新天地では“名刺”を剥がして生きよう

2019.10.04 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。10月4日の放送は、元フィギュアスケート選手の中野友加里さんが登場。現役引退時の思いや、転職後の心境、現在の目標などを語った。
■フィギュアスケーターという“名刺”を剥がす
日本フィギュアスケート界の黄金世代の一人として、どんなときも笑顔を絶やさず氷上で舞い続けた中野さん。二児の母となった今でも、「笑顔」は彼女のキーワードの一つだ。友達や周囲の人たち、そして家族に接するときは、常に笑顔でいることを心がけているという。「子どもも怒っているお母さんの顔は見たくないと思うんです。叱ったりすると私も表情が暗くなってしまうんですけど、その後は必ず笑顔になって、褒めてあげるようにしています」。
笑顔の大切さを実感したのは現役時代。中野さんは、フィギュアスケートを“女優”にたとえ、「音楽が鳴ったらどんな悲しいことがあっても、表情を作って演じなければいけないスポーツ。見ている方が楽しくなるような雰囲気を作ることが大事なんです」と語る。
中野さんがリンクを去ったのは、2010年。引退の決め手となったのは、自分のプライドだった。「どうしても全盛期の自分と比べてしまう性質なので、最高だった自分を超えたくても超えられなくなったときに、もう限界かなと思いました」と、当時の心境を明かす。さらに、「テレビドラマと一緒ですよね。“もう少し見ていたかったのに”というところで最終回を迎えて終わるんですけど、たぶんそれが一番良いんです。私もそう言われる段階で辞められて良かったと思いましたし、それ以降は見られたくなかった。プライドが高かったからこそ、辞められたのかもしれないです」と分析した。
しかし、新天地ではそのプライドがボロボロになる。中野さんは引退後、テレビ局に転職。24歳にして第二の人生をスタートさせる。「最初は、映画のAP(アシスタントプロデューサー)を担当しました。プロデューサーから“これとこれとこれをやっといて”って言われるんですけど、まず言葉がわからない。“わからないことがわからない”状態なんです(笑)。ものすごく怒られたりして、私、ついこの間まで氷の上で滑っていたはずなのに、なんでこんなに言われなきゃいけないんだって」と、悔しさに身を震わせたこともあったという。
転職してから、1年ほどが経ち、気が付いたことがある。「これまでの“フィギュアスケーター・中野友加里”っていう、大きな名刺を剥がさないとこの先やっていけないと思ったんです。自分がフィギュアスケーターだったことは忘れようと思ったときに、変なプライドもなくなりましたし、働きやすくなったといいますか、すごく物事の吸収が早くなりましたね」と振り返る。
■0から1に進んでみることの大切さ
結果的に、テレビ局の仕事は中野さんを大きく成長させた。2019年に退社するまで様々な経験を積み重ねてきたが、振り返って思うのは、結局、何事もやってみなければわからないということ。「まずはやってみる。合うか合わないかはそれからかなって思います。一歩を踏み出すのは大変ですけど、でも0から1に進んでみたら、1が2や3になるかもしれない。もちろん、0に戻るかもしれませんけど、とにかくやらなきゃ始まらない」と強調する。
現役引退後にプロやコーチとなり、フィギュアスケートに携わる道もあったが、中野さんは違う業界に触れて、異なる能力を身につけることも今後の人生の糧になると考えた。まさに「やってみなければわからない」の精神で、未知の世界に飛び込んだ。
現在は子育てに追われる毎日だが、そんな日々の中でも、新しい目標を定めている。それは、自分の原点ともいえるフィギュアスケートにまつわる資格だ。「この先、10年くらいかかるかもしれないんですけど、全日本選手権の審判員をやるという夢があります。選手が成長できるように見守り、応援したいと考えていて、行き着いたのが審判でした。やっぱり合うか合わないかはやってみないとわからないので、挑戦してみようと。他にもいろんなことにチャレンジしたいし、子どもたちにもそうあってほしいと思っています」と中野さん。
異例とも言える、トップスケーターからテレビ局社員への転身。そして、二児の母となって抱く審判員という次なる夢。何事にも果敢に挑戦し、新しい知見を得てきた中野さんは、今も氷上で舞っていた頃と同じように笑顔を輝かせている。
次回10月11日の放送は、なでしこジャパンの一員で、女子サッカー選手の岩渕真奈さんが登場する。