まるで禅寺のような空間。集中できるワークスペース「シンクラボ」

2019.01.18 20:00
TOKYO FMで毎週金曜日の19時30分~19時55分に放送している『JINS presents松任谷正隆のおでかけラジオ』。音楽プロデューサー・松任谷正隆さんが、ゲストの好きな場所を訪れて、ゲストの好きな人、好きな時間、好きな言葉など、いろいろな「好き」を紐解いていきます。

1月11日(金)の放送では、建築家の藤本壮介さんに会いに、東京・飯田橋にある「シンクラボ」へ。藤本さんが設計した「シンクラボ」は、“世界一集中できる場”を目指し進化し続ける会員制ワークスペースです。
新しい「働き方」を提案するワークスペースとは?
集中できるワークスペース、という大きなコンセプトのもと作られた「シンクラボ」。イメージしたのは、禅寺の緊張感と緩和、その両方が両立しているような空間だったのだとか。その「シンクラボ」を、設計者である藤本さんご自身に案内していただきました。

入ってすぐにある、10m以上続く石の廊下は、あえて長く、そして閉ざされた空間にすることで期待感と緊張を高めるよう設計されているのだそうです。廊下に響く自分の足音を聴きながら少しずつ緊張を高めていくと、突然目の前がひらけ、廊下でぎゅっと視界を狭めていたところからふっと解放され、29階から見下ろす東京の街並みを見ることができます。
ワークスペースでは、机の配置や3種類ある椅子のデザインはもちろん、BGMには実際に森で収録したという鳥や虫たちのさえずりが流れるなど、計算しつくされた空間になっていました。
国が違えば考えも違う。では大切なことは?
松任谷正隆(松任谷):ずっと建築をなさっていて、どういうところに自分のアイデンティティを持っていらっしゃるんですか?

藤本壮介(藤本):建築ってとてつもなく複雑で、いろんな要因が絡んでくるんですよね。最近僕らもヨーロッパで仕事をすることが増えてきて、パリに3年ぐらい前から事務所を持っているんですが、特にヨーロッパは歴史、文化の背景があって、現在のライフスタイルがあって、それが未来にどうなっていくんだろうっていう。いろんな条件がある中で、そこに最後、ひとつの形を与えていくような仕事だと思うんですね。

松任谷:パリでびっくりするのは、シャルル・ド・ゴール空港のカプセルのような未来的な建築がある一方で、街では例えばカーテンを変えるのにも許可がいる。あれはどういうこと?
藤本:まさに歴史と未来、古くからあるものと新しいもの、この対比と調和みたいなものが常に街のエネルギーになっているような感じはありますね。

古いものがしっかりあるからこそ新しいアイデアを受け入れることができて、新しいものが入ってきた時に、古いものの価値がより引き立つ。そして、古いものにただ古いものを合わせるのではなく、全く新しい考え方を持ってくることで、古いものの意味が新しく再解釈されるのだ、と語る藤本さん。

藤本:僕は建築を手がける中で、人間と自然と建築の人工物、この3つの関係を考えながら新しい住環境、新しい生活環境のようなものを常に提案していくことが醍醐味だと思っています。

松任谷:国が違うだけで、考え方ってだいぶ違うものでしょう?

藤本:そうですね、そこが面白いところでもある。あたたかい所と寒い所、開放的な国民性と自分たちを守り大切にするような国民性など、多種多様ですよね。それを見ながら、こういう場所ならこんな建築が可能ではないかと新しいものを提案して、その土地の人たちが受け止めてくれることが一番面白いですね。
アイデアの作り方は変化するし進化する
松任谷:藤本さんが建築家として20年やってこられて、ご自分でどこがどのくらい進化した、変化したと思われますか?

藤本:最初の構想段階、詳細を詰めていく段階、あと実現していく段階、大きく3つに分かれると思いますが、どのレベルでも当然進化はしていると思うんですね。

構想段階で言えば、ここ6、7年でいろんなタイプの建築を手がける機会が増えてきて。人間って本当にいろんなふうに動き回るし、いろんな状況がある。さらに国や気候風土も違うと、さまざまなライフスタイルがあって、その世界の多様さにものにすごく感銘を受けていて。そこから、逆に自分の建築を素直に引き出せるようになった気がします。
松任谷:昔は「自分はこうだ」っていうのがあったんですか?

藤本:自分の中から何かを創り出さなきゃ、みたいな気持ちがあったんですけど、今はむしろこんな素晴らしい世界があるなら、そこから素直に「聴く」というか、何かを創り出すというより、ずっと耳を澄ましているうちに見えてくるものがあるような気がしています。

松任谷:音楽でも、ゼロから作るっていうことはあり得ないんです。だから必ずどこかで聞いた何かが動力源になっていたり、あとは映画か何かを見たりして、その感情が動力源になっていたり。建築もそうなんですね。
建築が担うモノとはなにか?
松任谷:建築家は責任重大ですよね。人が住む家であり、人が働く場所であり。

藤本:そうですね。現実として今我々が快適に暮らせる場所ということに責任がありますし、この先我々がどういう場所で、どういう風に生活をしていくのかビジョンを提案することにもすごく責任があるな、という気がします。

松任谷:今後、たとえばこの「シンクラボ」のアイデアじゃないけれど、いろんなものがハイブリットにミックスしていくようなことってあるんでしょうか?
藤本:そこですね。いろんなものが繋がって、いろんなものの境界が溶けている。一方で建築は一番遅いというか、まさにいま起こっている事と関係なく、そこにあるという部分もあって。その建築のなんともいえない遅さというか、本質的なものでしかないというところの面白さみたいなものが、これから重要になってくるんじゃないかと思うんですよね。

建築家の仕事は「今の暮らしと向き合いながら、未来もデザインすること」と語る藤本さん。1月18日(金)の放送も、引き続き藤本壮介さんをゲストに、ご自身の作品をどのようにとらえているのかについてお話をお聞きします。