この記事をまとめると
■千葉県の袖ヶ浦FRWにてGRカローラを試乗
■GRヤリスの兄貴分としてエンジンやスタビリティがより高められている
■オフロードでは大柄なボディが影響してGRヤリスより落ち着いた挙動で走ることができる
話題のGRカローラをサーキットで試乗する機会がやってきた
GRヤリスに続いて、オンとオフで走りを楽しめるGRカローラが登場した。そのプロトタイプを袖ヶ浦FRW(サーキット)でテストドライブしたのだが、ラリーバージョンも用意されているので、グラベルコースもドライブできた。さっそくインプレッションするが、その前にトヨタにとってカローラの位置づけから話しを進めたい。
■エピローグ
雑誌CARトップでもすでにリポートしているが、私が本格的にラリーに没頭できたのは、1970年代に乗っていたTE27カローラレビンとの出会いだった。免許を取ったときは箱スカに魅了され、富士スピードウェイのレースを見て刺激を受けた。ラリーは三菱ランサーから本格的に始めたが、TE27カローラレビンに乗り替え、運にも恵まれ志賀高原ラリーというビッグイベントに優勝してしまった。無名の私は、ノンシードの後ろのゼッケン。お金もなかったので、中古のスパイクタイヤを履くが、雪ならチェーンでもつける覚悟でのぞんだ。だが、幸運にも暖冬でコースは殆どドライだった。シード選手は雪を想定したフルスパイク。私はドライのラリータイヤに毛が生えた程度のナンチャッテスパイク。しかし、路面状況は私に有利だった。
1.6リッターの自然吸気エンジンの心地よいエキゾーストサウンドを聞きながら、フルスロットルで志賀高原の山路を駆け抜けた。まさか、勝てるとは思っていなかったが、SS(速さを競うスペシャルステージ)ではトップタイムをマークし、結果は総合優勝。そのとき、ラリーの専門誌に書かれたヘッドラインは「舗装の貴公子」だった。
■トヨタにとってカローラの意味
クルマ好きはホットなGRカローラに目が釘付けになるが、トヨタにとってカローラがどのように位置づけられているのか、知っておく必要がある。トヨタにとってクラウンとカローラは決して絶滅させてはいけないモデルである。クラウンはすでに新型が発表され、まるで蛹(さなぎ)から蝶に変身する完全変態を果たした。
この変態は旧モデルの販売が瀕死の状態だったので、大きな変化を遂げることができたが、カローラはそうはいかない。先日新型プリウスが発表されたが、コンセプトを180度も変更し、海外ではタクシーとしても人気があったエコカーの代名詞が、スポーツハッチに大変身した。しかし、プリウスはクラウンのように販売が不調だったわけではない。実用車からスポーツハッチに変わったことで、新規ユーザーを獲得できるかもしれないが、失うユーザーもいると思った。そのあたりの話しを関係者に聞くと、じつはカローラの存在があったのだ。
海外ではプリウスが担ってきた需要はカローラが受け皿となり、プリウスはよりスペシャリティカーに差別化したのである。カローラはホットなGRモデルから、質実剛健な実用車まで、幅広い役割を演じることになる。パワートレインやシャシーは多様化し、さまざまなニーズに応えることが可能となった。
GRヤリスの兄貴分は例えるなら911GT3のような存在だ
■GRカローラのスペック
ここでは超ホットなGRカローラの話を進めるが、まずはスペックチェック。カローラがGRファミリーの一員になるには、相当の性能アップが必要だ。
GRカローラの標準モデルはGRヤリスと同じ1.6リッターターボを搭載し、最大出力はGRヤリスの272馬力よりもパワーアップした304馬力。最大トルクは370Nmと同じだが、重量はGRカローラが重い。しかし、兄貴分となるGRカローラはどうしてもヤリスよりもパフォーマンスを高める必要があり、ギヤ比を徹底的に見直すことで、0-100Km/h加速データではGRヤリス5.5秒よりも速い5秒前後を実現した。さらにより軽量化したスペシャルなモリゾウ・エディションは4.92秒と発表している。
そして、カローラの優位性はサスペンションにもある。リヤサスペンションはヤリスと同じ形式だが、フロントサスはCセグメントのシャシーを使うので、Bセグメントのヤリスよりも剛性やレイアウトの点で有利だ。ボディもしっかりと剛性を高めているから、ロードカーとしては洗練している。
ホイールベースも長いので、実用車としても便利だ。たとえるなら、ポルシェ・ケイマンと911カレラの関係に似ている。
■サーキットの狼にたりうるか?
サーキットの印象は加速減速しても、ボディがフラットライドなので安心感が高い。コーナーリングは限界がつかみやすく、タイヤの接地感がステアリングホイールを通じて、使わってくる。
ブレーキを残してターンインしても、リヤは落ち着いているし、リヤ寄りのトルク配分ではスムースにリヤがリバースする。この辺りの挙動は、ヤリスよりもスムースなので、コントロールしやすい。シフトフィールも節度感があり気持ちよくMT車を乗りこなせる。
ラップタイムはGRヤリスよりもやや速い程度だった。タイヤはヨコハマの「アドバン アペックスV601ー235/40R18」を履く。このタイヤはGRカローラ専用に開発されている。
究極のGRカローラとしてモリゾウ・エディションがラインアップされているが、こちらのスペックは興味深い。軽量化はもちろんのこと、エンジンのトルクが高まり、さらにダンパーは前後ともモノチューブ方式で、フロントストラットは倒立式を採用し、横力をしっかり受け止めることができる。
タイヤはワンサイズアップしたミシュランのパイロットスポーツ カップ2。このモリゾウエディションは、グリップとドリフト走行のどちらでも、気持ちよく走れる。ポルシェに例えるなら911GT3のような孤高の存在だ。
最後にラリーカーとしてのポテンシャルをチェックする。グラベルの世界では、重さは有利になるということを証明している。タイヤのブロックが路面に食い込むには接地圧が必要なので、GRカローラはGRヤリスよりも走りやすかった。というか、タイヤのグリップ感が大きく異なっていた。GRヤリスは暴れ馬のような操縦性だが、GRカローラはよく調教されたサラブレッドように自在に走れた。
GRカローラが登場したことで、GRブランドが目指す方向が見えてきた気がした。レクサスや通常のトヨタ車には走りの世界を切り拓いている。単なる速いスポーツカーではなく、洗練されたスポーツモデルこそが、GRが目指す姿ではないだろうか。