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Vol.23 「沖縄文化に触れる舞台、民謡酒場、そして猫」|宮沢和史「旅の枕」日本_沖縄⑤
COURRiER Japon
2018.04.20 07:30
この春、宮沢さん自ら演出を手掛ける沖縄関連の舞台やイベントを紹介。沖縄の音楽を通じて、文化と歴史を知る場に足を運んでみてはいかがだろう。

この4月、5月と、沖縄文化と深く関わる機会が重なるので、今回の「旅の枕」は沖縄の話をしてみたい。

そもそもなぜ沖縄に興味を持ったのかというと、やはり入り口は音楽だった。子供のころ聴いた喜納昌吉さんのヒット曲『ハイサイおじさん』の独特の音階とメロディー、軽快なリズムが子供心を踊らせ、身体に染み付いて離れず、その後に出会った日本の大先輩たちが沖縄にアプローチした作品にも自然と魅かれていった。

たとえば細野晴臣さんの米国南部の音楽と沖縄を融合させたものや、坂本龍一さんが沖縄をワールドミュージックのひとつとして世界に紹介した活動などに心酔した。
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PHOTO: COURTESY OF KAZUFUMI MIYAZAWA
沖縄民謡伝達にささげた5年
1989年にデビューしてすぐ、沖縄音楽への興味や好奇心が膨れ上がり、音楽以外のカルチャーも含めた沖縄のコンテンツを探し、漁りまわっていた。

時代が手伝ってくれたんだと思う。当時はワールドミュージックという言葉が音楽シーンを席巻していて、東京のレコード店のバイヤーたちが世界中から聴いたことのないような未知の音楽を買い付け、店頭に並べていた。

当時は東京に居ながらにして世界を音楽旅行できるような感覚だった(言うまでもなく、現在はインターネット、YouTube、音楽や映画のストリーミングサービスなどによって、“家に居ながらにして”世界を駆けめぐることが可能だが)。

日々アンテナを張りめぐらせていた自分に、当時所属していたレコード会社の人が沖縄民謡のカセットテープを大量に買ってきてくれたことが、直接的に沖縄の扉の向こう側に身を投げ込んだきっかけだったと言える。

高嶺剛監督の映画、『ウンタマギルー』『パラダイスビュー』の世界観にはまったのも、沖縄にのめり込む大きな要因のひとつだったと以前ここでも書いた。

沖縄民謡というほかにない音階、メロディー、楽器、言葉、発声法によって聴覚的に、そして、高嶺監督が描く映像によって視覚的に、強烈な衝撃を受けたのだった。

それから今日まで沖縄と長く関わり続けている。音楽を学ぶため、自分の音楽で挑戦をするために海外の国々を精力的に回っていた時期もあるが、常に“日本、沖縄発の音楽を伝える”という意識でいたので、精神的に沖縄とはぐれた記憶はない。
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PHOTO: COURTESY OF KAZUFUMI MIYAZAWA
沖縄というところは外部勢力の影響をモロにかぶってきた歴史を持つわけで、さまざまな表情を持つ島でもあるから、他県や海外の人間が沖縄に求めるものは千差万別なんだろうと思う。

しかし、沖縄と出会って長い年月が経過したが、すばらしい沖縄民謡の曲を聴いた瞬間に心の中に浮かぶ風景が、いまも自分にとっては“沖縄そのもの”なのである。

であるからこそ、それを過去の景色にはしたくない。いくら時代が移り変わろうとも、その風景が在り続ける島であってほしい。

さいわい、若手の民謡歌手や古典音楽の演奏歌唱志願者は多く、才能ある実力者も少なくない。何とも心強い限りだが、長年沖縄音楽と関わってきた人間として自分も何か貢献できないか、と思い続けて久しい。

沖縄民謡の記録と伝達を目的に、5年弱の歳月をかけて少しずつ沖縄の民謡を採取してきたが、17枚組の資料CDボックスという形で完成し、沖縄県の図書館、学校、世界中の沖縄県人会などへの寄贈が済んだ。近いうちに、ブックレットの情報などを更新して改訂版を作成し、寄贈先の更新を含め、継続していくプロジェクトになるはずだ。
悲哀の歴史が生んだ歌たち
そんなことが評価されて、5月12日に沖縄県の浦添市にある「国立劇場おきなわ」での舞台演出を任せられることになった。

国立劇場おきなわは基本的には自主公演としては琉舞、組踊、琉球芝居などの沖縄の古典芸能が主に演じられる劇場なのだが、年に一回、三線をテーマにした企画を組んでいるそうで、今年は宮沢が製作した『唄方』をテーマにしてやってみないかとお誘いを受けた。
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PHOTO: COURTESY OF KAZUFUMI MIYAZAWA
前からやってみたいアイディアがあったので劇場側に提案してみた。それは『唄方~うたかた~ 島ぬ うらみ節 なさけ節』である。

基地問題でなかなか戦後の清算が終わらない沖縄だが、かつてはいまの中国と友好関係を結んで貿易で経済を潤していた時代があった。中国から“琉球国の王”という地位を認めてもらう形で、琉球国は成り立っていたわけだ。

そこへ1609年、鎖国下で自由に貿易ができない時代背景のもと、中国との貿易ルートを持つ琉球を支配下におきたい思惑を持つ薩摩藩が侵攻してくる。薩摩藩の先進的で強固な軍事力の前に、首里は白旗を振るしかなかった。

1872年に琉球は藩として明治政府に取り込まれ、1879年の廃藩置県で完全に琉球王国が消滅するまでの260年以上にも及ぶ薩摩藩の支配下で、税収の負担と、中国との朝貢関係における出費とで琉球はすっかり疲弊し、そのしわ寄せが沖縄本島以外の島々にまで及んでしまう。

要するに、薩摩に上納する負担を補うために琉球が他島への税を強化するという構図が生まれたのだ。

15世紀に琉球王国に制圧され琉球圏に組み込まれていた奄美群島も、薩摩の侵攻により、さらに直接的に島津氏の管理下に置かれることになった。
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PHOTO: COURTESY OF KAZUFUMI MIYAZAWA
琉球と奄美諸島では、薩摩や琉球の役人が島々に派遣され、石高のための検地をおこない出張所に常駐した。そこで、搾取する側の役人と島民との間で、主従関係が生まれる。

島民は生まれた島を強制的に追われ開墾するために未開地に送り込まれる「道切り」「島分け」と呼ばれる制度に翻弄された。未開の地でマラリアなどで命尽きていく者たち、役人に私的に世話をするよう持ちかけられる娘たちといった、数々の物語が生まれた。

人々の汗、涙、血、怒り、嘆き、無言の言葉……がしみ込んだ土壌だからこそ、悲しくも美しい名曲の数々が力強い生命力を持った花のように島々に咲き誇っているのである。

かたや、琉球弧の人々は厳しい一日の作業を終え語らい、人々は歌をたしなみ、恋を語り合った。ときには役人たちとの結ばれるはずのない恋に酔い、涙した。
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『唄方~うたかた~ 島ぬ うらみ節 なさけ節』
国立劇場の歌会の演出をする上で、島々にまつわる様々な恨み節、情け節にスポットを当てることにした。

沖縄本島、宮古島、八重山諸島、奄美大島の若き唄者を一堂に会し、神谷武史さん、宮城小寿江さんという、若手琉球古典芸能のホープのお二人に合流していただき、いくつかの歌で創作琉球舞踊を舞っていただく。

さらに、それぞれの歌詞を宮沢が日本語の共通語に訳し、舞台に字幕を流すことで、聴覚、視覚的に感じてもらうことで、言葉の障壁を超え、皆さんに歌の世界に埋没していただけるであろう工夫をしている。

稽古はもう始まっているが、これまでの沖縄芸能にない新しいビジョンを示し、県内外、国外にも広めていく道筋が見えてくるのではないかと期待している。ぜひ足を運んでいただきたい。
川崎で楽しむ民謡酒場
毎年、ゴールデンウィークに神奈川県の川崎駅周辺で『はいさいFESTA』という沖縄音楽や料理、エイサーなどのコンテンツが満載なお祭りが開かれている。

去年から民謡の分野でお手伝いをさせていただいていて、今年も沖縄の民謡界を牽引するベテランから若手がそろう色彩豊かなステージを企画している。

フェスタ開催区域にあるレストラン「THE CAMP CAFE&GRILL」では、民謡カフェを期間中オープンする。ここでは毎日民謡ライブが楽しめ、宮沢のトークショーを2度開催する予定だ。

夜はカフェから民謡酒場に様変わりし、お酒と料理と民謡を楽しめるように、沖縄本島那覇の老舗民謡酒場「歌姫」の若手が川崎に出張してくれる。
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PHOTO: COURTESY OF KAZUFUMI MIYAZAWA
『はいさいFESTA』の会場にはフリーコンサートスペースがいくつかあり、色彩豊かな沖縄ポップスを楽しむことができるし、エイサーの演舞も見応え充分。

会場内最大のスペース、「CLUB CITTA」では、音楽祭と題して5月5日にオキナワンロックのコンサート『PEACEFUL LOVE ROCK FESTIVAL 2018』、6日に宮沢演出、出演の民謡コンサート『江戸上り民謡ショー』を開催する。

ゴールデンウィーク期間中、何かしらの形で日々民謡が楽しめるプログラムを組んでいるので、お祭り気分で気軽にふらっと立ち寄っていただきたい。

特に『江戸上り民謡ショー』は民謡好きにも民謡初心者にも楽しんでいただける笑いあり、真剣勝負あり、のステージ。ぜひお越しいただきたい。
沖縄発の猫ロードムービー
去年から撮影を続けていた沖縄発の猫映画もいよいよ完成する。

架空の町「ニャハ」に暮らす猫達の日常と運命を猫目線で追っていく猫ロードムービー『Nyaha!』。個性豊かな島猫の愛らしさに癒されたり、猫がおかれている環境を知り、考えさせられたりと、人間としてというより猫目線で感じられることで発見も多い。
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『Nyaha!』
宮沢はこの映画の音楽担当をつとめた。テーマ曲や劇中音楽を撮影途中の猫たちに癒されながら製作した。こちらも機会があったらご覧になっていただきたい。

劇場公開に先駆けて4月19~22日に開催される「島ぜんぶでおーきな祭り 第10回沖縄映画祭」でパイロット版『Nyaha! Part#0』が桜坂劇場で上映される。
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PHOTO: COURTESY OF KAZUFUMI MIYAZAWA
実はこの作品の原案、脚本者であるライターの仲村清司さんの大ファンで、昔から仲村さんの本で沖縄の雑学を学んできた。旅の枕にもってこいの本たちだ。特に沖縄を「タブーの多い島」と定義するところに大いに共感する。『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄県謎解き散歩』などが、おススメだ。
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『沖縄県謎解き散歩』
今回は告知ばかりで恐縮だが、さまざまな角度から沖縄を知っていただけるいい機会ではないかと思っている。

『唄方~うたかた~ 島ぬ うらみ節 なさけ節』では島々の歌はもちろん、伝統を充分にふまえた創作舞踊、島が運命として受け入れてきた歴史を。

『はいさいFESTA』では現在進行形のさまざまな沖縄の表情を。

そして、猫目線から見えてくる島事情を。

この機会に楽しみながら知っていただきたい。

(毎月20日掲載)
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