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アジア最強の生き方は、「日本」にあり
Forbes JAPAN
2019.09.16 12:30
米中貿易戦争で世界経済が揺れるなか、筆者は今後を見据えて東南アジアの各国を訪れた。明日の成功を信じて働く人々を見て成長を確信する一方で、そこで気づいた日本の強みとは。

6月の後半に10日間かけてフィリピン、ベトナム、インドネシアを回ってきた。マニラ、ハノイ、ホーチミン、ジャカルタの4都市である。

観光ではない。米中貿易戦争を受けて、中国のサプライチェーンが身動きを取れなくなってくると、必ずそのおこぼれを頂戴する国や会社が出てくるはずだ。日本や韓国、台湾、タイなどが有力な候補地だが、ベトナムやインドネシア、フィリピンも次に有力な候補地だ。ちなみに、その頭文字をとってこの3国をよく「VIP」と呼ぶ。

ベトナム、インドネシア、フィリピンをはじめ、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国の産業構造をみると、類似するところが多い。一握りの巨大財閥(場合によっては共産党)が富の大半を握る構図で、その主力産業は不動産・建設、流通、金融、通信、建設関連素材、プランテーション、資源・エネルギーなど、経済の中心を占める広義のインフラ産業である。いわば川上産業が中心で、ITをはじめとする川下産業の多くは先進国企業に中核技術を依存している。

ASEAN各国市場を大局的に見れば、国が高成長するグロースの要素が強い一方で、国内産業はほぼ農業や観光、建設、不動産、インフラ型産業によって成り立っている。もしこのまま産業構造が変わらなければ、今から5〜10年間に1人当たりGDP(国内総生産)が5000〜6000ドルに倍増するものの、それくらいが天井になるのではないか。

もちろん、このレベルまで到達することは十分に可能で投資の好機だと思う。だが、国民全体で幸せを感じるだけのレベルになるかどうかに関しては、今のところ難しいように思える。この壁を突破できずにもがいているのが今のタイだ。

日本は川下産業で輸出をし、川上産業の製品を輸入している。鉄鋼や電子部品、自動車部品、自動車、パソコンなどを海外に輸出している。これらの製品を作るには、高度な技術の蓄積と高い教育水準、優秀な下請け製造業やハイテク工場が必要だ。日本ではこうした企業があるのは当然だが、前出のASEAN諸国の多くにはそのような技術基盤や生産基盤がない。

ないなら作る必要があるが、残念ながらこれらは一朝一夕には獲得できない。10年かかっても、韓国や台湾、中国、日本に迫ることは難しいだろう。私たちが当たり前だと思っている製造業の厚みというのは、それほど簡単には得られないのだ。

日本は少子高齢化が進んだ”老人国”で、魅力がないように思い込んでいる人も少なくない。しかし、ASEAN諸国を回ると、そのような当たり前を確保するのにどれだけ長い時間や資本蓄積、教育の厚みが必要かということを思い知らされる。安心ばかりしていられないが、私たちの今の水準に中堅アジア諸国が追いついてくるのが難しいのも事実だ。

中国はアリババやテンセント、バイドゥなどに代表されるネット関連企業や、ファーウェイなどのIT企業(川下産業)が勃興することで、5000〜6000ドルの天井を突破し、1万ドルに到達した。

産業構造の高度化と同時に、いかに底辺(貧困層)を底上げしていくか、が「VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)」の課題である。政治利権と絡みながら、巨大財閥が分厚い利潤の下で富を支配するのが基本的な構図だろうが、経済成長の限界に達した場合、政治や財閥批判など社会が不安定になる要素も内在する。将来的なリスクがあるのは間違いない。

確かに、全体的には光と影が同居している。とはいえ、プラスとマイナスを相殺しても今後の5〜10年、VIPは魅力的な投資対象であり続けるだろう。まだまだインフラ整備を行い、国民の生活水準の底上げを図らなければならない局面にあるからだ。各国に、「今日よりも明日、明日よりも明後日、生活がもっとよくなるだろう」という実感があり、街行く人の表情は全体的に明るい。今回の訪問先はいずれもそれに関連するドライバーを持ち合わせており、投資対象として面白そうだ。

ASEANには希望、日本にはチャンス

ASEANには投資先があるという確信を持ちながらも、あらためて日本の魅力にも気づかされる。日本の場合、がんばって勉強し、努力すれば、貧困層にいたとしてもそれなりに夢や期待を持てる環境である。

ベトナムの最貧困地域で生まれていたら、ほぼ100%その状況を逃れることは難しいだろう。仮に勉強ができたとしても、ベトナム共産党幹部との接点がなければ、大きく成功することは容易ではない。フィリピンで麻薬が社会問題化しているのも、激しい経済格差があるからだ。

日本ではどの地域にも運と努力で這い上がってきた経営者が存在する。そのような経営者と接し、彼や彼女らが経営する会社に就職することは可能だ。それになによりも、日本は安全で清潔な国である。

日本にはなく、ASEANにあるのは”希望”だ。それでも日本にも本当は希望もあれば、チャンスも満ち溢れている。たとえ特定政党や宗教団体の幹部にならなくともいくらでも成功できるし、国は安全で清潔なうえ、教育機会もある。快適な図書館が日本中にあり、インターネットで良質な情報を得ることもできる。今回の訪問で、アジアで最強な生き方とは「日本で挑戦心をもって行動すること」と、強く確信した。

まさに、「Forbes JAPAN」の読者諸賢にはそのような人たちが多いのではないか。私たちは、チャンスの海のなかにいる。その幸せをかみしめてほしい。

ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。著書に『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社刊)など。

連載:カリスマファンドマネージャー藤野英人の「投資の作法」
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文=藤野英人

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