自分自身の変化が、誰かの人生を変えていく

2019.09.20 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。9月20日の放送は、女子ラグビー日本代表で、アルカス熊谷に所属する鈴木彩香さんが登場。代表をけん引するトップ選手として、“変わること”の大切さを語った。
■自分の変化が、誰かの人生に影響を与える
激しいボディコンタクトが繰り広げられるラグビーという競技で、約10年にわたり日の丸を背負ってきた鈴木さん。フィールドでは、感情を露わにすることも少なくない。後輩のチームメイトや自身の教えるジュニアの生徒に対し、厳しい言葉で“愛のムチ”を振るうこともしばしば。鈴木さんは、「私が怒るときは変わってほしいとき。泣いてしまう選手もいますが、しっかり責任を持って自立した選手になることが世界で戦うために必要なので、それを自覚してもらうために伝えるようにしています」と言い切る。
一方で、選手へのサポートも欠かさない。「チャレンジする人には絶対に怒りません。むしろそこで起きるミスは大歓迎。自分の意志を持って意見を言ってもらえれば、助言もたくさんできますから」と説明する。
チームを成長させるために叱咤し、試合に勝つためにアドバイスを送る。現在29歳の鈴木さんは、すでに一選手の枠を飛び越え、日本女子ラグビー界全体のことを見据える立場にいる。勝つために変わらなければいけないというのは、自身の経験から得た大きな“気づき”だった。
2009年、7人制ラグビーが2016年のリオオリンピックの正式種目に決定。以降、急速に日本代表の強化が進められてきた。選手の自費で合宿を行っていたようなマイナー競技が、オリンピック競技になったことでにわかに注目を浴び、環境は激変。
その中心にいた鈴木さんは、20歳で代表のキャプテンを務めることになり、リオを目指す中で、次第にプレッシャーを感じるようになっていった。「当時は、使命感だけでラグビーをやっていたと思います。代表のあるべき姿とか、自分が引っ張って行かなきゃとか、勝手にいろんなことを背負い過ぎていて。そのときは人に頼るということも、チームの作り方も知らなくて、すごく苦しんだ自分がいて……」と振り返る。
結果、リオでは3戦全敗。高い理想を追い求めるあまりに押しつぶされそうになっていた鈴木さんだったが、昨年の冬、ラグビーの本場であるニュージーランドにホームステイしたことで、凝り固まった視点を変えることができたという。「それまでは自分のパフォーマンスを上げることに重点を置いていましたけど、そうじゃない。私が誰かに影響を与えることで、大げさですけど、その人の人生が変わって、それによって私も変わってくる。そういう繋がりってすごく大事だなと。自分の行動や発言がチームにどう影響を与えるかを考えられるようなったことで、厳しくもなれたし、優しくもなれた。愛を持って人に接することができるようになりました」。
■切り替えること、変わり続けること
試合中に悲しんだり、悔しがったりすることはない。鈴木さんは、「1回泣くと気持ちが崩れてしまうし、7人制だと1日に3試合やることもあるので、切り替えが大事だと後輩にも伝えています。喜んだりはしますけど、悔しがったりはしないようにしています」と説明する。
来年の東京オリンピックは7人制、再来年のワールドカップは15人制で臨む日本代表。しかし、年齢を考えると、選手生命は長くないと自覚している。鈴木さんは「高校生のときに初めて日本代表として海外で試合をして、けっこうボロボロに負けてしまって。そのときに決めたのは、自分自身が引退したとしても、指導者になって、日本チームの強化に貢献したり、子どもたちに教えたりしたいと考えています」。
自分が変わることで、人を変えることができる。試合ごとに気持ちを切り替える。勝利を掴むためには、いつまでも同じところに留まってはいられない。それは選手でも、指導者でも同じことだ。最高のトライを決めるため、鈴木さんは常に変わり続けていく。
次回9月27日の放送は、9月に登場した松田丈志さん、谷川真理さん、鈴木彩香さんのエピソードをプレーバックし、彼らの輝きの秘密に迫る。