だからトヨタは強い! 全店全車取り扱いでも「中身は同じ」な「ノア」と「ヴォクシー」を残すしたたかな戦略

2022.11.25 06:20
この記事をまとめると
■トヨタ系正規ディーラー全店において、全車種の購入が可能となった
■兄弟車は必要なくなったようにも思えるが、新型ノア&ヴォクシーが登場
■いまだに兄弟車が販売される理由を考察する
あえて消費者に選択肢を与えている
  2020年5月より、トヨタ系正規ディーラー全店において、トヨタ車すべてが購入できるようになった。トヨタ系正規ディーラーはいまだに多くの地域で、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店となる販売ディーラー4チャンネル体制を維持している。そして過去には、トヨタ店にはクラウン、トヨペット店にはアルファード、カローラ店にはカローラ、ネッツ店にはヴィッツといった、それぞれのチャンネルのみでしか買えない専売車種というものが存在していた。2020年5月を待たずにすでにプリウスやアクアなど全店扱い車が売れ筋モデルとなるケースも目立っていた。国内新車販売台数の減少、つまり市場縮小傾向が続くなか、中長期的に見れば国内販売網の再構築を進めるためもあり、全店全車種扱いが実施されたともいわれている。
  2020年5月には商用車の一部を除き、それまでのトヨタ車のラインアップはほぼ統廃合なく全店全車種扱い化が進められた。そのため、同じ店でプレミオ&アリオンやアルファード&ヴェルファイアなど、過去に専売車種があった時代に、たとえばトヨペット店扱いのアルファードに対し、ネッツ店扱いのヴェルファイアなどと兄弟車が設定されたが、その兄弟車がそのまま同じ店舗で購入することができることとなった。
  プレミオ&アリオンみたいに兄弟車ごと絶版となるケースがある一方、ルーミー&タンクのように、ルーミーのみになり全店扱いが続くケースもあった。しかし、アルファード&ヴェルファイアやノア&ヴォクシーなど、いまだに兄弟車がそのまま残って販売されているケースもある。
  たとえばノア&ヴォクシーでは、日産セレナ、ホンダ・ステップワゴンといった、他メーカーライバル車とのまさにガチンコとなる販売競争が続いている。自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計によると、2022事業年度締め上半期(2022年4月~2022年9月)車名(通称名)別販売台数をみると、ノアが2万9265台、ヴォクシーが2万6716台となっている。これに対して、ステップワゴンは1万8710台、セレナは2万6666台となっている。
  車名別に見れば、セレナはフルモデルチェンジを控えた末期モデル状態であったので、大健闘である数字であるし、5月下旬にフルモデルチェンジを行い、ある意味ハンデを背負っていたステップワゴンもノアやヴォクシーに対して見劣りする実績でもない(半導体不足などの影響があり生産遅延による納期遅延が続いているなかというのを考えても健闘している)。
  しかし、これをメーカー別同カテゴリーミニバン販売台数でみると話が異なってくる。つまり、トヨタというくくりにすると、ノアとヴォクシーを合算した数字である5万5981台となり、このカテゴリーではトヨタの圧勝となる。国内販売でも人気の高いミニバンで量販の期待できるカテゴリーなので、囲い込み(他メーカーに逃がさない)のためにも、ノアもしくはヴォクシーのどちらかに一本化せずに、あえて消費者に選択肢を与えているといっていいだろう。
  アルファード&ヴェルファイアでも、販売台数ではアルファードが圧倒的に多いが、それでも「アルファードはいまひとつ」といったひとも受注に持っていきたいとの理由もあり、ヴェルファイアが残されているものと考えていい。また、ヴェルファイアはアルファードとともに海外輸出も行っているので、生産の都合上、日本市場でも残されているのかもしれない。
  トヨタディーラーの全店全車種取り扱い化により、それまでの専売車はクラウンなどごく一部を除き販売台数を大きく伸ばし、今日のトヨタ一強の販売状況を生むのに貢献したと言っても過言ではない。全店で全車種を取り扱うようになると、モデルラインアップが減っていくことをネガティブに捉える声もあるようだが、メーカーもボランティアで自動車を生産しているわけでないので、採算がとれない(つまりニーズもない)とまでは言わないが、極端に販売台数の少ないモデルの生産を終了するのは、市場の縮小傾向も考えればやむを得ない。そうはいっても闇雲に兄弟車を一本化するわけでもないのは、ノア&ヴォクシーなどの例を見れば明らかだろう。
今後もディーラーの改革は続くだろう
  車種ラインアップの減少がユーザー利益を毀損するというよりは、トヨタの看板を掲げるディーラーへ行けばなんでも買えるという利便性アップのほうが、全店全車種取り扱い化は大きいものと考える。市場が右肩上がりの時代ならば、まだまだ新規にマイカーを持とうとする人も多いので、世間のクルマへの注目も高い。そのような時代ならば、販売ディーラーの多チャンネル化や、それに伴う専売車の投入などはかなり購買意欲を煽るといったことには有効である。世界一の自動車市場である中国は、まだまだ日本に比べれば成長が期待できる市場であり、消費者の注目も高い。そのため同じメーカー内でブランドの多角化を進め、各ブランドのディーラーを展開することで、日本とは少々異なる多チャンネル化を進めていたりもする。
  過去にはクリオ、プリモ、ベルノと3チャンネル体制をとっていたホンダは、プレリュードやインテグラなどを扱うベルノ店はスポーティモデルが多く若者向け、アコードやレジェンドを扱うクリオ店はラグジュアリーカー、シビックや軽自動車を扱うプリモ店はおもにコンパクトモデルを扱う店と性格わけしていたが、市場の縮小とともにホンダカーズに屋号を一本化した。日産も過去には専売車を用意していたが、いまではどこでもすべての日産車が買える。マツダにいたっては、バブル経済絶頂期には、マツダ、マツダオート、ユーノス、アンフィニ、オートザム、オートラマなど、トヨタより多チャンネル化を進めていた。
  しかし、絶頂期に比べれば半分ほどに落ち込んだ市場となったいまの国内新車販売市場では、消費者のクルマへの興味も薄れ、トヨタが専売車を置いていたころには、「ここは何を売っているんですか?」と聞かれ、取り扱い車の説明から商談が始まることもあったと聞いている。つまり、同じトヨタディーラーなのに店によって扱っていないクルマがあることが、消費者にとっては不利益にとられる傾向が目立ってきたのである。また、専売車種が販売促進を妨げるケースもあった。たとえば専売時代に、カローラに長らく乗り換えてきたひとがいたとする。しかも同じセールスマンから買い続けたとする。しかし、「そろそろプレミオに格上げしたいなあ」と思っても、プレミオはトヨペット店扱いなので乗り換えを躊躇しているうちに、「どうせ店が変わるのなら」と、日産やホンダ車に乗り換えられてしまうリスクも高まっていたのである。
  余談だが、同じ地域内のトヨタ系ディーラーのセールスマンでは、独特の取り引きがあったと聞いたことがある。たとえば、カローラ店の得意客がクラウンが欲しいとなった時に、カローラ店のセールスマンが知り合いのトヨタ店のセールスマンに紹介してクラウンを納めるとのこと。そして、紹介してもらったトヨタ店のセールスマンは価格を合わせるためにカローラを3台、カローラ店のセールスマンにお返しとして紹介するといったことが大昔にはあったそうだ。
  トヨペット店はマークXの絶版後はトランクを持つセダンと言えば、プレミオのみとなった。しかし、全店全車種扱い実施によりハイブリッドもラインアップするカローラセダンが扱えるようになり、マークXだけでなくマークⅡユーザーの受け皿となり、新車への乗り換えが進み助かったという話も聞いている。
  国内の新車販売現場の体制は大枠で見ると、バブル経済のころを引きずった状態といっていい。しかし、ゼロエミッション車や、オンライン商談の普及、消費者マインドの変化、販売現場の人材不足など周辺環境は日々変化している。トヨタは時代の大きな節目に対応させるべく、まず全店全車種扱いを実施したが、さらにディーラー改革は続くだろう。そして、販売網の再構築については他メーカー系ディーラーにも当然波及していくものと考えている。

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