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身も心も裸に。サウナ映画から見える、意外な社会の顔|フィンランド幸せ哲学 vol.5
Forbes JAPAN
2019.10.06 12:30
フィンランドと日本の外交関係の樹立100周年を迎えた2019年。夏にヘルシンキを旅する機会を得た。国連が発表する世界幸福度ランキングで、フィンランドは2年連続で第1位を誇る。

今回の旅を通じて、日本とフィンランドとの共通点や違いに着目し、私たちが学べるヒントを探った。このシリーズの最終回である5回目は、初めてのフィンランド式のサウナでの不思議な体験と、日本で公開中のサウナ映画から見えたフィンランド社会の意外な顔をお伝えする。

憂鬱なサウナの時間

「今回のツアーでは、サウナに入る時間がありますので水着の用意をお願いします」

旅に出る前にそんな連絡があり、私は身構えた。そして日程表を見て、さらにげんなりした。サウナに入るため、2時間たっぷりと時間が取られていたからだ。

銭湯や温泉は好きでも、長湯はできない質だ。のぼせやすいので、日本でサウナに入っても5分もたたないうちに出てしまう。そのうえ、初対面の人たちと一緒に入るなど御免だ、と思った。「フィンランド式サウナは別もの」とは聞いていたものの、私の不安を解消するには至らなかった。

実際にフィンランドを訪れると、ヘルシンキの市街地に屋外プールが併設されたサウナを見かけた。こんなところにもあるのか。聞けば、フィンランドには自宅やオフィスなどプライベートも含めて、人口約550万人に対して約300万個のサウナがあるという。恐るべし、フィンランド人のサウナ愛……。
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ヘルシンキ市街地にある屋外プール付きのサウナ

私の初めてのフィンランド式サウナの体験は、最終日に待っていた。ヘルシンキのPRを担う「ヘルシンキマーケティング」の女性担当者・サラの案内で、フィンランド湾を臨むヒルトン・カラスタヤトロッパホテルへ向かった。
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ヒルトン・カラスタヤトロッパホテルの一室の内観。

ここは歴史あるリゾートホテルで、ムーミンの作家トーベ・ヤンソンが、若い頃に宿泊しながら、花柄の壁画を手書きで描いたゲストルームがある。ホテルの案内人が特別に見せてくれた。祖父母の家に来たかのような、木目の梁が生かされた素朴な空間だった。
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ムーミンの作者トーベ・ヤンソンが壁に手書きで描いた室内装飾

サウナは、男女別で使用し、私は、案内してくれたサラと2人で入ることに。サウナとフィンランド湾に位置する海とを行き来して楽しむという。18時半ごろだったが、まだ辺りは明るい。まず、海に入ることを想定していなかった私は、サラのひまわりが描かれた夏らしく明るい水着と自分の持ってきた水着を比べて、恥ずかしくなった。なんと祖母から譲り受けた、暗いグレーの練習用水着を持ってきてしまったのだ。

彼女にそう伝えると、にっこり笑って英語で答えた。「外に出るときはバスローブを羽織って行けば大丈夫よ。さあ着替えて一緒に入りましょう」。

私が体験した不思議な「サウナ・マジック」

恐る恐るサウナに入ったが、私が知っている日本のサウナほど熱くないのだ。調べてみると、日本では100℃以上の高温サウナを好む人も多いようだが、フィンランド式では80~90℃が一般的のようだ。フィンランド式サウナは、熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」が特徴的。

サラがサウナストーンに水をかけると、蒸気が発生し、爽やかなミストのようになって気持ちよかった。汗は流れるように出てきたが、不快ではなかった。

私は2人きりの空間で、不得手な英語でコミュニケーションをとることにも不安があったが、このときばかりはなぜか話が弾み、「サウナ・マジック」だと感じた。サラのほうでも、私の言いたいことを理解しようと、かなり耳を傾けてくれたと思うが。

フィンランドの人たちは、夏になると、家族で山のコテージのような別荘に行き、サウナと湖などを行き来してリラックスするのが一般的だという。サラに誘われて、外の海へ。すると旅の参加者の男性陣がすでに海の中に入っていた。
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サウナ後に入った海は、太陽に照らされて輝いていた 

夏至の時期でまだ日差しがあり、海面は穏やかに波打ち、キラキラと輝いていた。当時の気温は20℃弱。海水は冷たく、ひざ下まで水がきたところで立ち止まってしまった。みんなから「早く!そのまま一気に入って!」と呼ばれたが、なかなか決心がつかない。

サラからは「好きなタイミングで入って。でも入ったら、慣れて気持ちよくなるから」と言われ、スーッと足先から肩まで海中に滑らせるようにゆっくり入っていく。確かに、日差しを浴びているからか、少ししたら水温にも慣れてきた。

それから何回かサウナと海を往復し、フィンランド式のリラックス法を体感した。参加者のひとりが、フィンランドでつくられたというジンを持ってきており、テラスでひと口だけ飲ませてもらったが、その味わいは格別だった。

20時を過ぎても日は昇ったままなので、時間の感覚を忘れて、あっという間に2時間が過ぎた。最初の不安はいつのまにか消えて、気づけばサラの彼の話まで聞くほど、円滑なコミュニケーションができていた。サウナの中で向き合ったことで、英語が不得手でも心が通じた気がした。

今回、ヘルシンキを旅する間に、真偽は不明だが、サウナにまつわるひとつの逸話を聞いた。ある取材をした際、女性から聞いたこぼれ話だ。

30年以上前のことだが、職場にもサウナが完備されているフィンランドでは、サウナの中で男性だけで重要事項を話し合われていることがあり、「それは男女不平等だ」と、男性と同じようにタオルを巻いて入って参加した女性がいたそうだ。だが、男性たちは「気が変になるから」と、サウナの中で重要な話し合いを進めることはしないようになったという。

日本で公開中のサウナ映画監督と会う

帰国後、偶然にもフィンランド発のサウナを題材とした映画が日本で公開され、共同監督した2人のフィンランド人のドキュメンタリー監督が来日するという情報をキャッチした。

映画は、アップリンク渋谷やアップリンク吉祥寺などで公開中のドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』だ。シャイと言われるフィンランド人男性が、身も心も裸になったサウナで、人生の悩みや苦しみ、幸せななどを打ち明ける、14のエピソードで綴られる。

この映画は、フィンランドでは2010年に公開されたが、1年以上のロングラン上映を記録したという。今年、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念して、9月14日から日本でも全国順次公開されることになった。
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『サウナのあるところ』 (C)2010 Oktober Oy.

キャッチコピーは「サウナのロウリュ(蒸気)は、やさしく心を溶かしていく」。男性たちが、さまざまなサウナで汗を流しながら次々と涙を流して語るシーンは、心の底から悲しみが浄化されていくようだ。
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ヨーナス・バリヘル(左)とミカ・ホタカイネン。フィンランド大使館にあるサウナで筆者が撮影。

監督は、ヨーナス・バリヘルとミカ・ホタカイネン。2人とも体格は大きいが、穏やかな口調で静かに話す姿が印象的だった。

出演者には、ヨーナスとミカが、手分けして全国の街中や公衆サウナなどで、「あなたの好きなサウナで、人生についての話を聞かせてほしい」と、直接声をかけて、探し回ったという。当然、裸で撮影することになるため、交渉のハードルは高かったのではないだろうか。するとミカは、首を横に振ってこう答えた。

「裸の状態は、フィンランドの男性にとってなんてことないんですよ。サウナに服を着て入らないでしょ。裸でいることは、自然でリラックスした状態なんですよ」

ミカはそれぞれにテレビや映画館の大きなスクリーンに映る可能性を説明したが、「何をゴタゴタ言っているんだ。早く入ろうよ」といった反応だったそうだ。

サウナで素顔を語る理由
ひとりの出演者は、犯罪歴があり、今では更生し、結婚して子供を授かり、小さな幸せを感じながら暮らしていることを、包み隠さず話していた。

彼との出会いのきっかけは、ミカが北極圏のある街で、スーパーマーケットのコーヒーコーナーの店員に映画撮影の話をした際に、紹介してもらったという。彼はすぐに店に駆けつけ、コーヒーを飲みながら少しだけ話をしてから、すぐに実家のサウナで撮影した。出会いからわずか30分ほどの展開だったという。

なぜ、彼らは素直に自分の人生を語ってくれるのだろうか。ミカはこう語る。「裸になるということは、何も武器など隠すものが無く、素の状態になる。すべてが削ぎ落とされて、格好をつけることもできなくなり、自然と心を開くのでしょう」。
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『サウナのあるところ』 (C)2010 Oktober Oy.

それにしても、登場する人たちが、物語のように話をするのがうまいように感じた。しかし、ドキュメンタリーなので、とくに演出をしているわけではなく、台本もあるわけではない。フィンランド人の男性は、寡黙だけど実は話をするのが上手いのだろうか。今度はヨーナスが首を横に振った。

「フィンランド人男性が話し上手というわけではなく、私たちはたっぷりと時間を与え、静かに黙って聞いていました。サウナでの雰囲気が、彼らを自然とそうさせたのでしょう」

これは、もしかしたら私がフィンランドのサウナで体験した「サウナ・マジック」と同じなのかもしれない、と思った。汗を流しながらリラックスできる空間では、心を開きやすいのだろう。

社会は男性たちの声に耳を傾けない

ヨーナスは続けて、フィンランド社会の意外な問題点を口にした。

「フィンランド社会では、男女平等が訴えられてきて女性の立場は良くなってきましたが、一方で、男性たちの声に聞く耳を持たないことが問題になっています。女性たちは元気ですが、フィンランド人男性は寡黙で、無口な人が多い。すると、社会も目をかけてくれなくなってきたようです」
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『サウナのあるところ』 (C)2010 Oktober Oy.

ドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』には、「男性の声にもう少し耳を傾けよう」、そして「男性たちはもっと心を開いて話しましょう」というメッセージも強く込められているそうだ。

実は、この裏テーマに、私はハッとした。私たちもフィンランド社会に目を向けたとき、福祉や男女平等において先進的だと感じるあまり、実際には新たな問題にも直面していることに、なかなか気づきにくいのではないだろうか。

確かに、フィンランドは、1906年から女性が参政権を獲得し、国会議員の4割は女性、閣僚は19人中11人が女性で男性より多く、先進的だ。日本の場合、先月発表された安倍内閣の新しい顔ぶれでは、閣僚19人中、女性は2人しかいない。

今後、日本でも政治だけでなく企業などあらゆる組織で、女性のリーダーが増えていくだろう。フィンランドは20、30年先の日本の未来の社会像を表しているようだ。

最後に、ミカとヨーナスに、日本とフィンランドの共通点と私たちへのメッセージを聞いた。

ミカは「性格的に控えめで、自分を表に出さない精神は似ているように感じる。ミニマリズムの考え方、もったいないという(物を大切にする)文化はフィンランドにもあります」、ヨーナスも「日本人には似たものを感じている」と語り、「フィンランドでも、かつては男社会で、一家の主人は男性だった。そして男性の生き方は、仕事がメインで自分のことは後回しにしがちでした。だからこそ、自分たちの体や心のケアにも目を向けて、自分を大切にしてくださいね」と呼び掛けた。

私のフィンランド紀行はひとまずここでピリオドを打つが、今回の旅を通じて、日本との精神性の共通点を認識しつつ、新たな社会の顔を知ることもでき、まだまだ奥深いものがあるように感じた。この国から学べることはもっとある。前回の両国の美学についてもそうだったように、お互いインスピレーションを受け合ってきた歴史がある。これからも、フィンランドの新しい姿を追っていきたい。

「フィンランド幸せ哲学」連載ページ開設
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Forbes JAPAN Webでは、「フィンランド幸せ哲学」の連載ページを開設。これまでの記事に加えて、今後も、フィンランドから学べるヒントを探るシリーズとして、随時更新していく。
文=督あかり 写真=Aleksi Poutala

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