この記事をまとめると
■チェコのプラガがGT-Rのエンジンを搭載したスーパーカー「ボヘマ」を発表
■R35 GT-RのVR38DETTを700馬力/725Nmにチューンしてミッドシップに搭載
■価格は1億円以上でカスタマーのリクエストに応じたさまざまなカスタマイズも可能
カーボンモノコック+GT-Rエンジンのハイパーカー
ポルシェやパガーニ、はたまたパノスなど、イニシャルPが作るクルマは注目のモデルばかりですが、ここに新たなP、プラガ(PRAGA)なるメイクスが参入。しかも、カーボンモノコックに日産GT-Rのエンジンを搭載し、開発請負人は元F1パイロットという桁外れなマシンです。ボヘマ(BOHEMA)と名付けられたハイパーマシン、そのディテールをご紹介しましょう。
そもそも、プラガはチェコスロバキアの自動車メーカーで、歴史を紐解けば100年以上クルマやバイクを作り続けてきた老舗中の老舗。ただし、第二次大戦後はトラックや商用車の生産がメインだったため、日本やアメリカではほとんど無名、ノーマークなブランドだったかと。また、欧州においてもブルーカラーの皆さんにこそ知られてはいたものの、まさかハイパーカーを作るとは夢にも思っていなかったのではないでしょうか。
しかし、2012年にそうした認識はプラガがリリースしたミッドシップのレーシングモデル、R1によって覆されました。ルノー製4気筒ターボエンジンを搭載し、卓抜したパッケージングを作ってみせただけでなく、イギリスのオーガナイザーとのコラボでワンメイクレースまで開催したのです。こちらは、テレビゲームにもたびたび登場しているので、じつにレーシーな走りを見せること、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなバックグラウンドをもった同社が、今度は日産GT-RのV6ツインターボを使ったマシンをリリースしてきたのですから、そのパフォーマンスや完成度に世界の注目が集まるのも当然かと。なお、プラガはR1の販売時からイギリスに販売拠点を構え、ボヘマも89台が現地で限定販売されるそうです。
パッケージを見れば、その複雑な造形もあってカーボン(コンポジットマテリアル含む)モノコックであることは一目瞭然。とくにリヤ周辺はウィングやディフューザーなど、じつに個性的なスタイル。ダウンフォースの発生値も強烈で、250km/h走行時でトータル900kgといいますから、F1やLMPマシン同等、場面によっては凌いでいるかもしれません。しかも、車重は982kgと軽く1トンを切っているので、バットマンカー並みにトンネルの天井を走ることもやぶさかでないでしょう。
また、軽量化に際してはマテリアルもさることながら「不要な電気系パートを極力削除している」とストイックなアイディアが用いられたほか、コクピット周辺の重量も極限まで削ることで34kgという驚異的な数値を得るに至っています。カーボンを使ったからって、簡単に実現できるものでもないので、プラガの技術的ノウハウの高さ、そして生産技術の確かさには驚きを禁じえません。
そして、肝心のGT-Rエンジンですが、R35搭載ユニットVR38DETTに独自のチューンアップを施したPL38DETTなるユニットを使用。最高出力は700馬力、最大トルク725Nm(発生回転数は未公表)まで引き出されています。ベースのVR38DETTはNISMOチューンで600馬力/6800rpm、652Nm/3600-5600rpmというデータがあるものの、そこから100馬力を上乗せするとなると、相当に高い技術が必要なのは想像に難くありません。プラガの潜在能力、侮るわけにはいきませんね。
「快適でサーキットでも速い」とロマン・グロージャンが絶賛
2019年から開発がスタートしたとされているボヘマですが、そのパートナーを担ったのが元F1レーサーにして、ルマンやインディカーにも乗ったロマン・グロージャン。アドバイザーとしてのグロージャンは、開発陣に対しさまざまなリクエストを投げかけ、そのほとんどが実現されたといいます。
たとえば「公道を走るときにパッセンジャーと普通に会話できること」や「コクピットはタイトで構わないけど、どこかにヘルメットを置けるスペースが欲しい」など、ハイパーカーあるあるのネガティブポイントをことごとく指摘していたそうです。で、開発陣はきちんと要求に応えたばかりか、グロージャンも驚くほどの性能を実現したのです。
「公道での快適さは、ハイパーカーと呼ばれるクルマのなかでもトップクラスだ。サーキットに乗り入れても、これほどリニアでシャープなレスポンスを持っているのはプロトタイプカーくらいだろう。キャラクターに二面性があるクルマはときどきあるけど、どちらも満足いくパフォーマンスであることは非常に少ない」
顧問料みたいなものを省いても、相当な褒めようです。実際、チェコ有数のサーキット「スロバキア・リンク」でも着々と開発がすすめられており、コースレコードを刷新する走りを見せるなど、2023年後半には開始する市販モデルへのフィードバックが楽しみなことしきりです。
また、お値段も1億円以上が予定されているだけあって、内外装のカスタムオーダーももちろん可能。なかでも注目は、エレクトリックギアと呼ばれる変速装置で、こちらも顧客の望みに合わせてカスタマイズするのだとか。とどのつまり、好みのサーキットに合わせたセッティングや、現状で300km/hの最高速をより高速化するギヤに変更できる、といったサービスかと。だとしたら、これまたプラガの真面目さ、親切さを表すもので、飛びつくリッチマンは少なくないでしょう。
ただ、ひとつだけ心配なのはドアの開口面積とルーフの低さくらいでしょうか。公式動画などを見ていても乗り降りのシーンは見当たりませんが、ドアそのものも小さいし、開口部も決して広いとは言えない感じ。ここにプロトタイプカー並みに低いルーフが加わるのですから、乗り降りにアクロバットが要求されること想像に難くありません。
果たして、身長180センチあるグロージャン、このあたり気にならなかったのか、実に気なるポイントです。