“途中参加”でも活躍するためには、誰にも負けない武器を持とう

2019.11.01 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。11月1日の放送は、元バレーボール日本代表の迫田さおりさんが登場。2年前にコートを去った迫田さんが、現役時代の体験や当時の心境などを語った。
■誰にも負けない武器があった
2006年に女子バレーボールの強豪、東レアローズに入団、2010年には日本代表に初選出。2012年にはロンドンオリンピックに出場し、得意のバックアタックで銅メダル獲得に貢献した。現役を退いた今、フラットな気持ちで選手生活を思い返す。
高校3年のときに出場した国体でのプレーが注目を集め、実業団入りした迫田さんだったが、当時は“怖い”という感情が大部分を占めていたという。迫田さんは「もともと高校が強豪校ではなく、そこから全日本クラスの方がたくさんいるチームに入れさせてもらったので、すごい場所に来てしまったな、という思いはありました。みなさん、バレーボールに対する考え方とか取り組み方が自分とはまったく違ったので」と振り返る。
そして、日本代表に選出された瞬間も、湧き出た感情は、喜びよりも怖さだった。「“まさか!”って思いました。ユニフォームを渡されたときは、本当に私が着ていいのかなって。東レに入ったときと同じくらい、怖かったですね」と回想する。
その怖さを押し殺し、日の丸のプレッシャーに打ち勝つのが最初の試練だった。自分のことを「マイナス思考」だという迫田さんは、「代表になったからには、絶対にネガティブなことは発言しちゃいけないし、インタビューでも嘘の自分を演じなければいけませんでした。ずっと背伸びしているような感覚で、もう逃げ出したいくらいの気持ち。でも、コートで輝きたいという思いもあるし、家族も喜んでくれるし、当時はいろんな感情があって、葛藤していましたね」と打ち明ける。
しかし、そんな迫田さんにも絶対的な武器、拠り所となる得意技があった。それがアタックラインより後ろから打つスパイク、いわゆる「バックアタック」。迫田さんは、「ポジティブな発言をするのが苦手なんですけど、でも、絶対にバックアタックだけは誰にも負けないし、負けたくないと思っていました」と語る。ロンドンオリンピックの最終予選となるキューバ戦では、途中出場にも関わらず20得点し、勝利を引き寄せた。「私が得点することで、いい流れが自分たちのコートに来るように、そんな1点になるように心がけていました。1点が3点くらいの重みになるような、試合に大きな影響を与えられる選手になりたいと思いながらプレーしていました」。
■怖くても、怖いと思わないようにするしかない
途中出場は、バックアタックと同様に迫田さんの代名詞になった。「スタメンじゃないというのは、残念な気持ちもやっぱりあるんですよ。同じポジションの選手が活躍すると私は出られないし、チームが勝っていて嬉しいけど、悔しかったりもします」と迫田さん。
その反動か、ここぞという場面で投入されたときの爆発力は凄まじい。リオオリンピックの最終予選となるタイ戦では、なんと途中出場で24得点を挙げる。「途中出場の緊張感ってものすごいんですよ。正直、怖かったりもするんですけど、(試合中に)怖いって思ったら、その瞬間にダメになってしまうので、絶対に流れを変える、絶対に私が活躍して点数を取るんだという気持ちでコートに入ります。本当は膝がガタガタなんですよ、震えて(笑)」と当時の心境を明かす。
チームメイトの存在も心の支えになった。迫田さんは、仲間に最大限の信頼を寄せて戦ってきた。「バレーは自分以外に味方が5人もいるので、自分ができなくても、仲間ができるように見せてくれるんです。レシーブとかできなくても周りが支えてくれる。逆に自分は得意なものでチームを支えればいい。そういう支え合いで強いチームになるんだと思います」と話す。
様々な葛藤やピンチを乗り越えて勝利を掴んできた迫田さんは、自分の経験やそのときの思いを飾らずに語る。その言葉からは、素直で純朴で柔和な人柄が伺える。現役を引退してから2年。まだやりたいことが見つかっていないという迫田さんは、一方で「焦って見つけなくてもいい」とも言う。「身を任せながら、いろいろなことにチャレンジして、現役時代のような感情になれるものを探していけたらと思っています」と笑顔を浮かべた。
次回11月8日の放送は、Jリーグの川崎フロンターレに所属するプロサッカー選手・小林悠さんが登場する。