脳会談の冒頭、習主席はこう切り出した。

「あなたは冬の北京オリンピックのあと、中国が受け入れた最初の外国の元首です」

「これは、中国とインドネシア双方が互いの関係を発展させることを、極めて重視していることを明確に示しています」
新型コロナが世界的に流行したから、習近平国家主席が北京で外国首脳と会談したのは、冬の北京オリンピックの時を除いて初めて。要するに、首都には外国首脳を入れなかった。感染を防ぐためだ。そして、習主席はこうも言っている。

「我々はインドネシアの新しい首都の建設に積極的に参加していくことを望んでいます」
それに対し、ジョコ大統領は「新しい首都建設への中国の積極参加を歓迎したい」と喜んだ。このあと会談した李克強首相も習主席と同じように首都建設に協力すると明言した。北京に迎え入れたり、協力を申し出たり。インドネシアに対して異例の厚遇だ。



途上国や近隣国へのインフラ建設に協力することによって、その国への影響力を強めていくのは、中国がよくやってきた手法だ。



中国とインドネシアの間には海域の領有権争いも存在するが、首都移転はジョコ大統領が自分の任期中に道筋をつけ、自身のレガシー(遺産)にしたがっているため、との見方がある。中国からの支援は歓迎だろう。

当然ながら、日本は中国の出方が気になるはずだ。日本にとって、インドネシアは重要な国。付き合いも長い。また、4月にジョコ大統領と会談した岸田首相は、インドネシアに巡視船の供与に向けた調査を始める考えを表明している。これはインドネシア周辺の海域で権益拡大を図ろうとする中国を念頭に置いた供与だ。



また、2020年には、新型コロナ対策として、総額500億円以上の円借款や医療用物資や機材を無償提供することを約束している。



これも中国をにらんで、とのことのようだが、そこに首都移転計画が加わると、日本はさらに戦略を練って、インドネシアへの外交を展開しないといけない。中国が進める「一帯一路」プロジェクトには陸地だけではなく、海を隔てて結びつこうという戦略もある。東南アジア、さらには、その先の南太平洋への影響力拡大を狙う中国が首都移転を契機にインドネシアに手を差し延べようとする姿がくっきりと見えてくる。



さきほど申したように、首都移転プロジェクトに対しては、日系企業は慎重な構えをとっているが、その間に、中国が一気に進出する可能性もある。



通信を含めたインフラの構築において、まるごと中国のシステムが導入されないとは言えない。そうすると、安全保障上の懸念も生まれる。ジョコ大統領の東アジア3か国歴訪。インドネシアの首都移転プロジェクトに関して、明確な協力を示した中国に、日本の影は薄い。
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飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
田畑竜介 Grooooow Up放送局:RKBラジオ放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎
※放送情報は変更となる場合があります。関連記事
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