楽しみながら継続するための「環境づくり」に大切なのは“オンとオフ”

2021.03.05 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。3月5日の放送は、元体操選手の田中理恵さんが登場。両親への感謝、演技に対するこだわり、子育てで大切にしていることなどを語った。
■オンとオフの切り替えを上手く設定してくれた
両親が体操選手だったこともあり、小さい頃から体操に親しんできた田中さんは「家の中にあるトランポリンや鉄棒で遊んでいて、兄が先に始めていたこともあり、自然と“体操をやりたい”と思うようになりました」と振り返る。
体操を始めたのも、続けられたのも、両親による「環境づくり」の賜物だったという。「一度も“体操をしなきゃ”とは思いませんでした。学校が終わってから、みんながお友達の家へ遊びに行くのと同じ感覚で、体操をしに行っていましたね。両親がその感覚を大事にしてくれて、父には小学校のときからずっと“体操は遊びなんだよ”と言われてきましたし、私たちが“こういう技ができたよ!”と自慢したがるように考えてくれたんだと思います」。
そんな田中家で決められていたのは、「家の中で体操の話をしない」というルール。田中さんは「父は指導者でもあったので、体育館では“田中先生”でしたが、家では“お父さん”に戻るんです。両親がオンとオフの切り替えを上手く設定してくれたことで、ますます体操が楽しくなっていきました」と述懐する。
■プラスの言葉を、もう1人の自分からかけてもらう
2010年には初めて日本代表として世界選手権に出場。団体の5位入賞に貢献した。また、最も美しい演技をした選手に贈られるロンジン・エレガンス賞も受賞。田中さんは、受賞の影響について「人生が変わりました」と表現。「体操選手・田中理恵」の名前が一気に広まり、街を歩けば、見知らぬ人からも声をかけられるようになったという。
世間の注目は、田中さんの演技にも集まった。女子体操は、跳馬・ゆか・段違い平行棒・平均台の4種目で、技術の高さと表現力を競い合うが、身長140cm台の小柄な選手が活躍する中で、田中さんの身長は157cm。ダイナミックな技には不利な身長だということは、田中さん自身も理解していた。「難度の高い大技をしようとしても体がついてこないので、“田中理恵だけの体操”をしなければいけないとは思っていました。難しいことをしなくても、きちんと正しい体操をすれば結果に繋がると信じて、試合に臨んでいましたね」。
追い求めたのは難度ではなく、美しさ。長い手足を活かしたその演技は、多くの観客を魅了した。田中さんは「見ている方に感動を与えたかったので、体操の美しさや綺麗さにはこだわりました。あと、体操選手を目指している子供たちに、“体操は楽しい”ということも伝えたくて、楽しんで演技することを心がけました。もちろん勝ちたかったですけど、勝敗は後からついてくるものだと思っていたので」と話す。
勝利よりも優先したのは、「魅せたい」という思い。現役時代は、自分を鼓舞しながら、試合に臨んでいた。「“この種目をミスなくやり通せ、さぁ頑張ろう!”というように、もう1人の自分と会話しているような感覚。とことん、自分を励ましていました。“たくさん練習したから絶対に大丈夫!”など、誰かに言ってもらったプラスになる言葉で、もう一度自分に話しかけることもありました」。
ロンドンオリンピックへの出場も果たし、2013年には現役を引退。現在は3歳の娘を持つ母親として、育児や仕事に励む日々。家の中には、さりげなくトランポリンや鉄棒が置いてあるが、あまり興味は示してくれないという。「娘は鉄棒にぶら下がりたいという気持ちにもならないみたいで、私が興味を引こうとぶら下がってみても、“危ないよ”って冷静に言われちゃうんです」。
子育てで大切にしたいのは、自分が親からしてもらったように、子供の気持ちを尊重するということ。田中さんは「やりたいことがあるのであれば、まずはやらせてみます。大事なのは子供の意見で、やらせた結果、失敗してもいいんだなと思いました。毎日が勉強ですね。オリンピックに出るよりも難しいかもしれません」と笑った。
次回3月12日の放送は、バスケットボール元日本代表の吉田亜沙美さんが登場する。