本当に強い人は「比べない勇気」を持っている

2020.08.07 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。8月7日の放送は、競泳元日本代表の伊藤華英さんが登場。ターニングポイントとなった大会や、心の支えになった言葉、引退後に大学で学んだことなどを語った。
■気持ちがダメな時は体を整えて、体がダメな時は気持ちを整える
高校2年生のときに世界水泳の代表に選ばれ、“女子高生スイマー”として注目を集めた伊藤さんは、大学進学後の2003年に日本選手権の200m背泳ぎで優勝。誰もが“伊藤華英時代”の到来を確信したが、本人にその自覚はなく、周りとの温度差に違和感を覚えることもあったという。
伊藤さんは「習い事の延長で水泳をやっていましたし、先生の言うことを聞いていれば結果が出ていたので、アスリートとしての自覚はなかったですね。学校では“凄い、凄い”と持て囃されるんですけど、自分がどこまで凄いのかは理解していませんでした」と振り返る。
まさに敵なしで迎えた2004年のアテネオリンピック選考会を兼ねた日本選手権。19歳の伊藤さんは、得意の200m背泳ぎに出場するが3位という結果に終わり、オリンピック出場を逃してしまう。「この時ほど辛かったことはないですね。“絶対にこの選手はオリンピックに行くはずだ”と期待されていたのもありますし、恥ずかしさと悔しさが一気に来た感じでした」。
甘かった自分を省みたことで、湧き上がってきたのは覚悟の気持ち。伊藤さんは「ちょっと遅いですけど、この経験があったからこそ、水泳に人生を懸ける覚悟ができたと思います。ただ泳いでいるだけじゃオリンピックには出られないと、身に沁みて感じました」と語る。
初めての挫折は、大きな成長の機会になった。伊藤さんは、水泳選手に限らず、活躍しているアスリートたちの練習法や考え方を取り入れるようになる。「尊敬する方はたくさんいるんですけど、特に野球のイチロー選手の言葉を参考にしました。イチロー選手が“気持ちがダメな時は体を整えて、体がダメな時は気持ちを整える”とおっしゃっていて、私は気持ちがダメな時が多かったので、体を整えて、気持ちを前向きにしていきました」。
■自分を認めて、褒めることができれば、他人は気にならなくなる
こうして、23歳で北京オリンピックに出場。メダルも期待された念願の大舞台だったが、結果は100m背泳ぎで8位、200m背泳ぎで12位。伊藤さんは試合後、「日本に帰れない」と更衣室で泣き出してしまう。
そんな伊藤さんの2度目の挫折を救ったのは、同じ競泳選手の言葉だった。伊藤さんは「海外の選手から、“なんで泣いているの? あなたはオリンピアンで、これまで辛いことがあっても乗り越えてきたんでしょ。私は、自分を誇りに思うわ”と声をかけてもらいました」と回顧する。
これまで「自分を誇りに思う」という価値観がなかった伊藤さんにとっては、まさに、目からウロコの言葉。「結果が出ないとダメだし、メダルを獲らないとダメだと思っていたので、その言葉で、今の自分が十分できていたら、それでいいじゃないかと思えるようになりました」。
4年後に迎えた2012年のロンドンオリンピックでは、怪我の影響から、背泳ぎではなく自由形に出場。結果は奮わなかったが、昔のような後悔はなかったという。伊藤さんは「こうすればよかったと思い残して引退するよりは、どんな結果になろうとも、100%の力を出し切って引退したかったので、自由形を選びました。おかげで前向きな気持ちで次に進むことができました」と、当時の心境を明かす。
そして、同年10月に現役を退いてからは、大学でスポーツ心理学を履修。伊藤さんは「私は現役時代からメンタルが弱いと言われていて、それはどういうことなのだろうと、ずっと知りたかった。結局、メンタルが強い人というのは、“人と比べない勇気”を持っていて、確固たる自分を持っている人のこと。自分で自分を認められれば、他人のことは気にならないと思うんです」と、持論を述べた。
2019年には結婚し、出産。育児もまた、自分を認めることが大切だと考えるようになった。伊藤さんは「子どもに対して“もっとできることがあった”、“ああすれば良かった”と思うこともありますが、同時に“あれは喜んでいたな”など、自分を褒めることも大事なんですよね。
自己満足でいいから、常に褒める部分を探しています」と打ち明け、「そう思える今が、一番楽しいです」と笑った。
次回、8月14日の放送は、女子プロゴルファーの成田美寿々さんが登場する。