話題の新型クラウン! ぶっちゃけ乗ってどうでした? 【ド直球インプレ 嶋田智之編】

2022.10.30 17:20
この記事をまとめると
■16代目となる新型クラウンが発表された
■4モデルのうち、まず今秋に発売されるのが話題のクロスオーバーモデル
■今回は嶋田智之さんが乗ってみた印象をお届けする
後席の乗降性もしっかりと確保されている
  ふと思いついて“crown”という単語を愛用のウィズダム英和辞典で調べてみると、王冠、栄誉、王位といった意味が記されてる。トヨタ・クラウンの場合にはエンブレムを見ても明らかなように“王冠”だと考えるべきなのだろうが、いずれにしても記されていた意味はそれを得た人を讃える何かを表すものばかり。確かに王冠や王位といった言葉からは自然とフォーマルな雰囲気を連想するものだけど、crownという単語は何せ誰かを讃えるモノやコトであるのが第一義なのだ。そこにドレスコードを定める何かは含まれてない。
  ならばトヨタ・クラウンは、ずっと続けてきたコンサバな感じのフォーマルな4ドアセダンをヤメてもいいんじゃないか? である。残念ながら現段階では“RS”には未試乗なのだが、クラウン・クロスオーバー“G”には試乗していて、今ではそんなふうに感じてる。
  クルマ好きの皆さんなら記憶に新しいだろう。7月に16代目となる新型クラウンが発表された直後の「これがクラウン?」「まぁでもわりとカッコいいよね」というような戸惑いの気持ちを。頭の中にあったクラウン像と新たに提示されたクラウンの姿がまるっきり結びつかなくて、誰もがちょっとばかり衝撃を受けちゃったのである。僕自身も“これが新型クラウン? ……っていわれてもなぁ”みたいに、何だか釈然としないような気分になったものだった。買う気があるわけでもないのに。
  誤解を承知でいうなら、ある意味、クラウンというのはそういう存在でもあると思う。もちろん購入意欲のある人が少なからずおられるのも確かだけど、クルマにまったく興味がない人でも名前くらいは知っていて、クルマ好きにとっては昔からニッポンのコーキューシャの代名詞的存在だから気になっていて、その存在感の大きさが頭や気持ちに居座っていたりもする。購入者だけがクラウン像を抱いてるわけじゃないのだ。そこに来て新しいクラウンのメインストリームになると思しき4ドアクーペとSUVを掛け合わせたようなクロスオーバーの姿を見せられたら、複雑な気分になるのも然りといえば然りだろう。もちろん歴代クラウンの多くがそうだったように、新型にもいくつかのボディが異なるモデルが並行してラインアップされることになるようだが、そのいずれもがこれまでの固定観念的クラウン像とは違ってる。新型クラウンの発表は、クルマ好きにとってちょっとした事件だったのだ。
  でも、試乗したあとのいまならいえる。クラウンがこうであってもいいんじゃないか、と。いや、言葉を変えよう。試乗から日が経ったいまは、時間が解決したのか“これがクラウン?”な気持ちはもうどこにもなく、誰かに問われれば当たり前のように“新しいクラウン、いい出来映えだったよ”なんて返してる自分がいる。自然と新しいクラウンをクラウンとして認めるようになった、ということなのかもしれない。
  僕は発表会の会場にお邪魔することができなかったので、実車を見たのは試乗の当日がお初だった。オンラインの発表会で見たときにもそう感じたとおり、わりとカッコいいじゃん、と思った。ノーズ、ボンネット、フロントウインドウ、ルーフ、テールエンドへとなだらかに流れていく一連のラインは写真より綺麗に思えたほど。前後のドアを後ろに向かってせり上がっていくような表情豊かなえぐり込みもいい。インテリアもこれまでどこかに漂ってたオッサン臭さはなくなって、度が過ぎない程度に肩の力の抜けた、シンプルでスタイリッシュといえるものになった。エクステリアもインテリアも全体的にだいぶ若々しい印象で、いまどきの時流にも合ってるとは思う。
  ある時期のメルセデス・ベンツと同じくクラウンを求める層の高齢化が進み、そうなると販売台数も先細りになっていくのが道理。変えるべきところは大きく変えて新しい道を切り開いていこう、と考えた結果だろう。若返りを狙った、という点ではいい感じに成功してるように思える。
  これまでのクラウンでは比較的多かった黒塗りのハイヤーや公用車、あるいは会社の役員専用車のような使われ方にはまったく似つかわしくないが、そこはどうする? と思ったら、ヒップポイントが630mmで乗り降りがしやすいフロントシート同様リヤシートも乗車と降車がとてもラク。しかもリヤのドアにだけ、半ドア状態まで持ってくればあとは自動で閉じるオートクロージャーが備わってる。リヤシートの足もとは、これまでのどのクラウンより広い。後ろのシートに乗せる人を大切に扱う伝統は捨ててない、ということだろう。
ワインディングを気持ちよく走ることができた
  今回の試乗車は、2.5リッター直列4気筒エンジンのハイブリッドで、リヤにもモーターを持たせた4WDの“E-Four”。エンジンが最高出力186馬力で最大トルクは221Nm、フロントモーターが119.6馬力と202Nm、リヤモーターは54.5馬力と121Nmで、システム最高出力は234馬力となる。もうひとつのRSがシステム最高出力は349馬力ということを考えると、こちらがクラウンのスタンダードな仕様ということだろう。
  走らせてみると、さすがに従来からのものを熟成させてきたシステムだけあって、文句のつけどころが見つからない。発進から滑らかで力強く、街なかでは緩慢さを感じることはない。もちろん静かで、そういうところに高級車らしさを感じたりもする。高速道路の巡航や追い越し、ワインディングロードでのコーナーからの立ち上がりでも、まぁ不満を覚えることはないだろう。まぁ走り屋や飛ばし屋にとってはものたりないかもしれないけど、そういう人は後発のクラウンRSを選ぶに違いない。そうではないジェントルマンにとっては加速力も十分だし、速度の乗りも悪くないと感じるんじゃないか? と思う。エンジンを高回転までまわすと思いのほかサウンドが高まって、それまでの静かな空間をちょっとばかり賑やかに演出するのだ。それは新しいクラウンをはっきりドライバーズカーとして位置づけてるから、かな? 音質がさほど悪いというわけでもないので耳障りとまではいわないが、ここはちょっと驚いた。
  もうひとつドライバーズカーっぽいと感じたのは、望外によく曲がるハンドリングだ。道幅が広いわけでもなく、ときどきタイトなコーナーが思い出したように出現するワインディングロードはさすがに得意分野とはいえないだろうと予想してたのだが、まったく苦ともしないどころかすっかり気持ちよく走り抜けさせてもらえた。ドライバーのステアリング操作に対して車体の反応に遅れはなく、正確に動いてくれるような印象。きつめのターンではスイッとノーズを内側に向け、長いコーナーではしっかり腰を据えた感じで、走りたいラインをしっかりトレースしていけるのだ。必要に応じて後輪の駆動もコントロールしてくれるE-Fourが効いてるのだろうが、“ダイナミックリアステアリング”と呼ばれる4WS機構が備わってることも大きく作用してる。あまり大きなロールを覚えることなく安心感とともにコーナーを駆け抜けられるのも、この機構のおかげだろう。
  乗り心地に関しては、結構快適な部類だと思う。サスペンションの動きの大小にかかわらず、比較的一貫した上質な乗り心地を味わえる。クロスオーバーとしての理想的なスタイリングを完成させるために選ばれた21インチという大径ホイールとハイトの薄いタイヤを履いているのに、快適性にはさほど悪影響を与えていないように感じられたはちょっとした驚き。いや、で段差を踏み越えた瞬間などにはもちろんはっきりしたインパクトを感じることはあるのだけど、不快という言葉を使うような衝撃ではないし、それ以外ではしなやかでたっぷりとしたゆとりも感じられて、心地好い。基本、癒しのクルマなんだな、とすら思えたほどだ。車格や価格から考えてもちゃんと納得のゆく乗り味を提供してくれてる。クラウンという名前に恥じるべきところは一切ない。
  そう、新型クラウン・クロスオーバーの出来映えは、かなり上々なのだ。1台のクルマとしての満足度は、結構高いと思う。クラウンらしいか? と問われて、見た目はいまっぽく若返ってるけど乗り味のなかにある矜恃は間違いなくクラウンでしょ、と素直に答えられるくらいに。クラウンとは、それを得た人を讃えるためのモノ。オーナーを讃えるための快適性や走りの良さ、何にも恥じることのない存在感を持つクルマ。それこそが長い歴史の中で培ってきたクラウンの精神性であるなら、新型も紛うことなきクラウンだ。クラウンのユーザーは、カタチじゃなくそういうところを求めてきたのだろう。
  新型クラウンの受注の初速は、素晴らしく好調だ。発売約1カ月後の段階で約2万5000台。しっかりと世の中に受け入れられている、ということの何よりの証だ。買う気があるわけでもない(というかクラウンだけじゃなくてこの大きさのクルマを買う気がないし貧しいので買えないというのが正解なのだけど)僕のようなヤツが無駄に考えたり余計な心配をしたりしてるうちに、買う人はためらいなくこれをクラウンと認めて買ってる、ということだろう。
  16代目クラウンが描き出すストーリーは、まだスタートしたばかりだ。これからファストバックっぽいセダンもエステート系SUVもホットハッチ風スポーツ系SUVも、順に登場することになる。クラウンがこうであってもいいと素直に感じてるいまは、それらの登場がちょっと楽しみではある。

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