SPORT

クルマの未来を知りたいならル・マンを見よ

2017.10.11 WED
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クルマの未来を知りたいならル・マンを見よ

2017.10.11 WED
クルマの未来を知りたいならル・マンを見よ
クルマの未来を知りたいならル・マンを見よ

自動車文化を発展させることを目的として始まったといわれる「ル・マン24時間耐久レース」。ここに集結するレーシングカーには、各自動車メーカーの最高の技術が詰まっている。ル・マンのテクノロジーを知れば、クルマの未来が見えるかもしれない。

(読了時間:約4分)

Text by Kate Walker
Translation by Yuka Taniguchi
© 2017 THE NEW YORK TIMES

過酷なレースを乗り越えた先にあるテクノロジーの進化

現代のモータースポーツにおける結果が、自動車売り上げにどの程度影響するかは定かではないが、自動車メーカーは今でも実際のレース現場から得られたデータを、市販モデルの研究開発のアイデアとして役立てている。

モータースポーツの最高峰、「ル・マン24時間耐久レース」を含む世界耐久選手権(WEC)とフォーミュラ1(F1)グランプリは、長いあいだ次世代の自動車技術を磨き上げる場とされてきた。効率的な空気力学、安全技術、エンジンはもとより、市販車のシートベルトやフロントガラスのワイパーにまでも、この極限のモータースポーツの舞台で培われてきた最先端のテクノロジーが生かされているといっても過言ではない。

レース形態の違いにより近年では、F1よりもWECがテクノロジーを試す場として重要視されるようになった。2014年の世界耐久選手権優勝チームのドライバーの一人であり、今年のル・マンをトヨタチームで走ったアンソニー・デビッドソン選手は、ほぼ2時間以内でレースが終了するF1よりも、24時間走り続けなければならないWECで得られる成果のほうが、市販車の開発で求められる技術に応用しやすいと言う。

「レーシングチームとしての視点から言うと、最も難しいのは信頼性を確保すること。複雑な仕組みを持つ最先端のハイブリッド車を、わずかな故障も起こさずに24時間のハードなレースを乗り切ることができるように作り上げるのは、かなり難易度の高い仕事だ。でもこれこそがル・マンで勝利を収めるためには必要不可欠なことなんだ」

ル・マンは、私たち一般ドライバーが今では当然のように使っているさまざまな技術を世に送り出してきた場所だ。例えばフォグランプはかつて存在したフランスの自動車メーカー、ロレーヌ・デイトリッヒが1926年にル・マンを走る車に導入したものだ。前輪駆動車がル・マンに初登場したのはその一年後。初期の直噴エンジン、ディスクブレーキ、ハロゲンヘッドライトといった今ではおなじみの技術が初舞台を踏んだのもこのレースだった。

ル・マン LMP1カテゴリーのプロトタイプレーシングカーが、パワートレインの進化に大きく貢献

現在ル・マンで最も革新的といえる技術は、ブレーキング時のエネルギーを回収することで燃料消費を低減し燃費の高効率化を図る、エナジーリカバリーシステムなどを含むパワートレイン分野のテクノロジーだ。

エンジンのエネルギー効率において、ル・マンから多様なイノベーションが生み出されてきた。この10年の勝者には、運動エネルギー回生システムを用いたディーゼル・ハイブリッド車として2012年に初めてル・マンを制したアウディ R18 e-tron クワトロや、2リッター4気筒ターボエンジンを搭載したポルシェ919ハイブリッド、5.5リッターV12ディーゼルエンジンを搭載し、2009年にル・マンで1-2フィニッシュを飾ったプジョー908 HDi FAPなどが挙げられる。


このようにパワートレインの進化には、昨今ではトヨタやポルシェが参戦するル・マン・プロトタイプ 1(LMP1)というカテゴリーの、レース専用に設計されたレーシングカーが大きく貢献している。燃料から効率よくエネルギーを引き出し、出力を最大限にするための研究がこれによって加速度的に前進。さらにエネルギー回生システムやハイブリッドが一般化した昨今では、バッテリー技術の発展にも寄与している。

F1でも、ハイブリッド技術の進化が目覚ましい。2014年に導入されたパワーユニット(エンジン)は、従前モデルよりもハイパワーかつ必要な燃料を半分以下にすることを実現した。しかしF1から生まれて量産車に応用されたテクノロジーがあるかというと、やはりWECには遠く及ばない。

WECのLMP1クラスに比べてフォーミュラ1は車両規定が非常に厳しい。メルセデス、フェラーリ、ホンダ、ルノーと、 エンジンのサプライヤーは違えど、パワーユニットの仕様はレギュレーションによって明確に規定されているため、馬力の違いは純粋に各自動車メーカーの創意工夫によるもので、燃料タイプ、エンジン排気量、気筒数などは全く同じである。

F1やル・マンに参加する自動車メーカーも時代によって変化してきた。F1では2008年の経済不況を受けて、BMW、ルノー、トヨタ、ホンダの各社がファクトリー・チームを撤退している。それとは対照的に、WECとル・マンについては、2010年前後から自動車メーカーの熱い注目を浴びている。

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