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【井上章一氏書評】作曲者が心血を注いだピアノ名曲を解説
NEWSポストセブン
2017.11.22 11:52
【書評】『ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ』/イリーナ・メジューエワ・著/講談社現代新書/900円+税
【評者】井上章一(国際日本文化研究センター教授)
 いわゆるクラシックのピアノ曲を解説してくれる本である。そうとうつっこんだ話になっているが、それでもわからないということはない。音楽の専門用語がにが手な人でも、読めば新たに見えてくるところは、あると思う。
 著者は、イリーナ・メジューエワ。今は日本に腰をすえて演奏活動をしているロシア人である。ピアニストである当人じしんが、文章を書いているわけではない。その語りを編集者たちが聞きとり、一冊にまとめている。ただ、ねんのため書くが、日本語はかなり達者な人である。私は彼女のトークを、京都のラジオで聞いたことがあり、その点はうけあえる。
 とりあげられる作曲家は、たとえばベートーヴェン、シューベルト、シューマンら。それぞれの有名どころと、作曲者が心血をそそいだ曲に、光があてられる。たとえばシューマンなら、まず「トロイメライ」。つづいて「クライスレリアーナ」というように。よく知っている曲が、先に解説されるので、つぎの本命読解もとっつきやすい。読み手のなじみやすさにも気をつかってくれる、ゆきとどいた編集である。
 おどろかされたのは、シューベルトの「ピアノ・ソナタ第21番」を読みといたところ。私は作曲家最晩年の、静かに歌うあまり華のない曲だと思ってきたが、とんでもない。シューベルトは、ここにおどろくべき巧緻をこめていた。
 たとえば、第1楽章8小節目の左手によるトリル。これが、第4楽章6、7小節目の下降半音階とひびきあっているらしい。そして、ピアニストは、そんなところへも細心の注意をはらいながら、ひいている。このデリカシーを、聞きとる側が、どれだけ耳でひろえているか。私は気づけていなかったし、はなはだ心もとなく思う。
 以前、内田光子のCDでこの曲を聞き、やけに神経質な演奏だなと感じた。もっと、歌心をひびかせてほしいとも思っている。この本を読んだ今、かつてのそんな感想を反省した。そもそも、奏者には緊張をしいる曲なのだ。
※週刊ポスト2017年12月1日号

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