JOURNEY

小山薫堂が切り開く「湯道」とは何かー
華道や茶道に続く、新たな「道」

2018.04.20 FRI
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小山薫堂が切り開く「湯道」とは何かー
華道や茶道に続く、新たな「道」

2018.04.20 FRI
小山薫堂が切り開く「湯道」とは何かー華道や茶道に続く、新たな「道」
小山薫堂が切り開く「湯道」とは何かー華道や茶道に続く、新たな「道」

今、華道や茶道に続く新たな「道」が生まれつつある。放送作家の小山薫堂氏が提唱する「湯道」は、日本独自の文化である入浴を「様式」へと高めんとするものだ。今回は湯道の作法や湯道具だけでなく、海外展開への流れについても小山薫堂氏に尋ねた。

(読了時間:約5分)

Text by Shunta Ishigami
Photographs Courtesy of Oyunomiya

「湯道」という新たな様式

誰もが知っているとおり、「茶道」や「華道」は日本の人々が数百年かけてつくり上げてきた芸術の一形態だ。そして今ここに、新たな「道」が生み出されようとしている。「湯道」──数々の人気テレビ番組を手がけてきた放送作家、小山薫堂氏が提唱するのは、「入浴」の精神と様式を突き詰めることで完成する新たな「道」だ。

「茶を飲むという日常行為を文化芸術まで昇華させた茶道の素晴らしさに改めて感動したとき、自分の大好きな入浴という行為もまた日本独自の文化であることに気づき、いま湯道という活動を始めれば、いつかは本当に『道』として定着するのではないかと思いました」

そう小山氏は語り、「入浴」がひとつの様式美となりうる可能性を説く。日本の人々にとっては生活と切っても切り離せない「入浴」という行為は、全世界共通の営みではない。周知の通り、ヨーロッパやアメリカではシャワーを浴びるだけで済ませてしまう人も多く、日本のように毎日浴槽に湯を張って入浴する習慣は根付いていない。銭湯や温泉に行くと日本の人々は当たり前のように「かけ湯」のような振る舞いを身に着けているが、これも他国の人々にとっては見慣れぬものかもしれない。

だとすれば、小山氏が語るように、入浴の精神や様式はひとつの芸術形態へと洗練させることもできるのかもしれない。小山氏が提唱する湯道は、「作法」「湯道具」「湯室」という要素からつくり出されるものだという。ただ何も考えずに風呂に入るだけでは湯道は完成しないのだ。
最高級の桶は宮崎県産の飫肥杉を使ってつくられている
最高級の桶は宮崎県産の飫肥杉を使ってつくられている

「湯道」の作法・湯道具・湯室

まず、作法は「合掌」、「潤し水」、「衣隠し」、「湯合わせ」、「湯三昧」、「垢離」、「近慮」、「風酔い」、「合掌」という計9つの所作からなる入浴の手順を表している。一見これらの所作はわざとらしく形式張ったものに思えるかもしれないが、「潤し水」は脱水症状を防ぐための水分補給、「湯合わせ」は体の表面についた汚れを落とすかけ湯に結びついている。この所作に従えばきちんと効果的な入浴ができるように設計されているのだ。

入浴にまつわる用品「湯道具」と入浴するための空間「湯室」も、湯道を構成する重要な要素である。小山氏は手ぬぐいからカゴ、ベンチ、水飲みグラスにいたるまで、さまざまな職人から確かな品質の道具を集め、宮崎県のフェニックス・シーガイア・リゾートにある温泉施設「松泉宮(しょうせんきゅう)」内に「おゆのみや」と名付けられた湯室をオープンさせた。天井画を手がけるのは宮崎を代表する日本画家の立山周平氏、そして黒曜石の混じった湯船をつくり上げたのは左官職人の挟土秀平氏。「奇しくも、二人の“シュウヘイ”さんに関わっていただきました。挟土さんのつくった湯船に張られたお湯の表面に、天井へ描かれた立山さんの桜が映る──二人のシュウヘイさんによる最高のコラボレーションになりました」と、小山氏は振り返る。

湯道は「感謝の念を抱く」、「慮る心を培う」、「自己を磨く」の精神に寄り添うことを提唱しているが、確かにおゆのみやが立ち上げる空間にはどこか儀式的な雰囲気が漂い、敬虔な気持ちを呼び起こしそうでさえある。
「湯室」は昼と夜で異なった表情を見せるが、どちらもラグジュアリーな空間を生み出している
「湯室」は昼と夜で異なった表情を見せるが、どちらもラグジュアリーな空間を生み出している

湯道はミレニアル世代へいかに波及するか

小山氏が湯道を提唱したのは2015年のこと。それ以降、同氏は啓蒙活動を続け、16年におゆのみやをオープンさせたあとも、17年には日本橋三越本店で「湯道への道」と題された催事を行うなど、着実に湯道は広がっていきつつある。

注目すべきは、小山氏の湯道提唱と並行するようにして、いま、ミレニアル世代のなかでも「銭湯」ブームが起きていることだ。銭湯を愛するミレニアル世代の若者は単に銭湯で入浴するだけではなく、若くして銭湯の跡継ぎになることを選んだ者や、ウェブサイトなどを作成し失われゆく銭湯の文化を残そうとする者もいる。さらには入浴する場所として機能するだけではなく、近年は浴場をライブ会場とする音楽イベントがいくつも開催されている。銭湯は地域を超えたコミュニケーションのプラットフォームとして再評価されているのだ。

重ねて、銭湯のみならず近年「サウナ」が注目を浴びていることも湯道の追い風となるだろう。「どちらも血行がよくなり発汗することで、肉体的にも精神的にもリフレッシュできると思います。特に水風呂に浸かって身体を拭いたあとの余韻は、最良の心のデトックスにつながるのではないでしょうか」と小山氏が語るように、サウナを通じて得られる快楽は入浴によって得られるものと通ずるところが多いはずだ。
湯船だけではなく、涼むためのベンチも入浴にとっては非常に重要な要素の一つだ
湯船だけではなく、涼むためのベンチも入浴にとっては非常に重要な要素の一つだ

文化は日本から海外、海外から日本へと逆輸入される

日本でこうしたブームが起きている一方で、小山氏はむしろ海外展開を目論んでいるのだという。近年のサウナブームを通じてフィンランドが注目を浴びているように、場合によっては、湯道は逆輸入されるようなかたちで日本において評価されることもあるかもしれない。

「日本人よりも、日本文化に興味のある海外の方のほうが湯道を面白がってくれます。まずは国内よりも、海外で先に湯道の認知度を高めたいです。そのために『湯道展』のパッケージをつくって海外を巡回したり、湯道普及の拠点となるような宿泊施設か入浴施設を海外につくりたいです」

クールジャパンや2020年の東京オリンピックなど、海外が日本へ注目する要因は数多くある。しかし、もしかすると「湯道」こそが最良の日本文化への入り口となる日が来るのかもしれない。

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