ライバル車の後出しジャンケンで勝つ! かつて他メーカーが「恐怖した」トヨタの「超競争主義」が薄れたワケ

2022.09.29 06:20
この記事をまとめると
■かつてトヨタ車は「80点主義」と呼ばれていた
■しかし2000年頃よりトヨタのクルマ作りに変化が起きる
■理由は商品開発が海外中心に変わったことなど
トヨタに執拗にマークされたのがホンダ
  かつてのトヨタ車は「80点主義」と呼ばれた。すべてを平均的に「80点」で仕上げるという意味ではない。「不得意な科目でも最低80点は獲得する」ことを意味する。
  この80点主義を濃厚に感じさせたのは、1960年代から2000年頃までだ。代表車種はカローラ/コロナ/マークII/クラウンといった4ドアセダンになる。趣味性は弱いが、上質で入念に造り込まれ、誰が購入しても期待を裏切らなかった。
  そして1998年にはレクサスISの日本版として、後輪駆動ながら全長を4400mmに抑えたスポーツセダンのアルテッツァ、内外装を上質に仕上げながら外観とサイズは控え目な上級セダンのプログレも加えた。セダンの主流とされるマークIIやクラウンをそろえる一方で、アルテッツァやプログレといった反主流も投入して、トヨタだけでセダン市場を完結させていた。
  当時のトヨタはミニバンのような新しいカテゴリーにも目を光らせ、他社からヒット作が生まれると、必ず「刺客」を送り込んだ。とくに執拗にマークされたのがホンダだ。2000年にホンダがワゴン風ミニバンのストリームを発売して人気を得ると、トヨタは2003年にほぼ同じサイズのウィッシュを発売して販売合戦で勝利した。
  ホンダが2001年に前席の下に燃料タンクを設置して3列目の床を低く抑えたモビリオを発売すると、トヨタは2003年に、薄型燃料タンクで同様の効果を得る初代シエンタを発売している。売れ行きはシエンタが上まわった。
  ホンダ以外でも日産が97年に初代エルグランドを発売して人気を高めると、トヨタは渾身の初代アルファードを開発した。そして2002年5月21日に2代目エルグランドが発売されると、翌日の5月22日に初代アルファードを発売して売れ行きを伸ばした。
  このような周到な戦略で、トヨタは国内4輪車市場の30%少々、小型/普通車に限れば40〜45%のシェアを獲得していた。
  ところが2000年頃から、トヨタのクルマ作りが変わり始めた。他社を執拗に追う傾向が弱まり、失敗も目立ち始めた。パッソセッテは、2008年に初代シエンタの後継として発売されたが、これが全然売れない。そこで一度廃止した初代シエンタを改良して復活させ、パッソセッテは廃止する異例の事態を招いた。
パッソセッテの敗因は商品力
  パッソセッテの敗因は商品力にあった。初代シエンタは薄型燃料タンクの採用もあって、コンパクトなボディに広い室内を備えたが、パッソセッテは3列目が窮屈だった。スライドドアも装着していない。車名でも失敗した。ミニバンのユーザーは「これから子育てで頑張るぞ!」という決心と共に購入するのだ。ユーザーとその家族が、新しいライフステージに入る象徴でもある。それなのに価格の安いコンパクトカーの「パッソ」を冠したから、ミニバンの顧客が買う気にならないのも当然だった。従来のトヨタでは考えられない数々のミスに驚かされた。
  2010年に発売された3代目ヴィッツにも驚いた。エンジンを始めとしてノイズが大きく、乗り心地は粗く、内装の質は低い。販売店のセールスマンは「これでは先代(2代目)ヴィッツのお客様に、新型への乗り替えを提案できない」と頭を抱えた。
  トヨタがクルマ作りを間違えた一番の理由は、商品開発が海外中心に変わったことだ。過去を振り返ると、トヨタ車は1970年代のオイルショックを切っ掛けに「燃費が優れ低価格で壊れない」ことを特徴として売れ行きを伸ばした。それでも国内販売が778万台のピークを迎える1990年頃までは、海外販売比率は約50%だった。デザインやサイズは国内の好みを反映させながら、走行安定性や乗り心地は海外のニーズに応じて進化させるバランスの良い商品開発を行っていた。
  ところが1989年に自動車税制が改訂されて3ナンバー車の不利も撤回されると、トヨタを含めた各メーカーとも、海外向けの3ナンバー車を国内でも売るようになった。バブル経済の崩壊もあり、国内の売れ行きが減って海外が増えた。その結果、トヨタでも国内と海外の販売バランスが急速に変わり、海外比率は1998年が約60%、2002年には約70%、2007年には80%を上まわった。
  この影響で、国内市場の洞察力が弱まり、商品にも陰りが見え始めたわけだ。市場が縮小気味のセダンは、マークXなどを筆頭に廃止されて車種のリストラが進んだ。売れ筋はカローラクロスやハリアーといったSUV、ノア&ヴォクシーのようなミニバン、ルーミー/ヤリス/アクアといった少数のコンパクトカーに限られる。販売系列も全店が全車を扱う体制に変わり、車種を減らしても成り立つ仕組みを整えた。
  トヨタが競争意識を控えたことで、ほかのメーカーの覇気も下がり、小型/普通車が売れなくなって国内は軽自動車中心の市場になりつつある。
  従って今となっては、トヨタがホンダを執拗にマークしていた時代が懐かしい。2003年に3代目オデッセイが背の低いボディで登場した時、開発者は「トヨタもここまでの低床プラットフォームは絶対に開発できない!」と胸を張った。ホンダの低床技術は、トヨタに鍛えられたのだ。
  今のトヨタはスポーツモデルも増えて、物わかりが良くなったが、怖さも薄れた。国内市場はヌルマ湯になり、売れ行きも伸び悩む。

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