世界が注目!近視の進行を抑制する可能性がある「バイオレットライト」とは?

2018.11.09 20:00
TOKYO FMで毎週金曜日の19時30分~19時55分に放送している『松任谷正隆のおでかけラジオ』。音楽プロデューサー・松任谷正隆氏が、ゲストの好きな場所を訪れて、ゲストのいろいろな「好き」を紐解いていきます。

11月2日(金)の放送では、近視研究をしている慶應義塾大学医学部助教・鳥居秀成さんを訪ねて、松任谷さんの母校でもある慶應義塾大学へ。私たちにとても身近な近視のこと、そして鳥居さんが研究する「バイオレットライト」が、近視の進行を抑制する可能性についてお話を伺いました。
近視研究のきっかけはパソコンゲーム
鳥居さんが近視という分野に興味を持ったのは中学生の頃。当時クラスメートの間で流行っていたパソコンゲームにはまり、冬休みの1週間、毎日寝る間も惜しんで没頭するうちに、気がつけば1.5だった視力が0.5にまで下がってしまったのだとか。自身の経験から、なぜ近視になるのかという疑問を持つようになり、やがて医学部で眼の研究をする道へと進んだ鳥居さん。

松任谷正隆(松任谷):近視について勉強されるというのは、どういったことですか、近視のメカニズムですか?
鳥居秀成(鳥居):私自身興味があった部分は、なぜ短期間で近視になってしまうのか、という近視の原因と、その治療法です。それから、近視を勉強すればするほど怖いなと思ったのが、近視の程度が強くなる強度近視という状態になると、網膜剥離や緑内障、黄斑部疾患など、様々な眼疾患に結びつきやすくなり、一部は失明の原因になってしまうことです。近視が進んでいくと、目の長さが伸びていきます。イメージ的にわかりやすいのは、風船を膨らませていくといつか破裂してしまう、ああいうイメージで、目も伸びてくるとどこかに負担がかかり、組織に亀裂が入って出血するなど、色々な病気の原因となり得ます。
バイオレットライトにたどり着くまで
松任谷:じゃあなぜ膨らむのか?
鳥居:そこなんです。目の長さが伸びていく原因はまだわからないのですが、バイオレットライトで伸びていくのを抑えることができる可能性がありそうなのです。
松任谷:バイオレットライトにどうやってたどり着いたのですか?
鳥居:屈折矯正手術のひとつに、目の中にコンタクトレンズを入れるイメージの有水晶体眼内レンズ挿入術という手術があり、その手術に使う2種類のレンズの術後の近視の戻りの有無を調べていました。近視は原因がわかっていないので、手術が終わっても目の長さがまだ伸びる可能性があります。その手術後5年間の近視の戻りを比較していたところ、術後の近視の戻りに2つのレンズの間で差があるということがわかったのです。ではこの2つのレンズの差って一体何なのでしょうか。ちょうどその頃話題になっていた研究が、屋外活動といって外で遊んでいると近視の進行抑制になると言われ出していた頃だったんですね。

ということはもしかしたら光環境の違いが関係しているのではないか、と考え2つのレンズの透過率を測定してみようということになり、光の波長の透過曲線を調べたところ、360〜400ナノメーターというバイオレットライトの部分が通るか通らないかという差があったのです。それで、もしかしたらこれが有水晶体眼内レンズ挿入術後の近視の戻りに差をつけていた原因なのかもしれないと考えました。ただまだこの時点では半信半疑です。

太陽光に含まれる紫色の波長の光「バイオレットライト」が近視の進行を抑制する可能性があることがわかり、それを確かめるために動物実験をすることになった鳥居さんの研究チーム。当時、近視の動物実験には主にヒヨコを用いていました。しかし慶應大学ではヒヨコの動物実験のノウハウがなく、苦戦しつつも外部の専門家の協力を得、数年を費やして徐々に安定した結果を出せるようになっていったのだとか。その過程で、近視の進行には季節差があるということもわかりました。夏は近視の進行が抑制され、冬は進行しやすい。つまり、近視の進行の程度は光と非常に関係するということがわかってきました。
一部明らかになってきた近視進行抑制のメカニズム
鳥居:バイオレットライトを当てることによって、ヒヨコで近視の進行が抑制されるということが再現されたデータが得られました。次にそこからメカニズムを見つけていこうということになり、遺伝子の解析などをした結果、近視の進行抑制遺伝子として注目されていた「EGR1」という遺伝子にたどり着きました。バイオレットライトを当てていると「EGR1」が上がる。上がることによって近視の進行が抑制される。ただこれはバイオレットライトの可能性の一部だと思います。バイオレットライトの可能性はもっともっとあると思います。その一つの可能性として「EGR1」という遺伝子が上がるということで、近視の進行が抑制されている可能性があるんです。
世界が注目する「バイオレットライト」
松任谷:バイオレットライトを研究するチームが他にもたくさん出てきたということですよね。
鳥居:今後もたくさん出てくると思いますし、既にアメリカやドイツの近視の大家の先生方も「追試」と言って、同じような動物実験をして私達と同様の結果を学会で御発表されておりました。このように世界が注目しています。

バイオレットライトにはまだまだ可能性があると語る鳥居さん。11月9日(金)の放送でも引き続き鳥居さんをゲストに、未来の話などをお聞きします。
【番組情報】
番組名:「松任谷正隆のおでかけラジオ」
放送局:TOKYO FM(80.0FM)
放送日時:毎週金曜日19:30〜19:55(FM群馬 土曜18:30〜)