たとえ絶好調でも「現状維持」は後退の始まり

2021.03.19 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。3月19日の放送は、サッカー元日本代表の中村憲剛さんが登場。初優勝の思い出、引退を決断した理由、自身の人生哲学などを語った。
■現状維持は後退の始まりでしかない
2017年に川崎フロンターレを初優勝に導いた中村さんは、ピッチの上で涙を流していた。プロ15年目で叶えた悲願。中村さんは「大の大人がそんなに泣くかというくらい泣きました。ずっとチームが強くなること、自分がうまくなることを考え続けてきたけれど、なかなか手が届かなくて、悔しい思いもたくさんしました。でも諦めずにやり続けた結果のタイトル獲得だったので、すごく思い出深いです」と振り返る。
小学生から始めたサッカーだったが、プロ入りまでは苦難の道を辿る。中学校時代は身長が思うように伸びず、コンプレックスを抱えたこともあったという。「みんなの身長が伸びていく中で、僕は伸びず、小学生のときにできていたプレーもできなくなってしまった。でも、サッカーは体格に恵まれていなくても、身体能力が低くてもできるスポーツなので、その劣等感をどうやって武器にするかだと思うんです。自分はボールコントロールにこだわりました。これだけは他の誰よりも突き詰めてきたという自負があります」。
大切にしているのは、成長するという意思。中村さんは「何が得意なのかを自分で気づいて、磨いていくしかない。現状に満足していたら、どんどん落ちていってしまう。現状維持は後退の始まりなので」と話す。
納得できないプレーはしたくないという思いもある。2020年、チームが絶頂期のさなかで現役引退を決めた中村さんは、周囲に猛反対されても引退を撤回しなかった。「体力的な衰えでも、怪我が原因でもない。とにかく突っ走ったまま辞めたかった。このままだと自分の期待している自分になれないと思いました。周りには“まだできるから撤回しろ”と何回も言われましたよ。でも、引退は自分の中で決めたことでした」。
■過去にとらわれることに意味はない
2019年に左膝前十字靭帯を損傷。選手生命を左右するほどの大怪我をした瞬間に、引退までの道筋が見えたという。当時の心境について、中村さんは「リハビリをして戻ってきて、パフォーマンスをして、“やっぱり中村憲剛はただ者じゃないな”というところを見せてから引退しようと思っていました。同じ怪我をした人たちに、僕が39歳で復帰できたのだから、みんなも絶対にできるというのは伝えたかったです。その思いが、自分の中の励みにもなりました」と明かした。
怪我をしたと悔やむよりも、1日でも早くチームに戻るために集中して努力する。そんな中村さんの信念が、301日ぶりの復帰戦でのゴールに結びついた。「怪我をしてからの切り替えは早かったですね。嘆いていても、誰かが助けてくれるわけじゃないし、自分で挽回するしかないじゃないですか。へこんだままでいるよりも、少しでも良い方向に持っていけるように何かするべきじゃないかと考える人間なので、落ち込んだりはしませんでした」。
自分の決断にも後悔はない。過去にとらわれないのが中村さんの強みでもある。「たとえ間違った選択をしたとしても、未来は変えられると思っていますから。“あの時こうすれば”とか言う人もいますけど、それはもう昔のこと。とらわれていてもしょうがない。それよりも、その状況と環境とメンバーで、どうやって道を切り開いていくかを考えるほうが100倍大事です」。
引退した現在は、ジュニア世代の指導にあたる日々。サッカー界の未来を見据える中村さんの指導は、よく話を聞き、相手を知るところから始まる。理想とするのは選手の可能性を引き出す指導者だ。中村さんは「この人に教わると新しい発見がある、成長できると思ってもらえるようになりたいですね」と目標を語った。
次回3月26日の放送は、3月に登場した田中理恵さん、吉田亜沙美さん、中村憲剛さんが再登場。3人の「美学」を再び掘り下げる。