「逃げ出したら二度と戻れない」将来、宝物になるかもしれない経験

2020.07.03 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。7月3日の放送は、元新体操選手の坪井保菜美さんが登場。5人1組で舞う競技である新体操団体の魅力、家族とのエピソード、現役を退いた今、夢中になっていることなどを語った。
■ミスがあって、むしろ強くなるチームの絆
2008年、坪井さんは10数人の候補選手の中から日本代表チームの1人に選ばれ、北京オリンピックの新体操団体競技に出場する。しかし、結果は予選敗退。坪井さんは「悔しい結果に終わってしまったけれど、“じゃあ4年後に向けて頑張ろう”とはどうしても思えませんでした。北京に向けて命をかけてやってきて、ここで満足できたら引退しようと思っていたくらいなので、また4年後となると、気が遠くなってしまったんです」と、当時の心境を明かした。
次に目指したのは、2009年の世界新体操選手権大会。日本代表チームは種目別決勝に進み、初の4位入賞を果たす。坪井さんは「北京と同じメンバーで、リベンジのつもりで挑みました」と振り返る。
競技中には思わぬミスも発生。しかし、それがむしろチームの絆を強めたという。「メンバー全員が絶対に大丈夫と言い切れる自信のある演技でしたし、途中まではほぼノーミスでした。ミスが起きて、私も含めたみんなが一瞬“どうしよう”という気持ちになったんですけど、すぐに切り替えていこうと。起きてしまったことは仕方がないのだから、小声で“ここから、ここから”と言い合いながら、グッと団結して踊れました」。
マット上で息の合った華麗な舞いを繰り広げる、新体操団体。坪井さんは「芸術的なスポーツなので、見ている人を魅了するような仕上がりを常に目指しています。点数は大事ですけど、むしろ点数を気にしないほうが高い点が出たりするんです。それに、5人の空気感の中では、踊れば踊るほど良くなっていくのが自然と分かるから、点数にはあまりこだわらなくなるんです」と打ち明けた。
■“良かった”と思える選択を、自分自身で
もともと個人競技の選手だった坪井さんは、当初、団体競技に不安を抱えていた。「他の選手に合わせなければいけないし、自分のペースで踊れないという難しさがありました。合宿ではすでに団体競技に慣れている子が何人もいて、でも、私は個人競技しかやったことがなくて……。悩みや辛い気持ちをメンバーやコーチに話せない性格だったので、最初は大変でしたね。表向きはけっこう強がっていたんですけど」と述懐する。
候補選手たちと衣食住を共にする合宿生活のメインは、毎日8時間の猛練習。心が折れそうになったときに救ってくれたのは、家族だった。「お母さんによく電話していました。私の言うことを否定しない親だったので、逃げ出したい私の気持ちを全部受け入れてくれるんです。でも、“一度帰ってきたら、二度と戻れる場所ではないし、もうちょっと頑張るのか、本当に帰るのか、最後の選択は自分でしなさい”といつも言われました。“この経験は絶対に将来宝物になるから、良かったと思える選択をして”とも言われ、その言葉を自分に言い聞かせて、練習を頑張ることができました」。
坪井さんは、2009年に現役を退く。新たに絵を描くことを始め、現在は真剣な眼差しでキャンパスに向かう日々だ。独特のタッチで、カラフルな絵を描き上げる。「新体操のときは、いろんな角度から踊りを見てもらうことで私を表現していましたけど、今は作品を見てもらうことで、私というものを表現できたらいいなと思っています」。
新体操も絵も、表現方法の一つ。まるでマットで舞うかのように、自由に筆を走らせる坪井さんは「私の絵で笑顔になったり、ほっこりしてもらえたらうれしいです」と声を弾ませた。
次回、7月10日の放送は、マラソン選手の岩出玲亜さんが登場する。