“本物の一瞬”を掴み取るために、いつもの“一瞬”がある

2019.07.05 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。7月5日の放送は、平昌五輪で銅メダルに輝いたスキージャンプ選手・高梨沙羅さんが登場。競技への思いや、意外なプライベートなどを語った。
■「心技体」のバランスが取れないと結果は残せない
高梨さんは、2014年のソチ五輪、2018年の平昌五輪と、2大会連続で日本代表に選出。現在、ワールドカップ女子最多優勝を誇るスキージャンプ界のスーパースターだ。競技を始めたのは小学校3年生の頃。遠くに飛べる楽しさにのめり込んでいく一方で、90メートル以上もの高さから飛び立たなければいけないスキージャンプの怖さも知っていく。「アウトドア競技なので、風やそのときの状況によって恐怖感を抱くことはあります」と告白。「そういうことにも対応していかなければならないので、体と心と技術のバランスを取っていかないと、やはり試合では結果を残すことはできないのかなとは感じています」と語った。
「心技体」のバランスを取るには、ONとOFFの切り替えも大切だ。高梨さんはそのメリハリをつけることで、ONの状態になったときに、より競技に入り込めるようになるという。OFFのときは、できるだけスキージャンプ以外のことをするようにしている。例えば、髪の毛のケア。海外遠征の合間に美容室へ通い、トリートメントをしてもらうことも大切なOFFの過ごし方だ。馴染みの美容師さんとおしゃべりする姿に、22歳の素顔が垣間見える。「海外に行くと紫外線も強くて、水も硬水なので、髪の色がどうしても抜けていってしまうんですよね。なので、合宿から帰ってきたときに綺麗にしていただいています」と高梨さん。
自分の“美”に手間をかけることは、気分転換でもあり、実はスキージャンプという競技のためでもある。高梨さんは、「もっとたくさんの方に知っていただくために、自分ができる限りのことはしていこうと思っています。やはり、目に見える感じとか、外見的なところも重要になってくるのかなと、歳を重ねるごとに感じています。皆さんに興味を持っていただけるような準備はしておきたいなと思って」とその胸中を明かす。
理想の女性像を聞かれると、「芯がある女性がいいです。自分の信念を持っていて、そこに突き進んでいる凛とした女性が好きです」と答えた。ソチ五輪で期待されながらも4位に終わり、スキージャンプを辞めようと思ったこともあったという。挫折を経て、練習を重ね、結果を追い求めてきた。今では競技全体のことも考えるようになった高梨さんは、まさに自身の理想としている女性像に近づきつつあるのかもしれない。
■“本物の一瞬”を掴み取るために
スキージャンプは、一本飛んだら、時間をかけて再びジャンプ台に戻らなければいけない、インターバルの長い競技だ。高梨さんは、ジャンプ台に上がるまでに、自分の中で作戦を練り、まとめて、それを試すかのように再び飛び立つのだという。「そこでしっかりと考えておかないと、やっぱり無駄な時間が過ぎてしまうので。いかに詰めこめるかによって、練習の内容は変わってきます」と真剣な眼差しで語る。時間を大切にするという意識が、高梨さんを一流のスキージャンパーにした。
ジャンプ台に上がり、スタートしてからは一瞬。その中でもミリ単位の調整を行っていかなければならない。自分の感覚が研ぎ澄まされ、極限まで集中し、踏み切って大空へ。「一番楽しく飛べるところがそこなので」と笑う。
“一瞬”は高梨さんを形作るキーワードの一つ。趣味は「フィルムカメラ」だということも象徴的だ。「心が動いたときにその瞬間を切り抜きたいと思ってシャッターを切ることが多い」という高梨さん。「スポーツもそうだと思いますし、そのときに出会った景色もそうだと思うんですけど、決められていないというか、シナリオがないからこそ、初めて自分がその場に行って感じたことが“本物”だと思うんですよね」。
競技において、“本物の一瞬”を掴むために心がけているのは、焦らないこと。そして、諦めないこと。「焦ってしまうと自分を第三者的に見られなくなってしまうので。しっかりと、自分の何がいけないのかを分析して、次につなげていくことによって、諦めずに自分自身を“結果”に導いていくことができると思います」と語る。一瞬一瞬を大切にしているからこそ、次の一瞬が訪れる。22歳のスキージャンパーは、さらなる高みを目指し、これからも大空へと羽ばたいていく。
次回7月12日の放送は、フィギュアスケート選手として活躍した、織田信成さんが登場する。