仕事は「企画力」より大事なものがある?建築家が語る仕事術

2019.01.25 20:00
TOKYO FMで毎週金曜日の19時30分~19時55分に放送している『JINS presents松任谷正隆のおでかけラジオ』。音楽プロデューサー・松任谷正隆氏が、ゲストの好きな場所を訪れて、ゲストのいろいろな「好き」を紐解いていきます。

1月18日(金)は、11日の放送に引き続き世界で活躍する建築家・藤本壮介さんがゲスト。集中できるワークスペース「シンクラボ」をはじめ、数々の作品を世に送り出してきた藤本さんがご自分の作品をどう捉えているのか、そして藤本さんが考える”建築家のあり方”について伺いました。
人が「心地いい」と感じる空間にはルールがある?
人が好む空間というのはどんな空間なのでしょうか。ご自身は”隅っこ”のような空間が好き、という藤本さん。何ともいえない安心感があって、でも閉ざされているわけでもなく、開放感もある、と藤本さんが語る”隅っこ”。人間が本能的に感じるそうした快適さを建築に置き換えてみるところに、面白さがあるといいます。

松任谷正隆(松任谷):僕、閉所恐怖症なんですけど、狭いところ好きなんですよ。どうしてなのか、教えていただきたい。
藤本壮介(藤本):人間は相反する、たとえば閉じている場所と開放的な場所、どちらかだけじゃなくて、何となくうまく混ざり合っていたり、両方が同時に体験できたりするのは、実は豊かな場所じゃないかと思うんですよね。
松任谷:そうだ、今ふと思ったんですけど、僕が閉所恐怖症になるのは狭い飛行機の中なんです。逃げられないじゃないですか。でも何かで区切られた狭さで、その区切りが柔らかいものや、開放できるような保証があれば、狭い場所は確かに気持ちいいですよね、両方あるっていう意味で。
藤本:その両方は、広いと狭いでもいいし、明るいと暗いでも、緊張とリラックスでもいい。せっかく両方を感じ取れる感性があるんだったら、その間を行ったり来たりできるように場所を作ってあげると、すごく豊かなのでは?と。
藤本さんにとって、自身の作品とは子ども?
松任谷:藤本さんにとってご自分の作品とは何ですか?子どものようなもの?
藤本:作品ができあがると社会に出ていくのですが、自分から離れるというよりは、これからの未来の自分の創造の種にもなるんですよね。
松任谷:じゃ血は繋がってますね。
藤本:血はずっと繋がっていて。大きな川の流れのような感覚を僕は持っていて、いろんな流れが分かれていくけどまた繋がってきたり。
松任谷:ご自分の作品が川になっているっていう意味ですか?
藤本:そうですね。知らない方向に流れていったのが、5年ぶりぐらいにまた戻ってくる。いろんな社会を経て戻ってきているから、当初考えてた時とは違う姿で戻ってきたりする時もあるんですよね。

松任谷:具体的に、どういうことですか?
藤本:かつて武蔵野美術大学の図書館を設計しましたが、「図書館とはこういうものじゃないか」「ああいうものじゃないか」と当時考えていたことがありますよね。できあがって7、8年くらい経っていますが、もちろん自分も変わっているし、図書館を使っている人からいろいろ言われることもある。そうすると当初考えていたこと以上に、その意味がどんどん膨らんでいくんですよね。じゃあ、もう一度図書館をつくろうとなったり、大学の施設をつくる時に、あの時考えていた人と空間の関係も変わっていたり…。
松任谷:なるほど、「アイデアの川」ということですね。
藤本:はい、いろんなアイデアの川が流れていて、それが太くなったり細くて急になったり、いろんなものが混ざって、別のアイデアに変わっていくような川を、自分自身も一緒に流れているみたいな。
建築家は裏方? 旗振り役?
松任谷:建築家のスタンスっていうのは、裏方のスタンスですか?
藤本:そうですね。難しいのが、特にヨーロッパ、最近はフランスでプロジェクトをやっていると、いいデザインをつくることも大事ですが、それよりもプロジェクト全体を引っ張っていく人、あるいはプロジェクトどころか社会全体を引っ張って行くみたいな役割を感じる時が結構あるんですね。本来は裏方ですが、同時に「こいつが言うならこういう未来もあるのかもしれないな」という、ある種の責任もあります。こういう建築家のあり方もあるのかなと感じて面白かったですね。
松任谷:ご自身が引っ張っていくっというよりも、ご自身の創造していくものが引っ張っていくって感じじゃないですか?
藤本:そうですね、そこに関わる人たちのエネルギーが最初はいろんな方向に向かっていて、エネルギーのポテンシャルはすごくあるけど、どっちに行くんだろう?という時に、我々が提案するものが指し示す方向にみんなのエネルギーがすっと流れはじめる、みたいな。
確かに僕自身が引っ張るというよりは、プロジェクトの流れを作ってあげる。つまり僕が作ったことが大事ではなくて、自分たちが関わる人たちが潜在的に欲しいな、こういう方向かなと思っていたものにカタチを与えるような…。流れができるというか、流れをつくるような位置付けかと思いますね。

松任谷:なかなか深いですね。ご自分のスタイルを「こう」と決めてしまってはいけない仕事ですよね。大変だなと思います。
藤本:そうですね。それがまた楽しいところでもあって、あぁ自分はこんなものをつくるのかと。状況に後押しされるように案が生まれてきて、自分でも驚くみたいな時もあって。それはすごく面白いですね。

思わず引き込まれてしまう藤本さんのお話を通して垣間見える建築の世界は、知れば知るほど奥深いものでした。独創的な新しい空間を次々と生み出し、国内外から高い評価を得ている藤本壮介さん。これからのご活躍も楽しみですね。
番組恒例の厳選手土産
「おでかけラジオ」では、松任谷さんが自ら選んだ手土産をゲストに贈るのが恒例。藤本さんの写真を見て「この人はコーヒー豆を挽いてコーヒーを飲む人じゃないか」と想像したという松任谷さん、今回はハワイのコーヒー豆「ハワイカウ」を持参しました。松任谷さんも大好きというこのコーヒー豆、ハワイ島のカウ地区産で、スターバックスの一部店舗限定で販売しています。

【番組情報】
番組名/「JINS presents松任谷正隆のおでかけラジオ」
放送局/TOKYO FM(80.0FM)
放送日時/毎週金曜日19:30~19:55(FM群馬 土曜18:30~)