この記事をまとめると
■全日本ダートトライアル選手権に「HKSランサーエボリューション」が参戦している
■HKSワークスカラーの同車はデビュー戦をいきなり優勝で飾った
■HKSが手がけるHKSランサーエボリューションにはいくつもの独自アイディアが注ぎ込まれている
ダートラでデビューウィンを飾ったHKSランエボ
全日本ダートトライアル選手権・第3戦「DIRT-TRIAL in NASU」が4月29日〜30日、栃木県の丸和オートランド那須で開催された。好天に恵まれた29日の公開練習から激しいタイム争いが展開され、最高峰のDクラスでは各チームのモンスターマシンがアグレッシブな走りを見せていたのだが、そのなかでひときわ注目を集めていたのが、HKSワークスカラーの三菱ランサー、04号車の「HKSランサーエボリューション」だった。
同マシンのステアリングを握るのは、国内外のラリーを経て、現在は全日本ダートトライアル選手権のDクラスで活躍している田口勝彦で、昨年まで投入していた自社開発のフォード・フィエスタから、HKSが開発したランサーにスイッチ。開幕戦の京都で、同マシンのデビューウインを果たすなど、いきなり素晴らしいパフォーマンスを披露していたのである。
それにしてもHKSが全日本ダートトライアル選手権にワークス体制で参戦するのは極めて珍しい。ご存じのとおり、HKSはレース用エンジンおよびパーツの開発・製造を目的に1973年に設立されたアフターパーツメーカーで、1986年に富士GCレースに参戦したほか、1991年にはRRCドラッグレースで0-400mにおいて7秒91をマークし、日本新記録を樹立するなど黎明期より活躍。1992年には「HKSスーパーオイル」の発売に合わせて、全日本ツーリングカー選手権にワークスカラーの日産スカイラインGT-Rを投入するほか、1994〜1997年にはオペル・ベクトラで参戦するなど、主にサーキットを舞台にしたレース競技で活躍していた。
2001年にドリフト競技のプロ選手権、D1グランプリがスタートすると、HKSはワークス参戦を開始したほか、2006年には国内主要サーキットでチューニングカー最速タイムアタックに挑戦。まさにHKSの活動の舞台は舗装路が中心となっていたのだが、その名門チームが突如として未舗装路のタイムアタック競技にチャレンジしているのである。
「当社が創立50周年という節目の年を迎えたこともあり、新しいチャレンジを開始していこうという話になりました。過去にサプライヤーとしてエンジンチューニングの部分でユーザーをサポートしたことはありましたが、会社の独自のチームとして未舗装路の競技にチャレンジしたことがなかったので、50周年を機に参戦を開始しました」。
そう語るのはHKSでモータースポーツプロジェクトを担当する大森 継氏で、さらに大森氏は「当社が最後に公式競技に参戦していたのは、9年前のD1グランプリが最後になりますので、それ以降に入社したスタッフが競技の現場を知らない。だんだん、そういった社員も増えてきましたので、10名程度をチームに帯同させてモータースポーツの現場を経験させるなど、人材育成も目的になっています」と付け加える。
HKSでは昨年まで田口のフィエスタのエンジンチューニングを担当していたことから、このプロジェクトのドライバーとして田口を抜擢したことは、極めて自然の流れだったのだろう。
HKSランサーエボリューションの復活に期待
こうしてダートトライアルでの挑戦を決定したHKSは、数年前からマシンの基礎開発を進め、2022年のJAFカップオールジャパンダートトライアルで自社開発のランサーを投入し、JD1クラスで3位入賞。そして、前述のとおり、2023年の開幕戦・京都で全日本ダートトライアル選手権への参戦を開始し、デビュー戦を勝利で飾っていたのだが、それもそのはず、同社が手がけたHKSランサーエボリューションには独自のアイディアが注ぎ込まれている。
近年のD車両はラジエターをリヤに搭載するマシンが主流となっているが、「できるだけ重量物を中央に置きたかった」と大森氏が語るように、HKSランサーエボリューションは助手席にラジエータを搭載。そのために、バルクヘッドに穴を開けて空気を導入するほか、エアクリーナーの吸入口も助手席にマウントするなど独自のレイアウトが行われている。
さらに、同モデルの特徴は「空力のために、できるだけ腹下をフラットにしたかった」と大森氏が語るように、サーキットを舞台にとするレーシングカーのように、アンダーガードでフラットボトム化を追求。そのために、センタートンネルとマフラーをリフトアップするなど、大胆なモディファイが実施されている。
そのほか、回頭性を高めるべくメンバー位置を変更してホイールベースを短縮するなど、細部の作り込みに余念がない。
HKSランサーエボリューションの車両重量は約1250kg、エンジンの最高出力も約470馬力とライバル車両と比較しても飛び抜けた数値ではないが、これらの独自のアイディアを注ぎ込むことにより、抜群のパフォーマンスを発揮しているようだ。
事実、ステアリングを握る田口は「いままでにないランサーですね。ハンドリングがいいのでコントロールしやすいし、動きがクイックです。パワーや軽量化など、まだ課題はありますが、スタートのパッケージとしては悪くない。高速コースから中低速コースまでオールマイティに速いと思います」と好感触。
その言葉を証明するように、第2戦の丸和でも、ドライで行われた土曜日の公開練習で4番手タイムをマークするなど順調な立ち上がりを見せいていた。
それだけに、日曜日の競技本番でも田口×HKSランサーエボリューションの躍進が期待されていたのだが、雨に祟られた第1ヒートで予想外のハプニングが発生。「たぶん、駆動系の問題だと思うけど、右コーナーを抜けるところで、クルマが左に進んでそのまま側面に乗り上げてしまった」と田口が語るように、痛恨のロールオーバーを喫し、そのままリタイアになってしまったのである。
まさに田口×HKSにとっては悔しいリザルトであり、トラブルの原因や今後のリペアの可否、第4戦・砂川以降の活動プランが未定という状況となった。
それでも「開幕戦の京都からアンチラグの制御を変更するなど確実に進化しています」と田口が手応えを語っていたほか、HKSの大森氏も「ブランド戦略的にHKSは未舗装路でも速いというイメージをつけたいし、ダートトライアルを盛り上げたいという気持ちもあります」と語っているだけに、HKSランサーエボリューションの復活に期待したい。