この記事をまとめると
■モデルチェンジした新型日産セレナにテストコースで試乗した
■ガソリン車は先代からスペックの変更はないが加速は爽快、スムースで静か
■e-POWER車はガソリン車よりも重厚でしっとりとした乗り心地
静粛性が高くエンジンの存在を感じさせないガソリン車
6代目となり、先代の1.2リッターから1.4リッターに排気量アップした新HR14DDeと呼ばれる発電用エンジンを積みながらも、100%電動駆動となる第二世代e-POWERの進化はもちろん、新たにLUXION(ルキシオン)という最上級グレードを追加し、ミニバン初のプロパイロット2.0を搭載したのが新型セレナ。今回は日産のテストコース、グランドライブでの試乗記をお届けしたい。ただし、コース内のワインディングセクションは走れず、オーバルコースのみの短時間のインプレッションとなることをお断りしておきたい。
最初に乗ったのは、ガソリン車のハイウェイスターVである。実績あるMR20DDエンジンは、110Kw(約150馬力)、200Nm(約20.4kg-m)。先代のスマートシンプルハイブリッド車が同MR20DD型ユニットで150馬力、20.4kg-mだったから、スペックはまったく変わっていないことになる。
が、エンジンは制御ロジックを進化させ、エクストロニックCVTもシフトバイワイヤ化するとともに新コントロールバルブを採用するなどの改良が施されている。さらに、ガソリン車にパドルシフトが追加されているのもニュースと言っていい。
パドルシフトはスポーティな走りを楽しむためだけの機能だと誤解されがちだが、日常域でもキビキビした運転が可能になり、ブレーキを踏まないスピードコントロールのしやすさといった点でも、かなり実用的なのである。
まず試乗したガソリン車となるハイウェイスターVの新ゼログラビティシートを奢る運転席に乗り込めば、文句なしに快適な乗降性を確認。そして先代から一気に先進化されたインパネまわりのデザインに新型らしさがひしひしと伝わってくる。特に12.3インチの液晶メーターと連続する同じく12.3インチのセンターディスプレイ(ナビ)のデザインは、あのBEV、日産アリアを彷彿させる、先進感を強調する大きなポイントとなる。
また、シフターはフラットなセンターパネルのエアコンコントロールの下にあるボタン式電制シフトとなり、左からP-R-N-D/Bの4つのボタンが並んでいる。その左側にハザードスイッチがあり、e-POWER車の場合はさらにその左側にプロパイロットパーキング、e-Pedal、EVスイッチが並ぶのだ。
運転席からの視界はパノラミックだ。大きなフロントウインドウによって前方はもちろん、直上の視界も良好。ダブルAピラーによって斜め前方の視界にも不満なしである。が、ボタン式であるはずのスタートボタンが見当たらない……。あちこち探した結果、身長172cmの筆者のドライビングポジションでは、ステアリング左側の、ステアリングスポークとワイパーレバーに隠れた位置にあった。走り出しと停車時のみの操作とはいえ、ボタンの位置は嬉しくない。
で、スタートボタンを押し、エンジンを始動させ、アイドリングさせたわけだが、車内は静か。エンジンの鼓動はほぼ気にならないレベルにある。走り出せば、低速域のパワーステアリングの軽さ、扱いやすさは先代同様。アクセルを踏み込んでいっても、2リッターガソリンのNAエンジンとしては、かなりスムースで、静か。唯一の動力源となるエンジンの存在を感じにくい走行感覚と言っていい。
日常域を意識して40~60km/hの速度で走っても、車内の静かさは保たれ、耳に届くのはロードノイズのみという具合。ボックス型ミニバンのウィークポイントになりがちなこもり音もないに等しい。そこからの加速も軽快。走行感覚そのものが爽やかに感じられる。加速力にしても、ファミリーミニバンとして150馬力、20.4kg-mのスペックは十分だ。
先代ハイウェイスターの195/65R16サイズから全車標準となった205/65R16サイズのタイヤを履く乗り心地に関しては、テストコース内での印象は、感動するほどいいわけではないが、フツーにいい。途中に意図的に設けられた段差の乗り越えでは、軽微な段差の乗り越えでのショック、振動の収まりはなかなか。が、キツ目の段差では、それなりのショック、振動が伝わる。フロア剛性は十分のはずだが、もう少し高くてもいい……という印象もある。
※画像はe-POWERハイウェイスターのタイヤ&ホイール
褒められるのは、遊び感のないステアリングフィールだ。切ったぶんだけ素直に曲がるという感じで、扱いやすさはなかなかのものだといえる。
が、オーバル状のコースのターンでは、ロールは決して少なくなく、ロールスピードそのものは穏やかながら、シートのサポート性(とくに背中)不足もあるからか、乗員が大きく左右に振られてしまう挙動を見せる。カーブではゆっくり走ればいい……わけだが、ここはもう少し、乗り心地と姿勢変化のバランスをとってほしいと思った次第。先代に比べ、サス剛性50%、ロール剛性20%、コーナーの安定感23%UPというのが日産の説明だが、フロントシートのサイドサポート性が、その美点をマスキングしてしまっているようにも思えた。
また、ステアリングのセンターが引き締まり、ステアリングに軽く手を添えているだけで直進する。直線路80km/hで試したレーンチェンジでは、ステアリングを切る方向はスッキリしているものの、戻し方向ではやや人工的なねっとり感が見受けられ、ここもまた改善点だと思われる。
とはいえ、エンジンをまわしても不快なノイズとは無縁で、高速クルージングでも車内の静かさが保たれるのは、ファミリーミニバンとしても嬉しいポイントだろう。少なくとも、エンジンノイズに関しては、ノア&ヴォクシーよりはずっと静かである。
専用チューンの足まわりで上質感ある乗り心地のe-POWER車
次に試乗したのは、新型セレナの最上級グレードとなるe-POWERのLUXION。タイヤは全グレード共通の205/65R16サイズだ。走り出してすぐに、あれれ、ガソリン車とはけっこう違う……と感じられたのも本当だ。ガソリン車よりも重厚、しっとりとした乗り心地になり、例の意図的な段差の乗り越えでのショック、振動の軽微さ、収まりの良さがあるのだ。
また、ガソリン車で気になった、ステアリングの戻し時のスッキリ感のなさも解消。切る、戻すどちらの方向もスッキリしているのだ。言い換えれば、より上質感ある乗り味に躾けられているということだ。これはおそらく、LUXION以外のe-POWERモデルにも共通するはずだ。
というのも、開発陣に確認したところ、ガソリン車に比べてe-POWER車は、フロントで80kg、リヤで20kg重くなり、そのためサスペンションのバネ、ダンパー、そしてパワーステアリングのチューニング(味付け)もe-POWER専用となるのだそうだ。その重さもまたガソリン車とは違う、重厚でしっとりとした乗り味に貢献していることは言うまでもない。
ところで、ドライブモードについてだが、BEVのサクラでも感じた(というか日産開発陣に指摘した)、ドライブモードスイッチの位置には疑問が残る。サクラ同様にステアリング右下、インパネ右下の上下2段のスイッチ類の中に配置されているのだが、サクラと違い上段、右端に位置変更されているのはまだいいが、それでもブラインド操作で切り替えやすい場所とは言い難い。
「一度、エコやスタンダートにセットすれば、そのまま切り替える必要はないのでは」という意見もあるだろうが、平坦路から山道に入った場面などで、走行中に切り替えたくなる、クルマの走らせ方が分かっているドライバーにとっては、不満点のひとつになりそうだ。
というのも、エコモードはアクセルレスポンスと加速力がちょっと大げさなほど穏やかになり、車内でどこかにつかまれない赤ちゃんやペットを乗せ、のんびりと走るには、燃費も含めて適切だが、個人的にはちょっと穏やかすぎる印象もある。普段使いとしてはやはりスタンダートモードが適切で、走りやすさにもメリット大である。このあたりの切り替えも、シーンによってありうるわけだ。
では、スポーツモードはどうかと言えば、新型セレナのe-Pedalはドライブモードとは連携せず、任意にセットするわけだが(その作動、減速・回生感は初期よりずっと自然になった)、スポーツモードにセットするとアクセルレスポンスが高まるだけでなく、アクセルペダルと右足が駆動モーターと直結するような、BEVのアリアを思わせる(ちょっと大げさだが)電動車感が強まるのがポイント。ただのスポーツモードではない新型セレナの100%電動駆動車としてのさらなる魅力となりうるモードなのである。
そうしたモード切替の変化の大きさ、意味合いからも、ドライブモードスイッチの位置は、もっと切り替えやすい場所にしてほしてと願うわけである。
燃費性能はe-POWER車が18.4~20.6km/L(グレードによる)。ロングツアラーとしての魅力はe-POWERモデルに軍配があがるのは当然である。LUXIONであれば同一車線、全車速域でハンズオフドライブが可能になるプロパイロット2.0も標準装備されるのだから、なおさらだろう。
一方で、WLTCモード13.0~13.4km/L(グレードによる)の2リッターガソリンモデルは街乗り中心のドライバー、家族にとっては価格面も含めてバリューはあるはずだが、やはり電動化時代には、電動感が一段と強まり、より上質な走行感覚が得られ、燃費性能にも優れるe-POWERモデルを選ぶのが正解だろう。
なお、新型セレナの車両概要、パッケージ&ユーティリティ、安全・先進機能については、すでに掲載済みの記事をご覧いただきたい。