この記事をまとめると
■新型軽電気自動車「日産サクラ」が2022年夏に発売されることが発表された
■重厚な路面接地感と落ち着いたハンドル操作感があり、まるで立派な高級車のような乗り味
■価格は233万3100〜294万円で、補助金を活用した場合は178万円から購入可能
日本にEVを普及させる特効薬として大期待
「軽自動車のEVではなく、アリア/リーフという兄を持つEV三兄弟の末っ子」としてサクラを位置付けているのだと、デザインをひと目見た瞬間に伝わってきた。三菱のeKクロスEVはガソリンモデルとほぼ変わらないデザインを採用していたのに対し、サクラは外板を作り直し、専用のデザインを与えていたからだ。
フロントフェイスは、アリアと共通のモチーフとなる光るVモーショングリルからシームレスに仕上げられ、次世代の日産車らしい存在感を放つ。無駄なものを削ぎ落としつつ、なめらかで豊かな面や、ノーズ先端からリヤエンドまで貫かれるシャープなキャラクターラインで、上質感とともに凛とした芯を感じさせる、大人の雰囲気をたたえていた。
軽自動車初となるプロジェクタータイプの3眼ヘッドライトや、格子に着想を得たワイドなLEDリヤコンビネーションランプ、日本伝統の水引をモチーフとしたアルミホイールなど、先進性の中にも確固たる歴史を秘めているような、重みのある印象となっている。
ボディカラーにもこだわり、アリアのイメージカラーでもあるアカツキサンライズカッパーをはじめ、四季の彩りを表現したツートーン4色を含む、全15色。名前のとおり、咲き誇る桜のようなブロッサムピンクも設定されている。
ドアを開けて乗り込んでみると、インテリアもデイズの面影がすっかり消え、専用のデザインとなっていた。7インチのアドバンスドドライブアシストディスプレイを採用したメーターと、9インチの大画面となったナビゲーションディスプレイを水平方向に置いたインパネは、もはや軽自動車の延長ではなくれっきとしたEVのそれ。シフトレバーもコンパクトな電制シフトに変えられている。
ゆったりとしたソファーデザインのシートは、肌触りのよいファブリックが前席・後席ともに使われているほか、乗員をぐるりと囲むようにファブリックがあしらわれて優雅な空間を作り出す。必要な収納スペースは確保しつつも、まったく生活感が出なさそうな洗練されたインテリア。
外観に通じる格子のモチーフがドアなどにもあしらわれており、デザイナーが伝えたい世界観が統一されている。カラーは「G」にオプションのやさしいアイボリーとなる「Premium」と、標準設定が「Black」および「Beige」。こうしたセンスの良さはデイズのときにも感じたが、それを上まわっているのがサクラだ。
メカニズムの基本的なコンポーネンツは三菱のeKクロスEVと共用なので、20kWhのリチウムイオンバッテリーを薄型のユニバーサルスタックにし、フロア下に敷くことでデイズと遜色なく広い室内空間を確保。当時、高級セダンのフーガの後席と同等だと謳われた、後席足もとの広さも健在だ。
シートアレンジも犠牲になっていないが、もともとデイズの後席が左右一体式のスライドなので、サクラも同様。
家族で使う場合には、左右別々でスライドができるほうが使い勝手が広がるが、サクラはパーソナルユースがメインだと割り切っているところもあるかもしれない。前倒し操作は5:5分割で左右独立してフラットにすることができる。また、シートヒーターはパッケージオプションとなっている。
補助金活用で実質178万円から始められるEV生活
さて、eKクロスEVは外観がそれほど変わらないため、走り出してからのほうがガソリンモデルとの違いに驚いたのだが、サクラは内外装からして特別感たっぷりで、すでに期待値はマックス。デイズのガソリンターボ車の2倍以上となる最大トルク195Nmに対して、最大出力は同等の47kW(=約64馬力)となっているのは、開発者いわく「本当はもっともっと出せますが、自主規制です」とのこと。
それでも、スタンダードモードで走り出せば、瞬時に力強い加速フィールが得られ、みるみるうちに一般道ではご法度な速度に到達する。今回はクローズドコースでの試乗のため、思う存分走らせてもらうと、もはや軽自動車に乗っている感覚はまったくなく、とても不思議な世界観。ボディは小さくても路面への接地感には重厚さがあり、ハンドルの操作感も落ち着いていて、立派な高級車の乗り味だ。
試しにエコモードに切り替えてみたが、市街地で40〜60km/h程度で走るならこれがピッタリと思えるほど、自然なフィーリング。今回、アクセルペダルのみで減速操作ができる「e-Pedal Step」も採用されており、それぞれのモードでONとOFFが使い分けられるが、エコモードではe-Pedal StepをOFFにするのがおすすめだと言う通り、スルスルとコースティング状態のように軽やかな走りが味わえた。
そして、スポーツモードにしてみると、背中をドンと押されたような強い加速感とともに、メリハリのある加減速。カーブでGをかけるような走りも、かなりスポーティに楽しめる。さらにe-Pedal StepをONにすると、もはやスポーツカーと言っていいほどのキビキビかつパワフルな走りに驚いた。本当は、これに加えてシフトレバーでのBモードも選べるため、組み合わせは多種多様。短時間の試乗ではとても試しきれなかったほど。
モード切り替えのスイッチが、運転席の右下にあって見えにくかったため、その理由を聞いたところ、多くのユーザーは自分のお気に入りの組み合わせを見つけると、ずっとそれを使い続けることが多く、あまりあれこれ変えることがないのだとか。そのため、サクラではイグニッションをオフにして再びオンにした際には、前回の設定をキープするようにしたというのも興味深い。
これまでのEVはどうも、未来感や非日常的な飛び道具に注目が集まりがちだったが、サクラはたまの休日にしか運転しない人ではなく、毎日のアシとしてクルマに乗る人の気持ち、行動に寄り添ったクルマづくりをしてきたのだなと、こんなところでも感じたのだった。
運転だけでなく、ガソリンスタンドに行くのが苦手で高速道路が怖いなど、クルマそのものに苦手意識がある人にこそ、EVは馴染みやすいと感じているが、そうした人たちをカバーするためにも、スイッチひとつで車庫入れをしてくれるプロパイロットパーキングをはじめ、プロパイロットなど安全運転支援技術はしっかり用意。
充電も、クルマを降りたら反対側に回ることなく、すぐに充電できるようにと、運転席側のリヤに急速充電と普通充電のポートを並べて設置している。充電時間の目安は、急速充電器で約40分(80%まで)、普通充電で約8時間(満充電まで)と使いやすい。航続距離も最大180km(WLTCモード)で、ご近所メインなら週に1、2回の充電ですみそうだ。
内外装はEVらしさと、軽とはまったく違う特別感があるサクラ。でも使ってみると、今までの軽自動車のように暮らしに寄り添ってくれるのだろうと感じる。自宅に充電器の設置が難しいマンション住まいの人でも、週に1度の充電で済むなら十分に使えそうだし、価格帯的にも現実的(233万3100〜294万円)。
アリアと並べて奥様や子供用の1台として車庫に置きたいというセレブもいるかもしれない。いずれにしても、「こんなEVを待ってました!」という人がどっと押し寄せそうな予感でいっぱいだ。