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上手い下手は関係ない“ ねぇ、一緒に写真撮りに行かんけ”
キヤノンマーケティングジャパン
2018.10.20 00:00
SNSなどの流行によって、日本各地に増えてきた地域の写真サークル。石川県の『21世紀美術館』で写真展を行った『金沢写真部FOCUS』も、向上心をもって写真を楽しむことを目的として地元有志で運営する団体の一つ。立ち上げから7年。日々会社員として働きながら部長を務める山下辰行さんに“みんなで楽しむ写真”の魅力についてうかがった。

人それぞれに違う写真を共有できる楽しさ
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写真を通したコミュニケーションが増え、より身近な存在となった今、そこに新たな価値を見出す人がいる。地元金沢で『金沢写真部FOCUS』を立ち上げ、代表を務める山下辰行さんもその一人だ。

「もちろん自分ひとりや少人数で出かけた方が撮影自体に時間もかけられるし集中できるという側面はあるんですが、大勢で出かけたら出かけたで違う楽しみがあるんです。まったく同じ時間、同じ場所に“いい写真”を撮りたいと思っている人が何人もいるのに、同じような写真を撮る人がいないんですよ。金沢写真部では撮影旅行などにも出かけるんですが、そのたびにあらためて写真って個人個人の目線で撮るものなんだなぁって、実感する。僕は正直、誰かの写真を評価するのは苦手なんですが、一緒にいた場所で撮られた写真なら、撮影者の想いもライブで聞くことができる。上手い下手なんて二の次になるぐらい、それが面白いんですよ」

会社員として勤める傍ら、個人の活動として、フォトコンテストで入賞していたり、仕事として撮影の依頼も受けている山下さんは、こう続ける。

「例えばフォトコンテストに応募するときも、みんなで応募するようにしています。ウチの写真部は“本気で写真を楽しむ人”のためのものなので」

撮った写真を誰かに評価されることよりも、いろいろな意味で“写真を楽しむこと”に重きをおく。

「“俺に続け!”“みんな賞獲れるぐらい上手くなろうぜ”って言いたいわけでは決してなくて、写真って、みんなで共有した方が僕個人も楽しめるんです」

重たい機材を抱えて早朝にひとり、シャッターチャンスを待つ。フィルム時代には、セーフライトが赤く光る暗室にこもって黙々とフィルムと向き合う。ともするとかつて写真とは、自分と向き合い一人の趣味という側面もあったかもしれない。そしてやっぱり「うまくなりたい!」というのがモチベーションの一番だったのかもしれない。だが山下さんは立ち上げから8年、ずっと金沢写真部で初心者向けセミナーを開き、撮影旅行を企画し、みんなで共有する写真の楽しさを広めている。
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子どものころから「やりたいもの」に素直だった
そもそも山下さんは、少年時代からやりたいものに素直だった。「仕事がすごく楽しくて、遊ぶことも忘れて、とにかく熱中していました」

16歳のときに自分自身で高校中退を決め、飲食店で働き始め、17歳のときには店長を任されるほどまで成長。3年間従事した後、手に職を持ちたくて、今度は車の整備士に。自分の興味が沸いた道を、貪欲に追及して進んだ彼ならではの人生において、学んだのは“好きなことだったら、なんだってできるし、なれる”ということだった。整備士時代に地元のクラブで映像や写真なども使って世界観を表現するビジュアルジョッキーをはじめると、機材の一部としてカメラを買った。

「ビジュアルジョッキーの活動で知り合った方々から、WEB制作などを頼まれる機会が増えました。それになんとか応えていくうちに、デザイナーという職業に興味が沸き、写真で表現することの楽しさも覚えました。それで、26歳のときにクラブイベントの撮影などを通じて知り合った2人の仲間と『NUANCE(ニュアンス)』ってサークルを作ったんです。月に1回ぐらい写真について語り合ったり、月ごとにテーマを決めた写真を投稿するWEBサイトを開設するなどの活動をしていたら、僕たちの活動が徐々に口コミで広がっていったんです」

これが現在90名の規模にまで拡大している『金沢写真部FOCUS』の前身。3人のメンバーはただ自分たちで楽しむためにやっていたため参加者を増やすかどうかについては賛否あったというが、コメントをもらう人の多くが写真初心者だったこともあり、技術等を磨くための団体というよりは“みんなで写真を撮ったら楽しそう”という気軽な気持ちで受け入れをはじめたという。

ちなみにその最中、山下さんは単身ニューヨークへ写真修行の旅にも出かけている。整備士を辞め、カメラと最低限の着替えだけを持って、観光ビザで滞在できる2か月間、とにかく写真を撮った。

「英語も喋れないのに、ニューヨークなんてとか、まわりからはいろいろ言われました。でも結局、自分で経験してみなければそんな判断はできないし。とにかく写真が好きだったのでチャレンジしてみたかったんです。朝起きて、とにかく行ったことがないところをグルグル回って、写真やムービーを撮影しました。テーマなんて特になかったけど、とにかくスナップを撮っているだけで楽しかった」

あくまでやりたいことは実行に移す山下さん。帰国後はフリーペーパーの制作などに携わり、現在も制作職として会社員をしながら『金沢写真部FOCUS』を仲間たちと運営。多くの仲間に支えられながら、勉強会や撮影会・イベントを通して、それぞれの個性を磨いている。
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目指すのは上ではなく、横に広くつながっていくこと
「部員一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしたいから、あまり多くの入部を“受け入れることができない”のが現状なんです」

立ち上げから約8年。『21世紀美術館』での写真展示を行うまでに成長した『金沢写真部FOCUS』だが、実は講師や先生はいない。入部年数やカメラ経験にかかわらず、皆が対等。あくまで“撮影仲間”が集う場なのだ。毎週火曜の夜、仕事帰りに行われるセミナーでは、絞りや構図など、初心者向けのテーマを皆で伝えあう。

大きな美術館で展覧会をするからといって決して気張らず、横のつながりを大事にするフォトサークルは、人生の節目節目で誰かに支えてもらってきた彼らしいものだ。

「遠回りはしたけど、家族、仕事、趣味……今の僕の人生や人とのかかわりすべてを、写真がつなげてくれているような気がしています。この価値は、何ものにも変え難いなと思っています」

例えばスポーツの競技だったら、そこには記録と順位が自ずとついてくる。でも写真には、正解がない。たくさんの人に囲まれながら、自分のいいと思うものを“素敵でしょ”と表現し、ごまかしのない自分を見せながら、同じ趣味と価値観を持つ人とつながっていく。

山下さんにとって写真とは、常に“好きなもの”を探すことであり、それを“好きな人”と分け合うことだ。キッカケや目的はバラバラだとしても、とにかく皆で集まることを楽しんでいけば、自ずとポジティブな輪を広げていくことができる。そう信じているのだ。
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(プロフィール)
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山下辰行(やましたたつゆき)フォトサークル代表
1983年金沢市生まれ。2008年に写真の魅力を知りそれ以後、fujjin、shoheiと共にフォト集団『NUANCE(ニュアンス)』を結成。主に金沢の景色やCLUBイベント、LIVEなどを中心に活動していくにつれて仲間が増え、「もっとうまくなりたい」という向上心のある団体として『金沢写真部FOCUS』に改名。同写真部では、touchというニックネームで代表を務め、写真集や写真展などの活動も展開している。