「どうしても叶わないものがある」と理解することで人生は変わる

2019.11.22 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。11月22日の放送は、全日本選手権で10連覇を達成した元トランポリン選手の廣田遥さんが登場。大記録に至るまでの苦しい道のり、その中で辿り着いた心境について語った。
■「どこまでも自分次第」という孤独
廣田さんは、高校2年生のときに全日本選手権で初優勝。それ以来、2010年の大会まで王座を守り続け、26歳のときに10連覇という前人未到の大記録を打ち立てた。アテネオリンピックや北京オリンピックにも出場したが、廣田さんは「自分の中で一番大きかったのは、10連覇を達成したことです」と振り返る。「怪我をしてようが、調子が悪かろうが、スランプに陥っていようが、全日本選手権は毎年必ず来る大会。1つずつクリアしていって、気づいたら大きな結果になっていた。そんなところが人生と似ているのかもしれません」と語る。
積み重ねて掴んだ“絶対女王”の称号。しかし、その圧倒的な強さは、廣田さんを“孤独”にした。「全日本選手権は常に自分との戦いで、自分に勝てれば優勝するという状態だったので、逆にライバルがいたほうがやりやすかったかもしれません。ライバルがいないと、どこまで頑張っても、どこまで手を抜いても自分次第なんです」と、廣田さんにしか分かり得ない心境を明かした。
トランポリンとの出合いは小学校2年生の春休み。オーストラリアのホームステイ先で初めて体験したときの感覚が忘れられず、帰国後、トランポリン教室に通い始める。「浮遊感がとにかく楽しくて」と、笑顔を見せる廣田さん。「跳躍して、最高到達地点にまで来ると、一瞬、ピタッと止まるんです。そこからふわ~っと降りていく瞬間が気持ちいいんです」。
■「どうしても叶わないものがある」と理解することで人生は変わる
トランポリンを愛し、美しい跳躍で観客を魅了してきた廣田さんだが、2008年の北京オリンピックでは、大きな挫折を味わう。大会の20日前に、合宿先で股関節を剥離骨折。最悪のタイミングで起きた最悪のアクシデントの中、予選に出場。演技をやりきるだけで精一杯だったという。
楽しくて始めたトランポリンだが、いつの間にか苦痛と感じるようになり、北京オリンピック後には“引退”が頭をよぎった。そんな中、周囲の人たちから「今、引退してしまったら、目標を達成できなかったという思いを残したままで終わってしまう」、「次の第二の人生を歩むときに、ネガティブな気分で発進するのは止めたほうがいい」と諭され、新たな目標を探し、再び歩み出すことを決めた。廣田さんは、「何かを達成してからトランポリンを辞めようと気持ちが切り替わったんですね。その何かが、全日本選手権10連覇でした。挫折した苦しさを少しでも小さくして、前向きに引退して、次に進むことが重要なんじゃないかと思いました」と回想する。
“どうしても叶わないものがある”ということを理解する必要がある。「どんなに自分が願っても、実現しないこともある。その状況を受け入れることができれば、人生が変わることを学びました。“なぜ、こんなことになったんだ”と思っている間は、自分の中で整理ができずにずっと苦しいままなんです」。大切なのは、今現在をゼロベースで捉え、踏み出そうとすることだ。
廣田さんは、10連覇達成の翌年に現役を引退。2017年には、元アメリカンフットボール選手の佃宗一郎さんと結婚。現在はご主人の実家が営む天然マグロの仲買のお店で、若女将を務めている。理想のマグロを求めて、東奔西走の毎日。「本当に奥深い世界!」と声を弾ませる廣田さんは、「マグロで楽しいことをしようというのが夫婦のテーマ。私たち、これまでスポーツをやってきたので、スポーツと食をつなげるイベントなど、面白いことをやっていきたいと思っています」と展望を明かした。10連覇を成し遂げたときのように、1つずつ確実に目標に向かって進むであろう廣田さん。彼女の第二の人生での“跳躍”に注目したい。
次回11月29日の放送は、11月に登場した迫田さおりさん、小林悠さん、大橋悠依さん、廣田遥さんが再登場。4人の「美学」を再び掘り下げる。