ボッテガ・ヴェネタ Summer 2027──身にまとうものを少なく、感じるものをより豊かに

2026.10.01 13:00
季節が変わるとき、変わるのは気温だけではありません。光が変わり、街が変わり、人々の動きが変わる。そして、身体が服に求めるものも変わっていきます。ミラノで暮らすルイーズ・トロッター(Louise Trotter)が、ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)のSummer 2027コレクションの出発点に置いたのは、春から夏へと向かう、その変化の感覚でした。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
重ねていたものを一枚ずつほどき、身体を守っていたものを脱いでいく。衣服と身体の間には空気が生まれ、服は身体を「包み込む」ものから「解き放つ」ものへ。身軽になることで、それまで閉じていた身体の感覚まで開かれていく。Summer 2027を貫いているのは、そんな軽やかさがもたらす、新しい可能性です。



服を軽くしても、クラフトは軽くしない
コレクションには、白や生成り、ベージュといった柔らかな色彩とともに、身体からわずかに離れるようなシルエットが現れます。テーラリングは精緻さを保ちながら緩やかになり、レザーは羽のような軽さへ。シャツやドレス、パンツ、ジャケットといった馴染みのある服も、身体との間に余白を残しながら重なっていきます。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
その一方で、服が軽くなることと、ものづくりを簡略化することは同じではありません。むしろ、トロッターが目指すクラフトは、さらに技巧を極めていきます。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
一見すると肩の力が抜けたような服のなかに、精緻なテーラリングや素材への高度なアプローチが潜む。軽やかに見せるために、クラフトまで軽くするのではない。高度な技術が、服の重さとして表面に現れないこと。そこに、今季のボッテガ・ヴェネタが提示するラグジュアリーのひとつのあり方が見えてきます。



男性らしさと女性らしさ、その間を自由に行き来する
重なりがほどけていくのは、衣服だけではありません。Summer 2027では、男性らしさと女性らしさも出会い、その境界が曖昧になっていきます。ただし、それは両者を均して「中性的」なひとつのスタイルへと向かうことではありません。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
男性らしさから女性らしさへ。女性らしさから男性らしさへ。そのどちらかに留まるのではなく、異なるあり方の間を自由に行き来すること。ゆったりとしたテーラリングに柔らかなレイヤーが重なり、大きなバッグやスカーフのようなディテールが加わる。別のルックでは、鮮やかなピンクのシャツとイエローのパンツが軽快に交わり、またあるルックでは、端正なシャツにきらめく装飾的なスカートが組み合わされます。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
そこでは、ある要素が男性のものか、女性のものかを決めること自体が、次第に重要ではなくなっていきます。身体も服も、ひとつの場所に固定されない。その「動けること」そのものが、トロッターの考える自由なのかもしれません。



イントレチャートは、素材を超えて「人」を編む
ボッテガ・ヴェネタを象徴するイントレチャートも、Summer 2027ではより大きな意味を持ち始めます。編み込まれるのは、レザーだけではありません。異なる領域、異なる所作、異なる人々。それぞれが出会い、関係を結ぶこともまた、「編み込み」として捉えられています。その考えは、ランウェイの外側にまで広がります。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
真っ白な会場の客席に置かれたのは、アーティストのイリヤ・ゴールドマン・グービン(Illya Goldman Gubin)が手がけた、樹脂でコーティングされた段ボールのスツール「Karton Hocker」。作家自身が身体で抱え込み、押しつぶした段ボール箱をもとにつくられ、互いに組み合わされる箱の蓋は、レザーのフェットゥーチェを編み込むイントレチャートを思わせます。
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見過ごされそうな段ボールが、身体との直接的な接触を経て、一つひとつ異なる彫刻へと変わる。ここでも「編む」という行為は、均一なものを生み出すためではなく、異なるものを結びつけながら、その個性を残すために存在しています。



音もまた、その瞬間だけの形に編まれていく
ショーが始まる前には、フロリアン・ヘッカー(Florian Hecker)によるサイトスペシフィックな音響作品が会場を満たします。空間に吊り下げられたのは、スピーカーとステンレススチール製の音響反射板を組み合わせた20基の構造体。それぞれが異なる音を発し、響きが重なりながら、その場、その瞬間だけのひとつのコンポジションをつくります。一度生まれた音は、まったく同じ形では繰り返されません。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
さらにショーには、英国人アーティスト、マーク・レッキー(Mark Leckey)が手がけたオリジナルサウンドトラックを使用。1960年代から90年代まで、異なる時代とジャンルの音が交差し、ひとつの時間へと編み直されていきます。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
レザー、段ボール、人、音、時代。異質なものを均質化するのではなく、それぞれの性質を残したまま関係させる。ボッテガ・ヴェネタが長く培ってきた「編む」という技術が、ここではひとつのものづくりを超え、異なる存在をつなぐ方法へと広がっています。



一輪の花から、夏が始まる
そして、それぞれの座席には一輪の花が置かれました。チューリップ、シャクヤク、ユリ。自然の花のように見えるそれらは、柔らかなレザーを一つひとつ手仕事で仕立てたものです。クラフトを極めながら、その技巧を誇示するのではなく、一輪の花ほどの軽やかさへ変えてしまう。それは、このコレクションそのものにも重なります。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
春から夏へ。重なりをほどき、身体と衣服の間に空気を通す。男性らしさと女性らしさの間を行き来し、異なる素材や人、表現を編み合わせながらも、すべてを完成されたひとつの形へ閉じ込めない。
Courtesy of BOTTEGA VENETA
Summer 2027のボッテガ・ヴェネタにある楽観とは、何かを足し続けることではなく、自分自身がもっと自由に動ける余白をつくることなのかもしれません。身にまとうものは少なく、感じるものはより豊かに。そして最後には、風が何かを運んでいけるだけの余白を残す。

ルイーズ・トロッターが描く夏は、軽くなることで、世界に対してもっと開かれていく季節なのです。

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