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【特別インタビュー】(後編)約6年半ぶりとなる待望のニューアルバム『Fantôme』をリリース。 宇多田ヒカルさんインタビュー
UNIVERSAL MUSIC LLC/Virgin Music
2016.09.30 00:00
宇多田ヒカルさんがおよそ6年半ぶりとなるニューアルバム『Fantôme』を9月28日にリリースします。この待望の新作は、彼女から2013年に逝去した自身の母へと捧げられた一枚です。インタビューの後編ではそんな大切なアルバムに注ぎ込んだ幾つもの想いについて、そして豪華なコラボレーションが実現したゲストアーティストについて、宇多田ヒカルさんにたっぷりと語っていただきました。

Q:わずかに英語とフランス語が用いられていますが、『Fantôme』の歌詞はほぼ日本語で書かれていますね。

宇多田ヒカル:1年半くらい前から『次のアルバムは日本語で歌うことがテーマ』とスタジオで話していました。いまの自分の感覚だと英語を使うことが“逃げ”に感じられてしまって。だから今回は制作をスタートさせる段階から、日本語で歌う意義や“唄”そのものを追求しようと決めていました。

Q:アルバムはダンサブルな「道」という曲で始まります。“人間活動”期間中に起こった様々な出来事を経た宇多田さんの率直な想いが凝縮されているような歌詞ですね。

宇多田ヒカル:そうそう。「私は元気です。行きますよー!!」って感じで(笑)。この曲の作詞の過程で、アルバムの主題を自分なりに捉えることができました。言いたかったことが言えてスッキリしました。

Q:“人間活動期間”(=休止)以前と比べると歌い方が変わったように感じられます。

宇多田ヒカル:日本語のポップスで勝負しようと決めていたので、言葉をしっかりと伝えたくて、以前よりも丁寧に歌いました。

Q:その歌をクリアに伝えるためか、アレンジも厳選された音だけが鳴らされているといった印象を受けました。

宇多田ヒカル:日本語の唄は、声と歌詞が前面に出てこないと成立しないので、今回はトラックを極力少な目にしました。

Q:そして歌詞の中にはこれまでになかったアダルトな表現描写も見受けられますね。

宇多田ヒカル:私はデビューの年齢が若かったせいもあって、以前は性に直接触れるのはタブーな気がしていたんです。でも今回からはPG13からR指定になったというか(笑)。それともうひとつ、母が亡くなったことで、これまで自分に課していた最も大きなセンサーシップが取り払われたと感じました。私は自分の考えを正直に音楽にしてきた方だと思うんです。でも母は私にとって一番のメッセージポイントなのに、結局、赤裸々には表に出せず、どこかで隠しながら必死に暗号を出し続けるようなやり方でした。母が亡くなって暫くは「もう音楽なんて作れない」と思っていたのに、いざ意を決し歌詞を書き始めたら、羽ばたくぐらい自由に言葉を選ぶことができました。言葉との関係性であり、世間と自分の関係性が大きく変わりました。

Q:ゲストも豪華です。「二時間だけのバカンス」では同期デビューだった椎名林檎さんとデュエットされていますね。

宇多田ヒカル:林檎ちゃんとはかれこれ長い付き合いですね。この曲では日常と非日常の危うい関係を表現したかったので、母であり妻でもある私たち二人なら説得力が増して面白いかなと思って(笑)。この曲はPVも撮ったけど、現場、盛り上がりましたよ(笑)。

Q:「ともだち」ではTOKYO RECORDINGS主宰の小袋成彬さんが参加しています。

宇多田ヒカル:サビの歌詞が出来始めた段階で、「私一人でひっぱるのつらい」とディレクターさんに相談したら、彼が以前から注目していた小袋さんのことを教えてくれて。私、小袋さんとのレコーディングで、初めて母以外の歌手に歌入れを終始じっくりと見られたのでちょっと緊張しました(笑)。

Q:さらに「忘却」ではラッパーのKOHHさんが参加していますね。

宇多田ヒカル:私は少し前から知人に教わって彼のファンだったんですが、オファーしてみたら彼も私のファンだと分かって(笑)。KOHHのラップパートは彼自身に書いてもらいました。他人の言葉が自分の曲に混ざることも初めてでしたが、自然と真ん中で落ち合えました。生き方を考えることは死に方を考えることと同義だと私は思っているので、これまでの人生を振り返りながらこれから向かうところに思いを馳せました。

Q:「人魚」はハープの音に乗せた美しい曲ですね。

宇多田ヒカル:母の死後、「もう音楽を作れないかもしれない」と思っていた時に、ギターを弾いていたらふと出来てしまった曲でした。一年ほど悩んで、理想に追いつかないとあきらめかけた時にブワッと言葉で出てきた。完成した達成感も強く、いま最も誇らしく感じている曲です。

Q:そしてアルバムは「人生最高の日」を経て、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のテーマ曲となった「桜流し」で幕を閉じます。

宇多田ヒカル:「人生最高の日」は初めて行く場所へ向かう時の高揚感を描きたかった曲です。「桜流し」は最後にしか置きようがなかった曲でしたね。これまでアルバムの曲順は製作チームと議論しながら固めていたんですが、今回は初めて自分で決めました。そういう意味でも、自分のプロジェクトのリーダーという立場に進んで納まったと思える制作になりました。

Q:『Fantôme』は宇多田さん自身にとってどんなアルバムになりましたか。

宇多田ヒカル:“受け入れて、受け入れられる”アルバムでしたね。作ること自体が究極のセラピーだったというか。自分でも「道」を繰り返し聴いていたら「悲しくない、もう大丈夫」と思えてきましたから。必死に前へ進んだことで確かな自信を持てた一枚です。こんなアルバムはもう二度と作れないと思います。

Q:では最後にリスナーへメッセージをお願いします。

宇多田ヒカル:こんなに「聴いてほしい!」と思うのなんて初めてかも?っていうくらい(笑)、すごく聴いてほしいアルバムになりました。何かしらの想いが届いて、皆さんに受け入れてもらえたら嬉しいです。

TEXT by 内田正樹

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