オフローダーの民主化 ジープ・チェロキー ランドローバー・レンジローバー 英米の革新者 後編

2023.03.01 00:00
公開 : 2023.01.28
ワゴニアへ触発され誕生したレンジローバー。SUVの一層の民主化を進めたチェロキーとともに、英国編集部が振り返ります。
舗装路で発揮される高級オフローダーの能力
オンロードでの初代ランドローバー・レンジローバーの強みは、コマンドポジションにある。高い視点でカーブの全体像を把握しやすく、自信を持って滑らかに操れる。

今回ご登場願ったクルマは1990年式で、数年後に装備されたアンチロールバーが付いていない。それでも、コーナリングは安定している。
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穏やかなペースで流せば、高級オフローダーとしての能力を実感する。重厚感のなかに、2代目ジープ・チェロキーでは得られない快適性を発見できる。特に路面からの細かな入力の処理は秀でている。

XJ型チェロキーの乗り心地も不快なわけではない。ステアリングホイールの操舵感は軽く、よりクイック。手のひらへの感触も充分。高速道路では、比較すると直進安定性で及ばないようではあるが。

1992年にロングホイールベース版のLSEが登場したことで、クラシック・レンジの高級オフローダーとしてのステータスはさらに向上した。高級サルーンを置き換える勢いの、21世紀の今を見越した追加といえるだろう。

そもそも標準モデルの場合、リアシート側の空間は充分とはいえなかった。現代の基準でいえば、チェロキーも正直狭い。

インテリアの設えは当時の乗用車に近いが、デザインはやや時代遅れ感がなかったわけではない。チェロキーが英国へ上陸したのは1993年でも、モデル自体の発売は1984年。既に9年が経過していた。クラシック・レンジの発売は1970年にまで遡る。
ディフェンダーとのつながりを感じる車内
チェロキーの内装にはプラスティックが溢れ、パネル類は直角的で、1980年代のアメ車的。ダッシュボードにはフェイクウッドがあしらわれているが、上面はソフト加工され、ステアリングホイールには上級感が漂う。

シートは当時オプション設定されていたレザー。英国で高級モデルとして売ろうと考えていた表れといえる。北米では、よりベーシックなインテリアが主力だった。
ランドローバー・レンジローバー 3.9SE(1970〜1996年/英国仕様)
装備も充実している。リミテッド・グレードのチェロキーには、エアコンとクルーズコントロールが標準。クラシック・レンジの場合、これは最上級グレードのヴォーグSE以外では高価なオプション扱いだった。

チェロキーの登場が、レンジローバーの高級志向をさらに強めた。1993年の時点で約2倍の価格差があった。ランドローバーは、ジープと直接的に戦うことを考えなかった。

クラシック・レンジの装備が及ばなくても、不満を口にするマニアはいないだろう。それでも、ダッシュボードのデザインはまとまりが悪い。大きなフロントガラスと高いフロアの間に挟まり、厚みが薄く操作系を配置する余地が限られている。

ステアリングホイールの裏側にも、スイッチ類が並ぶ。ラベリングも不十分。ヒーター・パネルは横に長く、配置を覚えるまでは扱いにくい。基本設計が古く、初代ディフェンダーとのつながりの強さを感じさせる。
唯一無二のフィーリングへ浸れる
とはいえ、クラシック・レンジへ乗る度に、得もいわれぬ独特なドライビング体験に筆者は惹かれてしまう。エアコンは備わらないが、ヒーターは好調で冬場でもすぐに車内は暖かくなる。大きなサイドウインドウを少し開く。

巨大なガラスエリアに四方を覆われ、コンバーチブルに乗っているような感覚にも近い。グレートブリテン島を吹く風が車内に流れ込み、外界との距離がさらに縮まる。
ダークグリーンのランドローバー・レンジローバー 3.9SEと、ブラックのジープ・チェロキー 4.0リミテッド
滑らかに回転するV8エンジンが、ドライバーの足もとで脈動する。サスペンションが路面をしなやかに受け流し、コマンドポジションの姿勢で自信を持って運転できる。レンジローバーは、古くても的を得たオフローダーだ。

操縦性には、あえて触れたくなるような特長がない。現実として、気にするドライバーも少ないだろう。だが、唯一無二のフィーリングへ浸ることができる。

それでも、オンロードでの印象は、チェロキーの方が遥かに優れていることは否定できない事実だ。オフロードでの走破性では逆転するとしても。

急いで家に帰りたい時、当時のオフローダーとしてチェロキーは最高のモデルに数えることができた。ケータハム・セブンを理想的なスポーツカーとしてガレージに収めていれば、残りはチェロキーで満たすことも可能だっただろう。
自動車の進化での重要な意味
特に英国人は、レンジローバーが世界を変えたオフローダーだと考えがち。だが実際は、XJ型のチェロキーの方が、自動車の進化の過程で重要な意味を持っていたと思う。より革新的なモデルといえた。

モノコック構造のユニボディを採用し、1990年代に訪れたSUVブームの幕を開いた。それは現代にまで続いている。乗用車と四輪駆動車を、見事に融合させていた。
ジープ・チェロキー 4.0リミテッド(1984〜2001年/英国仕様)
生産数を見ると、高級志向へシフトしたクラシック・レンジが1台誕生する毎に、チェロキーは9台がラインオフしていた。影響力の差は明らかだろう。

近年、XJ型ジープ・チェロキーはクラシックカーとして再び注目を集め始めている。上級感と日常性、オンロード性能とオフロード性能を両立させた多能ぶりは、現代でも充分通用するといえる。もう少し早く英国へ上陸していれば、とも考えてしまう。

他方、英国人としては初代ランドローバー・レンジローバーへ強い共感を抱かずにはいられない。他を圧倒するオフロード性能を活かせる場所は限られ、過剰なほどかもしれないが、クルマとしての特別感や実用性を際立てていることも事実だ。

ドライビング体験は他に例がない。筆者にとっては、より長時間味わいたいオフローダーだといえる。

協力:マイケル・デビッド・カーズ社、キングスレー・カーズ社
チェロキーとクラシック・レンジ 2台のスペック
ジープ・チェロキー 4.0リミテッド(1984〜2001年/英国仕様)のスペック
英国価格:1万8995ポンド(1993年時)/2万ポンド(約320万円)以下(現在)
販売台数:288万4172台
全長:4255mm
全幅:1725mm
全高:1626mm
最高速度:173km/h
0-97km/h加速:9.8秒
燃費:5.3-8.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:1519kg
パワートレイン:直列6気筒3958cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:192ps/4600rpm
最大トルク:31.0kg-m/3000rpm
ギアボックス:4速オートマティック
ランドローバー・レンジローバー 3.9SE(1970〜1996年/英国仕様)のスペック
英国価格:2万7839ポンド(1993年時)/4万ポンド(約640万円)以下(現在)
販売台数:32万6070台
全長:4470mm
全幅:1718mm
全高:1778mm
最高速度:177km/h
0-97km/h加速:11.3秒
燃費:5.3-7.1km/L
CO2排出量:−
車両重量:1988kg
パワートレイン:V型8気筒3947cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:187ps/4750rpm
最大トルク:32.4kg-m/2600rpm
ギアボックス:4速オートマティック
ダークグリーンのランドローバー・レンジローバー 3.9SEと、ブラックのジープ・チェロキー 4.0リミテッド
記事に関わった人々
執筆:チャーリー・カルダウッド
英国編集部ライター

撮影:ジョン・ブラッドショー
英国編集部フォトグラファー

翻訳:中嶋健治
1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。
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