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「iPhone 11」の低価格路線は、アップル神話崩壊の序章か
Forbes JAPAN
2019.12.11 12:30
2019年9月11日、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)がイベントのステージに登場した時、これから発表されるショッキングな内容を予測できた者は誰もいなかったはずだ。

このイベントの席上で、クック氏は「iPhone 11」シリーズを披露した。アップル製スマートフォンとしては最も高性能の新モデルだ。しかし、最も大きな注目を集めたのは、トリプルカメラでも、ツヤ感のある表面仕上げでもなかった。焦点となったのは、この最新機種の価格設定だ。

アップルは今回、史上初めて、高機能タイプのiPhoneの価格を引き下げた。後述するように、これは、何としてもiPhoneの販売実績を回復させたいと考えるアップルの苦渋の決断だ。そしてこの価格引き下げは、市場で圧倒的なシェアを獲得してきたアップルの黄金期に終止符が打たれるきっかけとなるかもしれない。

アップルはスマートフォン・メーカー

まずは1点、はっきりさせておこう。アップルはもはやコンピューターメーカーではない。今のアップルはスマートフォン・メーカーだ。

2007年に初代「iPhone」を発売して以来、アップルは累計22億台のiPhoneを販売してきた。その売上高は1兆ドル(約108兆6000億円)を超える。これは、他のあらゆる携帯電話メーカーの実績を上回る数字だ。この間、アップルの株価は2037%という驚異的な伸び率を記録し、時価総額世界一の企業へとのぼりつめた。

iPhoneは「金の卵を産むガチョウ」

2007年以降、アップルの売上累計は1兆9900億ドル(約216兆1050億円)という驚くべき額に達した。注目すべきは、その半分以上をiPhoneの売上が占めている点だ。

iPhoneは、アップル製品の中でも群を抜く最大のベストセラーだが、それだけではない。同社にとってiPhoneは、最も利益率の高い製品でもある。

フォンアリーナ(PhoneArena)の調査によると、iPhoneの売上1ドルあたりの利益は0.6~0.74ドル。これを「MacBook Air」と比較してみよう。これはアップルにとって最も利益率の高いノート型コンピューターだが、それでも売上1ドルあたりの利益は0.29ドルにすぎない。

iPhoneの存在なしに、アップルの今の地位はなかった。iPhone抜きではアップルは、どうがんばっても、デルと同程度の、平凡なコンピューターメーカーにとどまっていただろう。

停滞するiPhoneの売り上げ

何年もの間、iPhoneの売上は飛躍的な伸びを見せてきた。しかし2015年に、アップルは転換点を迎えた。iPhoneの販売台数が頭打ちになったのだ。

2018年のiPhone販売実績は、3年前との比較で1400万台のマイナスとなった。しかしこれは、特に珍しい現象ではない。

アップルが初代iPhoneを発表した当時、スマートフォンは画期的な新技術だった。こうした新技術というものは、おおむね以下のようなサイクルをたどる。登場した当初は売上が爆発的に伸びるが、その後、市場の成熟に従って売上は横ばいになり、最後には必然的に下降線をたどる、という流れだ。

初代iPhoneが世に出た12年前、携帯電話を所持している人はわずか1億2000万人だった。だが今では、スマートフォンのユーザー数は50億人を超えている(IDC調べ)。

iPhoneのライフサイクルを引き延ばしてきたアップル

以前から指摘してきたように、アップルはiPhoneの黄金期を延ばすことにかけては、実に見事な手腕を発揮してきた。同社は、販売の停滞を補うため、iPhoneの端末価格を引き上げることで売上を伸ばし続けたのだ。

ちょっと振り返ってみてほしい。2010年当時であれば、最新モデルの「iPhone 4」を599ドル(当時の日本での価格は一括払いで4万6080円~)で手に入れられた。これが2017年になると、「iPhone 8」が849ドル(日本でのアップル直販価格は8万5104円~)、「iPhone X」では1149ドル(同12万1824円~)に跳ね上がった。iPhone Xは、アップル製スマートフォンでは史上最も高価なモデルとなった。

端末価格の引き上げにより、アップルは成長を維持した。この戦略により、同社の売上は2011年以降、順調な伸びを見せている。しかし、アップルがiPhoneの値段を上げ続けざるを得なかったのには、もう1つ別の理由がある。

急上昇するiPhone 製造コスト

数年の例外はあるものの、iPhoneの製造コストは2007年以降、一貫して上昇を続けている。初代iPhoneの製造コストは、1台あたり200ドル強だった。しかし、「iPhone XS」(アップルが製造コストを公開している中で最新のモデル)では、製造コストは初代の約2倍に達している。

アップルは常に、端末価格に関して最高記録を更新してきた。しかし製造コストの推移を見ると、それには理由があったことがわかる。アップルは、上昇する一方の製造コストを埋め合わせする必要があった。そして、私が以前、読者のみなさんに警告したように、アップルが端末の値下げを迫られるのは時間の問題だった。事実、アップルはほどなくして戦略を転換した。

新型iPhoneの新機能は「低価格」

アップルは2018年9月、「iPhone XR」を発表した。これは、iPhone Xから最新機能を削り、そのぶん価格を抑えたモデルだ。価格は749ドルで、iPhone Xの1145ドルと比較して35%オフに設定された(日本でのアップル直販価格は9万1584円~)。

だがiPhone XRは、廉価版を装っているものの、その性能は実際にはiPhone Xとほぼ同等だ。基本的に、機能が劣っているとのふれこみは、販売実績を再び上昇基調に戻すために、アップルがより安い端末を発表するための口実にすぎなかった。

2019年に入り、アップルはさらに一歩踏み込んだ。すべての最新機能を備えたモデルに関しても、値下げに踏み切ったのだ。9月に発売された「iPhone 11」では、価格は699ドルから(日本でのアップル直販価格は8万784円~)と、2017年以前の水準に戻っている。

アップルが端末を値下げしたのは、冴えない需要を喚起するための最後の策と言える。だがそれは同時に、利益率が高かったこれまでのiPhone事業の「終わりの始まり」を示すものだ。

アップル繁栄の終焉は近いか

何が起こっているか、見えてきただろうか。iPhone販売台数は下降線をたどっており、その利益率も急速に落ち込んでいる。

ここ数期の決算報告は、これまでアップルの生命線だったiPhoneの売上が減少に転じていることを示している。直近の2019年第4四半期決算(2019年9月28日締め)を見ると、iPhoneの売上高は前年同期比で約10%減少した。さらに通年で見ると、売上の減少幅はおよそ200億ドル(約2兆1719億円)にも達している。

アップルiPhone部門の売上がこれほど落ち込んだことは今までなかった。こうした状況はまもなく、アップルの決算報告にも反映されてくるだろう。

ここでもう一度、強調しておきたい。アップル全売上の半分を担う部門が今や、成長軌道から脱落しようとしている。そして、事態は取り返しのつかないところまで来ている。

アップル自体も、iPhoneがジリ貧に陥っていることを認め、新たな事業に乗り出そうとしている。だが、こうした新事業はすぐには立ち上がらない。その一方で、アップルのドル箱だったiPhone事業は急速な落ち込みを見せている。

私が2019年に入って警告したように、アップルはカウントダウンが始まった時限爆弾だ。そうした理由から、読者のみなさんには、アップル株には手を出さないようお勧めする。
翻訳=長谷睦/ガリレオ

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