JOURNEY

ホストを務めた中村孝則が語る、
「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」

2018.07.02 MON
JOURNEY

ホストを務めた中村孝則が語る、
「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」

2018.07.02 MON
ホストを務めた中村孝則が語る、「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」
ホストを務めた中村孝則が語る、「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」

食を通じて、美しい自然や伝統文化、産物など地方に眠るさまざまな価値を顕在化させることで、地域創生を目指す「DINING OUT with LEXUS」。第13回が大分県国東半島で開催された。ホストを務めた中村孝則氏によるリポートをお届けする。

(読了時間:約7分)

Text by Takanori Nakaura

「DINING OUT with LEXUS」におけるホストは、土地の“語り部”のような存在

日本のどこかに、ある日突然現れ数日だけオープンし、幻のように消えてしまうプレミアムな野外レストラン「DINING OUT with LEXUS」。

今まで、日本のさまざまな土地で開催され、多くのファンを魅了して来ましたが、今回で早くも13回目を迎えました。

今回、「DINING OUT with LEXUS」の舞台となったのは大分県の国東半島。去る5月26日、27日の2日間にわたり国東市内で開催され、合計約80名のゲストたちが参加しました。
ゲストは、それぞれの参加者ごとにLEXUS LSで送迎された
ゲストは、それぞれの参加者ごとにLEXUS LSで送迎された
少し勘違いされる方もいらっしゃるのですが、「DINING OUT with LEXUS」はただのポップアップ・レストランではありません。当代の一流のシェフとともにその土地の潜在力をとことん掘り起こし、地元の人ですら気がつかなかった地元の魅力を、五感の総合エンタテイメントとして表現するユニークなイベントです。

私は、ホストとしてこの「DINING OUT with LEXUS」に深く関わって来ましたが、今回の国東で6回目のホストを担当しました。

「DINING OUT with LEXUS」の場合、ホストとは単なる司会進行だけではありません。事前に運営スタッフやシェフたちと一丸になって土地の風土や歴史、食材や食文化を徹底的にリサーチし、現在の美食的な文脈で再編集しゲストにその魅力を伝える立場にあります。いわば、土地の“語り部”のような存在と言った方が分かりやすいかもしれません。

小欄では、ホストの立場として、今回の「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」を振り返ってリポートしたいと思います。
会場の文殊仙寺の入り口には、国東の象徴でもある石仏の仁王像が迎える。この330段上がダイニングアウトのディナー会場。
会場の文殊仙寺の入り口には、国東の象徴でもある石仏の仁王像が迎える。この330段上がダイニングアウトのディナー会場。

今回選ばれたシェフは東京・麻布「茶禅華」の川田智也氏

舞台となった国東半島は、九州の右肩付近に突き出した、直径約30㎞の円錐形の半島です。この国東半島は、今から150万年ほど前の火山の噴火によって出来た土地で、半島全体が火山由来の岩の塊になっています。

自然現象で出来た岩の窪みは「岩屋」と呼ばれ、古代より山岳信仰の修行の場になり、土地そのものが信仰の対象になってきました。
ゲスト全員が文殊仙寺の本殿で護摩祈祷をした。直径約90㎝の釜に炊かれた護摩木からは巨大な炎が上がる。
ゲスト全員が文殊仙寺の本殿で護摩祈祷をした。直径約90㎝の釜に炊かれた護摩木からは巨大な炎が上がる。
国東半島は、日本の“神仏習合”の象徴とも言われますが、古代の山岳信仰に始まり、歴史とともに多様な宗教やさまざまな祭り事が融合し、ユニークなかたちとして今に伝わります。

国東半島には今でも数多くの仏教寺院が点在しますが、それらは「六郷満山」と呼ばれます。そして今年がその「六郷満山1300年」の節目になっています。

前置きが長くなりましたが、今回の「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」は、世界的にもユニークな歴史を持つ神仏習合の土地を舞台に開催されました。
ダイニングの脇に設置されたオープンキッチン。川田シェフの調理風景もご馳走になった。
ダイニングの脇に設置されたオープンキッチン。川田シェフの調理風景もご馳走になった。
「DINING OUT with LEXUS」は起用されるシェフにも注目が集まりますが、今回選ばれたのは東京・麻布「茶禅華」の川田智也シェフでした。川田シェフは1983年生まれの36歳。中国料理を専門とし、「麻布長江」で修行したのち「日本料理 龍吟」でも研鑽を積み、2017年2月に「茶禅華」をオープンしました。

「和魂漢才」をコンセプトに、中国料理の豊穣なるレシピの奥深さに、日本料理の季節感や繊細さを加えた独自の表現によって、オープンからわずか9ヵ月でミシュラン2つ星を獲得するなど、いま美食業界で最も注目されている若手料理人の一人でもあります。

「DINING OUT with LEXUS」は、その土地の食材や伝統料理を使ったオリジナルの料理を味わうのが大きな魅力ですが、川田シェフは事前に国東半島中を巡り、食材を探し、今回だけのメニューを完成させました。
料理の説明をする地元のボランティア。地元愛が、料理の美味しさと、土地の魅力をいっそう高めた。
料理の説明をする地元のボランティア。地元愛が、料理の美味しさと、土地の魅力をいっそう高めた。
トラクターの製造でも有名なヤンマーが30年にわたり独自の技術で養殖している「国東オイスター」や天然のワカメ、特産のシイタケや日本では珍しい養殖ドジョウや大分ブランドの桜王豚など、選りすぐりの食材がチョイスされました。

中でも川田シェフが特に気にいった食材が、「三島フグ」と「冠地鶏」だと言います。三島フグは、ミシマオコゼとも呼ばれ、国東半島の沖合で取れる地魚です。地元では“外道的”な扱いで安価で取引されるようですが、川田シェフは市場でこの魚を見て、四川省伝統の「ガンシャオユイ」という料理を思いつきスペシャリテに仕立てました。
クライマックスの三島フグの料理のタイミングで、国東の鬼の文化の説明をする文殊仙寺の秋吉文暢氏。
クライマックスの三島フグの料理のタイミングで、国東の鬼の文化の説明をする文殊仙寺の秋吉文暢氏。
冠地鶏は、大分県畜産試験場が4年の歳月をかけて烏骨鶏を交配させたオリジナルの鶏で、川田シェフは4種類の料理に仕上げてメインディッシュにしました。それらの食材も含め、合計11のオリジナルのコース料理が提供されます。

「鬼が仏になった里」として日本遺産に登録された国東

そして「DINING OUT with LEXUS」といえば、毎回「まさかここがレストランになるの?」と、地元の人すら驚く場所が舞台となるのですが、今回は六郷満山の寺院でも最も由緒ある寺の一つ、文殊仙寺の境内の本殿の脇に仕立てられました。文殊仙寺は「三人寄れば文殊の知恵」でも知られる知恵を授かるご本尊として広く信仰を集めています。
殻の膨らみが、独特の美味しさを引き出す国東オイスター。
殻の膨らみが、独特の美味しさを引き出す国東オイスター。
送迎のLEXUS LSから降り立ったゲストは、石仏仁王像が鎮座する入り口から330段の階段を登ってダイニングへと向かいました。

欅の根がタコの足のように絡み合う、巨石の壁の前に仕立てられたダイニングには、客席の目の前にオープンキッチンが設置され一体感を演出します。

BGMも一切なしの静寂な境内では、蒸しあげたり炒めたりする音が、いっそうのシズル感となってゲストたちを盛り上げます。しかも、不思議なことに大自然のアウトドアでは、香りや匂いの感じ方まで増幅させるのでした。
揚げることで鬼の形相に変身した三島フグ。淡白な白身は、口の中で極上の旨味となって広がる。
揚げることで鬼の形相に変身した三島フグ。淡白な白身は、口の中で極上の旨味となって広がる。
クライマックスは三島フグの料理。可愛らしい三島フグは、揚げることでエラの横から二つのツノが立ち、まるで鬼の形相になるのでした。

これは偶然ですが、数日前に国東は日本遺産に登録されました。そのテーマはなんと「鬼が仏になった里」だというのです。

国東には古代より鬼を信仰する文化が伝わります。国東では、鬼は悪者ではなく人々を導く仏の化身であり、今でも年明けに「修正鬼会」と呼ばれる鬼が登場する火祭りの奇祭があります。
鬼の面を被った僧侶が松明を持って村々の家を訪れ人々を祈祷するのです。

川田シェフは、調理中に偶然ツノが生えた三島フグを鬼に見立て、国東の鬼に引き写したのでした――――。
川田シェフが台湾で修行中に出会った「三杯鳥(サンベージー)」という料理をヒントにした、冠地鶏の蒸し物。
川田シェフが台湾で修行中に出会った「三杯鳥(サンベージー)」という料理をヒントにした、冠地鶏の蒸し物。
その土地の気候風土や、自然の恵みや食文化や悠久なる歴史。そこに住む人々の営みまでも掘り起こし新しい物語として紡いでいく。それを、地元の人々がボランティア・スタッフとなってゲストと一座建立する。私は常々「DINING OUT with LEXUS」はその土地を舞台にした壮大な茶会だと思っていますが、その一体感において今回の「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」は、今までで最も完成度が高かった気がします。

それは国東という土地が持つ潜在力の大きさに因るところも大きいと思いますが、国東が将来的に観光において大きなポテンシャルがあることも、ゲストだけでなく地元の人たちも共有できたと思います。

しかも、国東には大分空港があるのでインバウンドを含めたアクセスの優位性も極めて高い。特に知的好奇心の高いラグジュアリー層へのネタの宝庫であると感じました。
中村孝則氏(左)と 川田智也シェフ
中村孝則氏(左)と 川田智也シェフ
今後の課題は、彼らを満足させるアコモデーションやレストランをいかに呼び込むのか。いずれにせよ、今回の「DINING OUT KUNISAKI with LEXUS」は、未来の国東の姿を期待させるイベントになったのだと思います。

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ご回答いただきありがとうございました。

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