人気イラストレーター・北村人の新作絵本『パッポー』が出来るまでの、作家と編集者のやり取りを公開します

2023.01.31 12:00
クレヨンの柔らかな線と、鮮やかな色使いで描かれる愛くるしい動物たち。「カッチコッチ ポーン」や「ニャッオー」など、声に出して楽しいオノマトペ。


ハト時計の中から「次は何の動物が出てくるんだろう?」と、ページをめくらずにはいられない構成で、子どもの心を鷲づかみにしてしまいます。


絵本『パッポー』はイラストレーター・絵本作家の北村人(きたむら じん)さんの、2023年1月に刊行されたばかりの新作です。


北村さんは、イラストレーターとしては日本盲導犬協会のTVCMや『そして生活はつづく』(星野源・著)、『ぼくの守る星』(神田茜・著)の挿絵を、絵本作家としては、自身の作絵による『カシャッ!』、本田いづみさんが文を担当した「万次郎さん」シリーズなどを手がけ、ファンが急増中の人気作家さんです。


クレヨンというありふれた画材でありながら、一目見ればすぐに北村さんの絵だと分かる個性を持った作品たち。書籍やグッズ、CMなど、その絵を見る機会は日に日に増えています。


今回は、ポプラ社で刊行された単著『カシャッ!』から本格的に編集担当をさせてもらっている私が、この作品が出来るまでのエピソードをご紹介します。
新作絵本の構想を話し合う北村さんとの打ち合わせは、楽しいおしゃべりから始まる。
北村さんが近くにお住まいということもあり、打ち合わせはいつも鎌倉にあるカフェで行います。東京住まいの私は、なんとなく小旅行と言えなくもない気分に。(笑)
そのワクワク感が、北村さんとのお仕事ではずっと続いていきます。


編集担当は私ともう一人、そして北村さんとの3人で、まず打ち合わせはおしゃべりからはじまります。


仕事とは関係なく、最近あった出来事やお子さんの話、好きな映画や音楽の話など。こうした話がなんとも楽しく、時間はあっという間に過ぎていきます。カッチコッチ、カッチコッチ。やがて、話題は新作絵本のことへ。


『パッポー』は、約2年ほど前に「こんなのはどうでしょうか?」と、その案を見せていただきました。前作『カシャッ!』が発売されてて間もない頃だったので、そのあふれ出るアイデア、創作への熱量に驚いたのを覚えています。


ハト時計をモチーフにした『パッポー』は当初、時計の形を生かした縦に開くスタイルの絵本として構想されました。
北村さんのアイデアを手元において、コンセプトを固めてゆく。
色はまだついてない状態でしたが、ハト時計をモチーフにするという面白さ、予想もしない動物たちが顔をのぞかせた時の、何とも言えない可愛い表情に魅了されました。
『パッポー』という、一度聞いたら忘れられないタイトルも。


子どもが自分からページをめくりたくなる本について考える。


いただいた線画を持ち帰り、私ともう一人の編集者でアイデアを出し合いました。


どうすれば、子どもがお気に入りの一冊に選んでくれる絵本になるだろう?


北村さんの案には、ハト時計の振り子が、これから出てくる動物の好きな食べ物になっているというアイデアが含まれていました。たとえば、ニンジンだったらウサギ、バナナだったらサル、という風に。


これを基本に、「当てっこあそび」の構造を持った、子どもが次のページがめくりたくてたまらなくなる絵本のコンセプトが固まりました。


驚くことに、北村さんには基本的にラフ段階の絵というものがありません。修正を提案した後にいただける絵の一枚一枚が、本番と変わらないクオリティで届くのです。


以前、このことについて、北村さんに「なぜですか?」と聞いたことがあります。すると、「ラフを考えている間に、手を動かして描いてしまったほうが早いですし、本番であっても何枚でもやり直しができるんです」と。


その軽やかな答えに、私は痺れました。北村さんのクレヨン画から感じる、リラックスした自然体でありながら、そこ以外にはあり得ない、と思わせる筆跡の秘密が、ここにあるのかもしれません。


『パッポー』では、めくるたびに様々な動物を登場させる、ということは決められていました。ブラッシュアップの過程で、残念ながら完成版には入ることのなかった動物の絵がありますが、どれも素晴らしいものばかり。こうした未発表の作品も含めて見られることが、編集者をやっていて本当に良かった! と思うことのひとつです。


今回は特別にこの記事の中だけで、その姿を一部お見せしたいと思います。
たくさんの試行錯誤を重ねて、ようやく1冊の絵本になる。
こうした流れと同時進行で、別企画のお仕事をお願いしたり、ギャラリーでの展示へ伺ったり、北村さんとのやりとりは続きました。
そして、絵本『パッポー』も試行錯誤を繰り返し、約2年をかけて、最終的な形へと向かっていきます。
時計から出てきた動物たちを画面に残したまま、次の動物にも驚くリアクションをさせることで、読むたびに新しい発見が出来るような工夫が加えられました。そして、当初縦開きだったレイアウトは、子どもたちが読みやすくなるように要素を整理して、横開きへと変化しました。
北村さんの大きな魅力である線の描き味は、文字にもあらわれています。
デザイナーの坂川朱音さんからは、動物の鳴き声を手書き文字にしようというアイデアをいただき、絵本全体が動きと音を感じられるものとなり、「オノマトペ」というテーマも浮かび上がってきました。
こうして『パッポー』は無事完成しました。
ここには詳しく書きませんでしたが、絵本の最後には「わっ」と驚く「しかけ」も入っていますので、ぜひ実物を手に取ってみてください。
北村さんと私たち編集者が何よりも大切にしたのは、子どもがページをめくりたくなるワクワク感と、めくった時に喜びを感じてもらえること。
たくさんの親子の楽しい時間に、この絵本が一緒にいられることを願っています。
書名:パッポー
著者:北村人
判型:201mm x 201mm
定価:本体1,200円(税別)
発売日:2023年1月10日
発売元:ポプラ社
書誌詳細 
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