VAIO試作、商品化に手応え

2014.11.14 20:00
VAIO株式会社が、10月4日(米国時間)から米ロサンゼルスで開催されたAdobe MAX 2014において、同社ブランド初となるオリジナルタブレットPC「VAIO Prototype Tablet PC」を初めて展示した。

VAIO商品企画担当ダイレクターの伊藤好文氏は、「予想以上の手応えを感じた。商品化に向けて大きな一歩を踏み出すことができる反応だった」と、Adobe MAX 2014での成果を語る。そして、「ここからの発信を通じて、VAIOが目指す『本質+α』の意味が、多くの方々に伝わったのではないか」とも語る。Adobe MAX 2014の成果を伊藤ダイレクターに聞いた。


初公開されたVAIO Prototype Tablet PC

「このディスプレイはすばらしい!」――。Adobe MAX 2014のVAIOブースを訪れたクリエイターたちは、VAIO Prototype Tablet PCを実際に触って、次々と驚きの声をあげた。

Adobe MAX 2014は、全世界から最先端のクリエイターが集う一大イベントだ。VAIOはこれにあわせて、同社初となるVAIOブランドのオリジナル製品「VAIO Prototype Tablet PC」を初めて公開してみせた。

名称のようにあくまでも試作品であり、このまま商品化するものではない。だが、クリエイター向けの一点突破の商品として位置づけるこの試作品を最先端のクリエイターたちに公開することで、意見を収集。最終商品へと反映するのが狙いだ。そして、この取り組みは、ソニー時代にはなかった新たな商品づくりの手法だともいえる。

Adobe MAX 2014は、10月4日から、PhotoShopの伝道師といわれるラッセル・ブラウン氏によるプレカンファレンスで幕を開けた。2日間に渡る計13時間にも及ぶセミナーで、ブラウン氏から直接、最新の技術や製品、そしてさまざまな手法が、紹介されることになる。

プレカンファレンスの初日、ブラウン氏のセミナーのなかで、VAIO Prototype Tablet PCが初めて公開された。セミナーでは、VAIOの伊藤好文ダイレクターが壇上にあがり、VAIO Prototype Tablet PCの特徴を紹介してみせた。

続いて6日から開始されたカンファレンスにおいては、展示会場を併設。6日午前11時からオープンした展示会場のVAIOブースでは、3台のVAIO Prototype Tablet PCを3日間に渡って実際に触れる形で展示してみせたほか、PhotoShopのアーティストとして著名なレイス・バード氏が、VAIOブースでVAIO Prototype Tablet PCとZBrushを用い、即興でイラストを描いてみせるというデモストレーションも行った。

「ブースを訪れたクリエイターのなかには、VAIOが独立した会社になったことに驚いた人もいたが」と伊藤ダイレクターは苦笑しながら、「多くのクリエイターがVAIO Prototype Tablet PCの機能や性能について驚きの声をあげていた。2013年5月に開催されたAdobe MAX 2013では、ソニーとしてVAIO Duo 11を展示し、タブレットの可能性を提案したが、今回の展示ではそれ以上の手応えを感じた」と語る。


Adobe MAX 2014参加クリエイターの反応は?

VAIO Prototype Tablet PCは、クリエイターを強く意識して開発した商品だ。

CPUにはHaswell世代であるi7「H Processor」Quad Coreを搭載。2,560×1,704ドット、250ppiの高い表示性能を実現するとともに、クリエイターが望む3:2のアスペクト比を持つ10点タッチ式の12.3型液晶ディスプレイを採用。PCIeハイスピードSSDにより、ストレージのアクセススピードの高速化も実現している。

また、Adobe RGBのカバー率は95%以上であり、「THE MONSTER TABLET」と同社が位置づけるのも、うなずける仕様だ。価格は未定だが、20万円を超えることが想定される。5万円以下で購入できるタブレットとは次元がまったく違うタブレットなのだ。

同社では、Adobe MAX 2014のVAIOブースを訪れた人たちを対象に、アンケートを実施した。数百人規模のクリエイターの声を集めた貴重な調査であり、しかも、フリーコメントを書き込むクリエイターはかなりの数にのぼったという。それだけ、このVAIO Prototype Tablet PCに大きな期待を寄せているということがわかる。

アンケートに回答したユーザーのプロフィールは、約8割が男性。20~30代が約7割を占め、Windowsの使用経験ユーザーは約7割にのぼるという。また、約9割がPhotoShopを利用し、約8割がIllustratorを利用している。アンケート用紙に例として記載した8種類のアプリケーションのすべてを利用している人が少なくなかったといったことからも、複数のアプリを使いこなす最先端のクリエイターたちが回答していることが推測される。

その調査結果によると、半数以上のクリエイターがVAIO Prototype Tablet PCに対して「良い」と評価したという。なかでもAdobe RGBのカバー率では75%がポジティブな評価を行っており、回答者の4分の1が、ディスプレイの表示性能に高い評価を下したという。

Retinaディスプレイを上回る2,560×1,704ドット、250ppiの液晶ディスプレイの表示性能はタブレットとしては異例のものとなっており、その表示性能はクリエイターをうならせた。

そのほか「スピード」、「サイズ」、「軽さ」などのほか、クリエイターが重視するペンのフィーリングにも高い評価が集まっている。

ペン機能には、N-trigを採用し、筆圧にも柔軟に対応できるほか、ディスプレイには、ダイレクトボンディング方式の採用により、視差の最小化と、ペン入力時のエアギャップを低減。狙った場所に的確にペン入力ができ、紙に書くのと同じような書き心地を実現している点が評価されているようだ。

また、ユニークなスタンド形状にも評価が集まる。VAIO Prototype Tablet PCでは、「フリーストップスタンド」と呼ぶ、独自のスタンド形状を採用。その独自構造により、持ち上げた場合にもスタンドを手で押さえることなく画面角度を変えることができる。任意の角度で止めてペン入力しても画面がグラつかない強度を維持しているのも大きな特徴だ。

「フリーストップスタンドを触ってみて、一体これはどうなっているんだ、と驚きの声をあげていたクリエイターもいた」と、現場のやりとりの様子を振り返り、伊藤ダイレクターは笑う。

そして、一部のクリエイターから高い評価を得たのが、インタフェースだ。とくに、ミニディスプレイポートやSDXCカード対応SDスロット、イーサネットポートを搭載している点については、クリエイターからも評価が高かったという。

一方でネガティブなコメントとしては、「細かい操作性やフィーリングに対する改善要求、そして剛性に対する要望が出ていた」とする。

「プロフェッショナルが求めるフィーリングに近づけるために改良が必要な点はいくつかあると感じた。また、剛性面ではキーボードのタッチ感覚などが対象となっていたようだ。これらの課題は商品化に向けて改善し、細かいチューニングを行っていきたい」とする。


改善点を反映、年明けの商品化に期待

実はAdobe MAX 2014の会場では、マイクロソフトが参加者全員にSurface Pro 3を配布するというサプライズが用意されていた。そのため、Surface Pro 3と比較して、「もう少し軽くして欲しい」という要望もあったという。

こうした声を総括して、伊藤ダイレクターは、「我々が狙ったところに対しては、きっちりと理解をしていただいた。大筋では、この路線で行けば使ってもらえるのではないかという手応えを得た」と自信をみせる。Macを利用しているユーザーに対しても、並列的に利用してもらう提案を行うことにも手応えを感じているようだ。

そうした意味でも、VAIO Prototype Tablet PCの商品化に向けて、大きく一歩を踏み出すことができたのが、今回のAdobe MAX 2014の成果だったといえそうだ。

そして、「今回のAdobe MAX 2014での展示を通じて、数多くの発信が行われ、それによって、VAIOが目指す『本質+α』の一端を理解していただけたのではないかと感じている。その点でも効果があった」とする。

7月1日のVAIOの設立会見では、VAIOの関取高行社長がVAIOの目指す方向性を「本質+α」としたが、これまではコンセプトメッセージの域を出ず、その意味は伝わりにくかった。だが、VAIO Prototype Tablet PCによって、商品をカタチとしてみせたことで、そのコンセプトが理解しやすくなったともいえる。

VAIO Prototype Tablet PCはクリエイター向けの一点突破の商品であり、そこに+αの要素がある。ビジネス向けPCについても、同様に+αの部分が尖った一点突破のPCが投入されるという期待感が高まったといえるだろう。

では、商品化に向けて、同社では今後、どんな動きをみせることになるのだろうか。

今回のAdobe MAX 2014の意見を商品化に反映する動きはすでに始まっているという。「改良点がより具体的になった部分もある。また、我々自身で、改善が必要であると感じていた部分も、今回の声を聞いてより明確になった。すでに改良に向けた取り組みが始まっている」とする。

また、11月8日に東京ミッドタウンでアドビシステムズが開催する「CREATE NOW "Best of MAX"」でも、VAIO Prototype Tablet PCを一般公開し、ここでもクリエイターからの意見を収集。さらに、国内のフォトグラファーやイラストレーターなど、10数人を対象に、1~2カ月間の長期間試用による声も収集し、商品化にフィードバックしていくという。

「VAIOでは、共創という姿勢で商品化を進めていくことを考えている。VAIO Prototype Tablet PCは、クリエイターと共創する商品であり、そこに日本発のモノづくりを組み合わせていく。最初のフィーリングだけでなく、使い込んだ場合に感じた改善点なども反映した上で、商品化していきたい」とする。

VAIO Prototype Tablet PCの商品化に向けた基本路線はほぼ決まったといっていい。伊藤ダレイクターも「なるべく早く商品化したい」と意欲をみせ、時期としては、年明けの商品化が期待されるところだ。

クリエイターによる、クリエイターのためのタブレットPCを標榜するVAIO Prototype Tablet PCは、そのコンセプトを忠実に実現するために、これから最終仕上げに入ることになる。