「自分がどうしたいか」が分からなければ「そこ」にはたどり着けない

2019.12.06 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。12月6日の放送は、元フィギュアスケート選手の八木沼純子さんが登場。オリンピックを通じて感じた思いや、引退後の人生の指針を示してくれた“ある言葉”について明かした。
■オリンピックという“鎖”にずっと首をつながれていた
八木沼さんは、日本代表選手として14歳でカルガリーオリンピックに出場。誰もが憧れる最高の舞台で舞った経験は、競技者としての糧になるどころか、むしろ、その後何年にもわたって彼女を苦しめることになる。八木沼さんは、「私はまだ発展途上のジュニア選手で、日本に帰ってきてからも自分の気持ちを整理するのにすごく時間がかかってしまったんです。オリンピックという“鎖”にずっと首をつながれている感じの生活でした」と、当時の心境を打ち明ける。
国内の選手権に出場しても、取り沙汰されるのは「中学3年生でオリンピックに出場した」という事実だけ。「期待されればされるほど、“よっしゃー! 頑張ろう!”となるよりも、“どうしよう……”という気持ちのほうが先に出てきてしまいました」。
重いプレッシャーに、ときには自分本来の滑りを見失うことも。八木沼さんは、「人のことばかり気にしていました。自分がどう見られているのかとか、みんながどう思っているんだろうとか、そういうことしか考えられなかったのが一番ダメだったと思います」と述懐。コントロール不能に陥った八木沼さんを救ったのは、海外の大会で起きた、ある出来事だった。
滑り終えた八木沼さんに、ファンが「あなたのスケート、よかったわよ」「すごくキレイだったわ」と声をかけた。自分が思いを巡らせなくても、しっかりと滑りを見てくれている人がいることに気づいた瞬間だった。この言葉を聞いた八木沼さんは、「それまで忘れていた“自分はこういうスケーターになりたい”という気持ちを思い出したんですね。“滑らなきゃいけない”じゃなくて、もっと個性をアピールできるように“滑りたい”と思えるようになったんです」。
八木沼さんの現役時代は、80年代から90年代。日本のフィギュアが世界をリードする前の時代だ。「コンスタントに大会に出て、名前を売って、良い成績を残して、私はこれだけのものができるというのをジャッジに示して、よくやく高い点数が出る。でも海外での試合は少なく、場数も踏めないから、その分、精神的な強さをすごく求められた。大変な時代ではあったと思います」と振り返る。
■「これからは、自分のために滑りなさい」というメッセージ
日本フィギュアスケート界の成長期を支えた八木沼さんは、大学4年生で現役を引退。今も大事にしているのは、八木沼さんがフィギュアを習っていた福原美和さんの先生である稲田悦子さんから、引退する時にもらった1枚のメッセージカードだ。そこには「お疲れ様でした。これからは、自分のために滑りなさい」と書かれてあったという。八木沼さんは、「メダルを獲らなきゃとか、何位にならなきゃとか、ジャンプを跳ばなきゃとか、いろいろなものを背負ってやってきていたので、稲田先生には、私が人のために頑張っているように見えていたんじゃないかなと思うんです」と語る。
偉大な先輩の言葉が示してくれた、“自分のために”という生き方。「確かに“自分がどうしたいか”が分からなければ、“そこ”にはたどり着けない。それって別にスポーツだけじゃなくて、自分がどういう目標を持って、どこに行きたいのかをわかっていないと、その方向には向かえないのではないかなと思います」と、自身の経験を踏まえながら話す八木沼さん。カードに書かれた言葉には、「今度はどうしたいのか考えて、自分自身で頑張ってやっていきなさいよ。もう誰も助けてくれないわよ」という意味も込められていたのではないかと推察する。
八木沼さんは、現在はスポーツキャスターや解説者としても活躍。趣味は車で、見るのも乗るのも大好きなのだとか。「父親の影響でスポーツカーが好きで、特にポルシェはいつか乗りたいと思っていて、絶対に自分で買おうと思っていました」という八木沼さんの愛車は、ポルシェ911カレラ。この日は、ディーラーで8年ぶりにモデルチェンジしたポルシェの新型を試乗。「ポルシェはワクワク感が違いますね。やっぱり運転していると楽しい!」と満面の笑顔を浮かべた。
起伏の大きかった競技者人生を経て、気づいたのは、とてもシンプルなこと。やりたいことをやる、行きたい場所へ行く。全ては自分のために。八木沼さんは生き生きとした表情で、ポルシェのアクセルを踏み込んでいた。
次回、12月13日の放送は、元サッカー日本代表の戸田和幸さんが登場する。