進むべきは、今までやってきたことをゼロにしない“プラス”の道

2020.02.21 22:30
俳優・田辺誠一さんが番組ナビゲーターを務め、ゲストの「美学」=信念、強さ、美しさの秘密を紐解き、そこから浮かびあがる「人生のヒント」を届ける、スポーツグラフィックマガジン「Number」と企画協力したドキュメンタリー&インタビュー番組『SHISEIDO presents才色健美 ~強く、そして美しく~ with Number』(BS朝日、毎週金曜22:00~22:24)。2月21日の放送は、元体操選手の岡部紗季子さんが登場。スランプのときに支えてくれた家族とのエピソードや、体操の指導者、とある別の競技、SNSによる発信など、さまざまなことに挑戦しているという現在の思いについて明かした。
■体操を辞めたとしても、次に繋がればいい
岡部さんが体操を始めたのは4歳の頃。メキメキと上達していき、2005年には全日本ジュニア選手権で個人総合優勝にも輝いた。「物心がついてから、ずっと体操に携わってきました」という岡部さんは、「選手としては、高校2年生のときがピークだった気がします」と打ち明ける。体操界のトップを走っていたのは、2年ほど。2008年の北京オリンピック日本代表候補にも名前は挙がったが、出場することは無かった。
ピークを迎えた後、突如として襲ってきたスランプ。岡部さんは「少し前にできていたことが辛く、苦しくなってしまって。体が重く感じることもありましたし、跳躍力も無くなっていた。高さが出ていませんでしたね」と振り返る。原因は本人にもわからなかった。「結局、スランプを抜けることはできませんでした。踏ん張れなかった」という岡部さんは、大学まで続けたのち、競技から引退することを決意。
そんな岡部さんの苦しみに、そっと家族が寄り添ってくれた。体操を辞めることを告げて、練習を休んだ日の朝、机の上に置かれていた父からの手紙には、「辞めたいなら、辞めてもいいんだよ。もし体操を辞めたとしても、次に繋がるようなことが出来たらいいね。今までやってきたことをゼロにするんじゃなく、何かプラスに出来るようなことを」と綴られていた。
その手紙を読んだことでスランプを受け入れ、前を向くことができたという岡部さん。22歳で引退してからは、体操の楽しさを多くの人に伝えるため、指導者の道へ。大学卒業後はカナダへ1年間のコーチング留学に行き、北米の指導スタイルを学んだ。岡部さんは、「向こうは選手が強いんです。日本では、監督やコーチの言うことが優先されますけど、カナダは選手ファースト。指導者と選手がお互いぶつかり合って上手くなっていくんです」と日本との違いを口にする。
練習中はぶつかり合うが、試合になると選手を褒めてモチベーションを上げる。そんな北米の指導スタイルに感銘を受けた。現在、幼年層の指導にあたっている岡部さんは、子どもたちと一緒に頑張って何かを成し遂げたときの達成感がたまらないと言う。「最初は逆上がりが壁だったりするんですけど、やり方を教えて、子どもたちができたときは、私も嬉しいんです。成長のお手伝いができて、すごく幸せを感じます」。
■好きなことを頑張って続けたら、必ずやりたいことが見つかる
現在、岡部さんは指導者以外にも、さまざまなことに取り組んでいる。昨年は、故・中村龍史さんが演出や振付を手掛けたスポーツミュージカル「energy~笑う筋肉~」に出演。さらに、障害物が設置されたコースでダイナミックなパフォーマンスを競い合う、パルクールという競技にも挑戦中だ。「もっと体を動かしたい」と思ったのがパルクールを始めたきっかけだったという。岡部さんは、「日本でも少しずつパルクールの名前が知られてきて、体操選手の引退した後の一つの可能性を示せたらいいなと、ちょっと思っています」と心境を明かした。
そして、叶うことのなかった夢をパルクールに託す。「パルクールはフランス発祥のスポーツで、4年後のパリオリンピックでは競技として採用されるかもしれないんです。体操では出場できなかったけど、もしかしたらパルクールの選手としてオリンピックに出場できるんじゃないかって。そんな少し先の目標もあったりします」。
体操を教え、自らもパルクールに挑戦。さらに街中や観光地など、さまざまな場所で逆立ちをして、写真をSNSに投稿する“逆立ち女子”としても注目を集めている。岡部さんは「逆立ちをすることによって、体操って親しみやすいということを表現したかったんです。友達と買物に行ったときとか、“あ、ここいいね”って逆立ちして、3秒くらいで写真を撮ります」と説明し、「次に逆立ちしたいのは、ウユニ塩湖。ごめんなさい、超普通ですね(笑)」と笑顔を浮かべる。
全ては大好きな体操から始まった道。父の手紙の通り、過去の経験をプラスにできる生き方を選んできた。岡部さんは「好きなことを頑張って続けたら、必ずやりたいことが見つかる。引退した22歳くらいの自分に、そう伝えたいです」と声を弾ませた。
次回2月28日の放送は、2月に登場した、永里亜紗乃さん、井口資仁さん、岡部紗季子さんが再登場。3人の「美学」を再び掘り下げる。