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ドイツバレエ新勢力が初来日 まったく新しい『白鳥の湖』
CREA
2019.09.07 21:00
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バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』より。 ©Gert Weigelt
 ドイツのバレエ・カンパニーといえば巨匠ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団や、多くのスター・ダンサーが在籍するシュツットガルト・バレエ団が有名だが、現在「新勢力」として台頭しているバレエ団が初来日をする。デュッセルドルフとデュースブルクに本拠地を置くバレエ・アム・ライン(ライン・ドイツ・オペラ・バレエカンパニー)だ。
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バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』よりオデットとジークフリート。 ©Gert Weigelt
 ドイツの地方オペラハウスの付属カンパニーであったバレエ・アム・ラインを、一躍「ホットにした」振付家が、マーティン・シュレップァーという人物。耳慣れない名前かもしれないが、2020年からマニュエル・ルグリの後任としてウィーン国立バレエ団の芸術監督に決まっている。
 1994年にベルン・バレエの芸術監督となり、1999年から2009年まで自らが結成したバレエマインツで芸術監督を務め、2009年からバレエ・アム・ラインの芸術監督兼首席振付家に就任した。ブノワ賞ほか多数の賞に輝き、実力派として名を轟かせている。
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数々の受賞歴を持つ振付家のマーティン・シュレップァー氏。 ©Gert Weigelt
 2019年9月の来日公演では、2018年に完成したばかりの『白鳥の湖』を上演するが、これが普通の『白鳥の湖』ではない。有名なプティパ=イワーノフ版以前に存在したオリジナル版リブレット(台本)を原本とし、一般的に知られることのなかった多くの登場人物を舞台に上げて、観衆にとって未知の『白鳥の湖』を披露する。
 ダンサーの動きも美術もユニークで、チャイコフスキーの音楽も「原典版」に準じて、耳慣れない構成で使われている。バレエに新しい概念をもたらそうとする「挑戦」ともとれる。
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バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』よりジークフリートと友人たち。 ©Gert Weigelt
芸術監督シュレップァーの 舞踊哲学と信念
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インタビューに答えるマーティン・シュレップァー氏。
 インタビューに現れた芸術監督マーティン・シュレップァーは謙虚で物静かな人物で、牧師のような雰囲気の持ち主だった。ところが、バレエについて語りだすと、とことん熱くて妥協がない。彼はたった一人で旧態的なバレエを覆そうとしている革命家で、その姿勢には全く妥協がないのだ。彼の舞踊哲学と信念、『白鳥の湖』に託した未来的な芸術観をたずねた。
 「私が2009年にバレエ・アム・ラインに来る前は『ライン・ドイツ・オペラ・バレエ・カンパニー』という名前で、それ以前にも偉大な監督がこのバレエ団を支えて成功を収めてきました。私がここに来てやりたかったことは、バレエの構成をよりクリアにして、ピュアなダンスを創造するために、振付の抽象度を上げることでした。
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振付を行うシュレップァー氏。 ©Gert Weigelt
 バレエ団にはオーケストラが二つ存在します。デュッセルドルフ・フィルハーモニーと、デュースブルク・フィルハーモニーです。この二つのオーケストラを使えるという条件で、私の『まず音楽ありき』というアプローチが活かせると思いました。マーラーのシンフォニーやブラームスのドイツ・レクイエム、モダンなところではリゲティにも振付をしました」
 シュレップァーが芸術監督として果たした中でも大きな功績は、3,000平方メートルの敷地に建てられた5つのスタジオをもつ「バレエハウス」の完成だ。財政面での窮状が叫ばれるヨーロッパの歌劇場で、デュッセルドルフがこれだけの予算を芸術に投入するのはレアなケースだ。
「インターナショナルな認知度という面でも、芸術的な評価の面でも、私が就任してからの5年間でそれに見合う成果を出してきたから実現しました。3年前に完成しましたが、それが私の芸術監督としての任期を延長する条件だったのです。それが政治を動かした理由だったと思います。かつてジョン・ノイマイヤーがハンブルク・バレエでなし得たことですが、彼がそれを実現できたのは70年代~80年代のダンス・ブームの時代だったからです。それ以来の改革が出来たことは喜ばしいことだと思います。
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シュレップァー版『白鳥の湖』はドイツ国外では、今回の来日公演が初披露となる。
 アーティスティックな状況が変わり、ダンサーやスタッフはリラックスして仕事に励むことが出来るようになりました。5つのスタジオのうちひとつは、ステージと全く同じ大きさです。平行して複数の作品のリハーサルが出来るのは素晴らしいことですよ。事務局にとってもオフィスのスペースを十分とることが出来るし、キッチンも設置されました。マッサージや治療を受けられる場所、メディテーション・ルームやジム、サウナもあるんです」
初版台本のみの人物も登場する シュレップァー版『白鳥の湖』
 従来的なバレエとは異なる「心理バレエ」を創造することがシュレップァーのライフワークだ。
「『白鳥の湖』を作ったのは、私個人のテーマとして、古典的な大きな作品を採り上げたいと思っていたからです。最初は『眠れる森の美女』とどちらにしようか迷ったのです。『眠れる……』のほうが『白鳥の湖』より抽象的な表現が可能だと思っていたからです。
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バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』よりオデットとジークフリート。 ©Gert Weigelt
 しかし、私の中には人間の心理を扱うこと、人と人との関係を心理的に観察していくことへの興味がありました。その点で『白鳥の湖』のほうがふさわしかったのです。
 音楽も決め手になりました。チャイコフスキーの音楽というのは本当に劇的です。小澤征爾の指揮による録音を聴いたとき、倒れてしまうような衝撃を感じ、それが最後の一押しになりました。全然ダンスにフォーカスした指揮ではないのです。すごいドラマが詰まっていて、ダイナミックな音でした。これでいけるんじゃないか、と閃いたのです」
 生粋の演劇人であるシュレップァーはリブレットにも強いこだわりを見せる。
「モスクワでの初演は失敗したと言われており、その後、リブレットを大々的に改変して、プティパ=イワーノフ版が成功するわけですが、私はもともとのオリジナルを忠実に再現したかったので、初版台本にしか登場しないオデットの祖父や、オデットの継母が登場します」
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オデットの継母と従者たちを前に力を失う白鳥たち。 ©Gert Weigelt
「ロットバルトは悪魔として描かれているけれど、本当に魔法を使って悪を行使しているのはオデットの継母で、ロットバルトは魔法を遂行するだけの存在なんですね。オデットの母と継母は別の存在で、これを細かく説明していくと膨大な時間がかかってしまいます(笑)。複雑に考えず、舞台を見ればクリアに感じることが出来ると思います」
「私の振付作品では 弱い女性は一人も登場しません」
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ロットバルトとオディール。 ©Gert Weigelt
 トゥシューズはロマンティックとは関係なく、女性を強く見せるもの、とシュレップァーは断言する。
「私の振付作品では、弱い女性は一人も登場しません(笑)。女性は皆、強い存在です。そして、私は白鳥たちを女性として描きます。彼女たちは昼の間は白鳥ですが、夜から朝までは女性だからです。
 こうしたストーリー・バレエは、ずいぶん昔に『火の鳥』に振付をして以来ですが、ダンスとしてはモダンでイマジネーションを刺激するものです。私は現代の振付家として、我々が生きている世界と関連のあるものを作りたいのです。
 そして『心理』というものを何より大事にしています。同時にメルヘンでもあるわけですが……ストーリーは小説よりも、はるかに詩に近いものなのです」
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バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』より白鳥たち。 ©Gert Weigelt
 2019年3月9日(土)に台中国家歌劇院で観たシュレップァー振付の『マーラー交響曲第7番』は、シンフォニー『夜の歌』を丸ごと使った休憩なしのモダン・バレエで、ピットにはフル・オーケストラがびっしりと入っていた。
 「これはとてもトランペットのパートが難しい曲なんだ」といたずらっぽく微笑んでいたシュレップァーは、クラシック音楽の大ファンでもあるのだろう。ダンスはユーモアあり、男女ともパワフルで、最初から最後まで特別なエネルギーに溢れていた。「これが私の見たいものなのだ!」という振付家の強い意図が伝わってくる。
 ストイックなまでに「本物」と「オリジナル」にこだわり、バレエが現代に存在する意味をつきつめていくマーティン・シュレップァー。ダンサーは皆、彼の哲学に魂を捧げている戦士たちだ。舞台から溢れ出すメッセージに、最先端のバレエの威力を感じた。
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バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』よりオデットの祖父と白鳥たち。 ©Gert Weigelt
 2019年9月の来日公演では、世界でただひとつだけの『白鳥の湖』をバレエファンに是非体感してほしい。
バレエ・アム・ライン初来日公演
マーティン・シュレップァー演出
『白鳥の湖』
https://ballettamrhein.jp/
文=小田島久恵

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