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羨ましい! ステキな家族写真はいつ撮るの?
キヤノンマーケティングジャパン
2018.10.20 00:00
出産という人生の大きな節目を迎えるとき、女性にはさまざまな変化が訪れる。自分ではどうしようもない環境や身体の変化に戸惑い、もがき焦ることもある。フォトグラファーの花盛友里さんも妊娠・出産を体験した一人。仕事……自分……家族……多くの女性が抱える転機に対して、彼女が出した答えとは?

母になるからってあきらめたくない!
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母になる。それは人生の一大事だ。妊娠を機に、体調、気分など、コントロールできない自分が増え、出産を経て母になると、時間の使い方も、考え方も、母としてのものになる。この時期をどう過ごし、母になった先にどんな価値観を大切にするかはそれぞれだが、多かれ少なかれ、戸惑いや迷い、不安などと向き合いながら、かけがえのない存在のために準備を進めていくという人がほとんどだろう。

「当たり前ですが、妊娠出産なんて未知のことだらけ。嬉しい反面、私ここからどうなっちゃうんだろうって不安や焦りもたくさんありました」

ファッション誌や広告などで活躍するプロのフォトグラファー花盛友里さんも、当時をそう振り返る。中学2年生のころ親戚からもらったフィルムカメラで写真の楽しさを知り、毎日カバンに3台カメラを入れて過ごした高校時代、専門学校、アシスタントを経て独立。妊娠がわかったのはフリーになって5年目のことだったという。

「ようやくフォトグラファーとしての仕事に自信がついてきて、作品撮りもしなきゃって思っていた矢先のことでした。出産したら当然今の仕事はできなくなるだろうし、写真家としての自分の在り方すら揺らいでしまうかもしれない。だから、出産までになんとか人様の記憶に残るようなことをしなきゃって考えたんです」

そうした思いをすぐ行動に移した花盛さん。自分が撮りたいものは何かと真剣に向き合い、写真集を発売することになる。
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妊娠が自分の撮りたいものを見つめ直すきっかけに
「プライベートで撮った写真を見返してみたら、友達の寝起きを撮ったものが多くって、それを企画にして出版社に持ち込んだんです。ツワリに苦しみながら撮影し、出産後5カ月のころに発売。思い入れの深い1冊になりました」

妊娠による焦りが彼女にとってはいい方向に働いたのだろう。シンプルに自分が好きな写真、撮りたいものをあらためて見つめ直した結果、最初に出版された写真集は『寝起き女子』。もちろんみんなすっぴん。外行きの整った顔や服装とはほど遠いのに、それぞれの女性が引き込まれるような魅力をまとって映し出されるその世界は、多くの人をトリコにし、話題にもなった……。しかし妊婦花盛さんの制作活動は、それだけにとどまらない。

「『寝起き女子』を撮り終えて、それからすぐに『脱いでみた』を撮りはじめました。妊娠して母になることを意識したら“学生時代の方が、ヌードを撮ったり、もっと激しいことをしていたのに、このまま安定しちゃっていいの?”っていう葛藤が生まれて……」

2作目の写真集『脱いでみた』でも、花盛さんが対象としたのは、普通の女の子たちの、ありのままの姿。こちらも“女性が楽しめるヌード写真”として評判となり、花盛さんは“ありのままの女性を撮るフォトグラファー”として認知されるようになった。

「妊娠したことでの焦燥感がなかったら、この作品は生まれなかったかもしれない、ある意味息子のおかげです」

自然で柔らかな世界に、被写体を優しく抱擁する母親のような感性も感じられる写真は、花盛さんの人柄そのまま。きっと花盛さん自身も、ありのままの自分で被写体と向き合っていたのだろう。
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「写真とは“記憶”」本当の姿を残せる唯一の手段。
出産・育児の間もできる限りのことをして駆け抜けた花盛さん。とはいえ「やはり妊娠前とは仕事の仕方は変わった」というが、その表情に焦りはない。むしろ、どこか達観したようなすがすがしさがある。

「作品撮りとは別に、息子とどこかに行ったときや、新しいことをしているときには写真を撮って残したい。きっと他のママさんたちと同じような気持ちでカメラを息子に向けています。写真家としてはダメやなぁってわかってはいるんですが、息子がいないと何か足りない。なにかにつけて息子を写真に入れたくなってしまう自分がいるんです」

当時お腹のなかで、ママがたくさんの女性と向き合いシャッターを切る音を聞いてきた息子さんは、現在3歳。すっかりママになった花盛さんのインスタグラムにも、“ありのまま”の姿で度々登場している。

「リビングにすぐ使えるカメラを1台用意して、『あっ』て思ったらすぐ撮れるようにしています。それでも子どもの場合シャッターチャンスを逃すことも多いんですが、朝の光がきれいなときとか、お父さんと一緒にいるときとか、ごく普通の景色が写真では特別なものになる。肉眼では絵にならないような一瞬こそ、一眼で撮りたいって思うんです」

慣れない手つきで赤ちゃんを抱きあげる父親、寝ぐせのついた頭で半分しか目が空いていない息子。ベッドに寝そべる父と走り回る息子、パンツ一丁で過ごす休日。成長記録と日常の光景が織り交ざった写真たちには、これまでの作品とはまた違う、母として、妻としての花盛さんらしさがある。

「絵だって自分の目で見たものを描いたものだし、曲を聴いてそのときの情景を思い出すことはあっても、やっぱり自分の頭の中のもの。写真以外に、そのときをそのまま残せるものってないなって思うんです。例えば、旅の写真を見返すと、自分の思っていたのと全然違ったものが写っていたりするんですけど、それは私のなかの記憶が時間とともに変化しているのであって、写真は絶対に変わっていない。こんな人と出会ったなとか、これ食べたなとかも含めて、写真は記憶……なんですよね」

母は忙しい。ともするとなんでもない日常は、“思い出す”という作業もせずに、どんどん流れて、忘れ去られていってしまうけれど、リビングにカメラが1台あることで、忙しい時間のなかにも特別な瞬間があることを、花盛さんは忘れずにいられるのかもしれない。そして多少粗っぽくても、部屋が片付いていなくても写真に撮ることで、 “ある日の花盛家のありのまま”はちゃんと記録されていくのだ。

中学2年生からどんなときも、カバンの中にはカメラがあった。好奇心を武器に刺激を求め、感性にしたがって写真を楽しんだ少女は、求められる表現と自分らしさに葛藤しながら母になり、“ありのまま”の美しさを、写真に残している。そしていま、“いろんな人にただいまって訪れてもらえる写真館をつくること”が夢だと、目をキラキラさせながら語っている。彼女にとってカメラとは、きれいなものを撮る道具ではない。ありのままを特別にしてくれるものなのだ。
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(プロフィール)
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花盛友里(はなもり ゆり) フォトグラファー
1983年、大阪府生まれ。スタジオのカメラアシスタントを経て、2009年よりフリーランスに。女性誌や広告などで活躍し、2014年に出産。同年、女子の寝起きの瞬間を集めた、自身初となる写真集『寝起き女子』(宝島社)を出版。2015年からインスタグラムで『寝起き男子』を発表し話題に。2017年5月にはヌード写真集『脱いでみた。』(ワニブックス)を出版した。