他人の評価が気にならなくなる「自分軸」見つけ方

2021.01.22 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。1月22日の放送は、陸上男子200m日本記録保持者の末續慎吾さんが登場。走ることの魅力、オリンピックでの気づき、自身の信念などを語った。
■迷ったときの“決め方”は一つじゃない
日本選手権で6度の優勝を果たし、2008年の北京オリンピックでは男子4×100mリレーで銀メダルを獲得。40歳の今も現役の陸上選手として走り続けている末續さんは、「速くなることは楽しいですけど、もっと単純に、シューズさえあればどこでもできるのがこの競技の魅力ですよね」と話す。
末續さんが陸上競技を始めたのは、小学生の頃。校内でも抜きん出て足が速かったため、当時所属していたサッカー部の顧問の先生に、陸上への転向を勧められたことがきっかけ。中学、高校と競技に没頭していく中で、自分自身で進路を決めなければならないタイミングがあった。末續さんは進む道の決め方について、「僕には直感的に決める場合と、悩んで答えを出す場合の2パターンがあるんです。100分の1秒くらいで決めちゃうときもあれば、周りの人に話を聞いて情報を収集してから、修行僧のように1人になって徹底的に考えるときもあります」と明かす。
末續さんの物事の決め方については、こんなエピソードもある。「僕の家には犬と猫がいますが、犬は飼うまで本当に悩みました。“どうして飼いたいと思ったのか”を自分にプレゼンするイメージで何度も自問自答して、“犬と一緒に暮らしたい”と心から思えたときに、飼うことにしました。でも、猫はパッと見た瞬間に即決したんです。ペットショップの店員さんもびっくりして“いいんですか?”と聞いてきたくらい。決め方って一つじゃないし、その状況にふさわしい決め方があるんだと思います」。
■どこで他人の評価と“自分軸”の折り合いをつけるのか
陸上競技でも“オリンピックでメダルを獲る”と心に決めて邁進。しかし、北京オリンピックで念願のメダルを手にした瞬間に芽生えたのは、意外な感情だった。末續さんは「嬉しくなかったんですよ、メダルを獲っても。これまでの競技人生で作り上げてきた価値観が崩壊した瞬間でした。使命感や義務感の割合が大きすぎて、他人の期待以上に自分自身にプレッシャーをかけていたんですね。過負荷がかかって、走ることがただ苦しいものになっていました」と振り返る。
その直後に、末續さんは無期限の休養を宣言。「一度、陸上を自分の生活の中から外してみたかった。これまで当たり前にやっていたことが意外とストレスだったりすることもあるので、“当たり前”のない自分を経験してみるというのは、人として必要な作業だと思いました」。
休養期間は、さまざまな人とコミュニケーションを取り、自分の中にはない知見を吸収していった。そして、3年後の2011年に現役復帰。休養前と変わったのは、他人からの評価に対する意識だった。末續さんは「誰もが人の目は気になりますし、してもいいんですけど、どこで他人の評価と“自分軸”との折り合いをつけるかが大事だと思います。“ここまで気にする”という線引きをしておけば、あとは気にする必要はありません。逆に、自分が最も守りたいものさえ守っておけば、それ以外は“他人軸”でもいいのかもしれません」と語る。
末續さんが“最も守りたいもの”は、走ることの意味だった。「今まで断トツで1番でしたが、2017年の日本選手権では人生で初めての最下位。でも、そんな自分を笑えたというか“面白かった”と思えました。周りには“残念でした”と言われましたが、僕は残念だとは思わなくて、その瞬間に“あ、走ることの意味って自分で決められるんだ”と気づきました」。
今は走ることがとにかく面白いという末續さんは「スポーツって勝ち負けだけを競うようなものではなくて、もっと深いものがあると思います。そう感じているから、走っているし、だから今も現役なんです」と声を弾ませる。夢は100歳で100mを走ること。そのとき陸上競技の世界がどうなっているのか、今から楽しみで仕方がないという。
次回1月29日の放送は、1月に登場した上村愛子さん、永里優季さん、小椋久美子さん、末續慎吾さんが再登場。4人の「美学」を再び掘り下げる。